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俺と首輪の協騒曲  作者: ふぁふぁに~る
黒影と深森の練習曲
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異界の書架

とりあえず10万文字到達まではこのペースで投稿していきます。

 バケモノ同士の戦いに巻き込まれないよう走って走って、ひときわ大きな建造物の残骸の中へと駆けこんでいく。


 この中にはバケモノはいない、はずだ。


 俺にとって数少ない安住の地、前にここを訪れた時は、うっすらと見える太陽が真上から大きく傾くまでの間危険が俺まで及ぶ事が無かった。


「……まあ、それも結局……」


 長い間居座り続けると俺は死ぬ。


 原因は、全身を炎やら氷やらありとあらゆる魔法的要素で木っ端みじんにされるって事、どういう理由からそうなるのかは分からない。


 リミットは恐らく半日、これも推測でしかない。


 合計で半日なのか一度に半日なのかそれだって不明だけれど、安全地帯である事には変わりないだろう。


 そしてこの廃墟、日本のビルと洋館を足して二で割ったような不思議な作りの建造物には、地下への入口がある。


 その地下の先はこの荒廃した世界の中でも比較的綺麗に残っていて、更にはいくつかの書物すら残っていた。


「……よし、危険はないか……時間も、まだ余裕があるはずだ」


 けど大事を取って少しだけ休んだらすぐに抜け出した方が良いだろう。死にたくはないし。


 そしてここへやって来た俺には一つの目的があった。瓦礫の隙間に身を滑らせて、その下に隠されていた地下への階段へと身を潜り込ませた。


「……光れ」


 手の平を胸の前で上に向け魔力を集中させながら呟くと、手の少し上の風景が少しだけ歪みぼぅっと光の玉が現れる。


 電球よりも暗くて炎の光よりは明るい。それを光源にしながら昏い闇の中へと身を投じて行った。


 ここへ来るのは二回目だ。


 大まかな構造は分かっている。まあ恐らく前の俺を含めれば数えきれない回数訪れているんだろうが。


 この記憶を無くした死に戻りってのはまあ不便なもので、本当に感覚的な物しか残っていない。


 けどその感覚が実際に体験したことのように頭の中にこびりついているから、まるで記憶が残っているかのように振る舞う事が可能になる。


 そのせいで時折言い表せない程強大な不安感と恐怖に押しつぶされそうになるのは事実だけれど、それでもおかげで俺が生き残って来た事は間違いない。


 なんで俺がこんな目に遭わなければいけないのか。それはもう何度も何度も考えて、恨み、呪った。


 けどさ、納得している自分もいるんだ。


 俺は良くも悪くも普通。きっと世間一般で言われるチートのような力を突然手に入れれば腐ってしまうし、逆に無力の状態では戦う覚悟だって決まってない。


 だとしたらこの環境は、俺自身の甘さと戦う手段が皆無という状況の払拭にはピッタリなんだと。


「……この部屋、だよね」


 マンションのような作りの地下室には幾つものドアが左右に配置されていて、その幾つかには金縁の看板が彫り込んである。


 『管理室』『所長室』『倉庫』、結局ここが何の施設なのかは分からないけれど、単純な住居の類ではない事だけは確かだと思う。


 そんな中、右の一番奥の扉。『書斎』と書かれた扉に片手を添え、思い切り力を籠めた。


「んんッ」


 ギギィィィ……という軋んだ音と共に少しずつ開く扉。


 何とか人一人が入り込めるほどの隙間を作ると俺は中へと身を差し込んで、光の玉を自分の頭上へと移動させ壁にもたれ座り込んだ。


 どっと疲れが押し寄せて来る。


「はぁっ……少し、休める……いたたっ」


 睡眠は必要ない、食事も、水だっていらない。けれどそれが平気なわけじゃない。


 腹は減らないけど何も食べていないというのは違和感が凄いし、水を飲んでいないから喉が渇いて凄く不快だ、眠れないから心が休まらない。


 それに疲労は溜まるんだ。ずっと走り続けたからかふくらはぎはパンパンで、足裏は昨日からずっとジンジン痛む。


 更には全身に負った細かい怪我の後も俺の気が滅入る一因となっている。


 服を腰みのにして巻き付けているだけのほぼ裸、原始人や野生児のような肌をさらけ出した格好では少しの事でも肌に傷がついてしまうんだ。


 フウと一緒に異世界である程度の時間を過ごしたと言っても知れたもの。


 自分で言うのもなんだけど、日本という優しい世界でぬくぬくと過ごしてきた柔肌は傷つきやすいんだ。


 まあ……普段から青あざが絶えないくらい活発なフウはそんな事ないだろうけど。


 けど、それもあと少し……約束の三日間は終わりが見えて来た。


「あと……どれくらいかな。五時間とか、六時間とか……なんとか生き残れば」


 だけどそれがとても難しい事だと知っている。


 一時間に二、三度、もしくはそれ以上の頻度で命の危険に晒されるこの世界で、四半日など十回死んでも足りないくらいの危機が伴ってくる。


 今いるここだって余りにも例外的な場所だし長くいればきっと俺は死ぬ、だからいられて精々二時間くらいじゃないだろうか。


 だから、こうやって無駄に休んでる暇はない。身体を休めるにしても何か有意義な時にしないと……。


「あ、そうだ……あの本、読み進めるか」


 重い身体を持ち上げ再び二足で立ち上がると、近くの本棚へと歩み寄った。


 数多くの書物、『ああ愛しのロミュエーラ』『魔導力学技師資格準一級検定参考書』『成功を収める秘訣、成り上がり大貴族に学ぶ』……明らかに日本語ではない文字なのに不思議と読むことが出来る。


 微妙に気になるタイトルもあるけれど、今はそれに興味はない。


 部屋の一番奥の、一つだけ設置された妙に豪華な机。その上に置かれた一冊の書物。


 タイトルは『術式大全』。ひどくシンプルな真っ白の表紙にたったその四文字だけが書かれた粗末な一品。


 中を開くとそこには手書きでずらっと文字やらイラストやらが描かれていて、けれどその一頁目を見ればそれがどういう本なのかを知ることが出来る。


 この本は、この世界の今は亡き人類の至宝。知恵の結晶だ。


「……さて、勉強の時間かぁ……」


 幸か不幸かせっかく勉強というしがらみから解放されたのにも関わらず、こっちに来てまで勉強とか嫌になるよ。


 まあ強くなるために必要なら、仕方がない。俺は本のページを破かないようそっと捲った。

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