再会
『うーん、もうちょい粘れると思ったんだけど、プランを変更する必要があるなぁ』
ここは……どこだ? 辺り一面黒い空間。その他一切は無くて、ただ久しぶりに聞く声だけが響いていた。
意識の混濁する中俺は何があったのかと散らばる意識を纏めていく。
『魔導の才能があったのは僥倖だ、けれど……そうだね、足りないものが多すぎるか……これでは』
俺は、フウと一緒にいたはずだ。そしてあの黒い獣と戦ってて……いや、違う、戦ってたのはフウだけで、俺は全然、何も出来なかった……!
「……フウ……フウ!」
『お、ようやく収束したか。やあ』
「ッ、お、お前は!」
聞き覚えのある声をはっきりと認識した俺は思わず叫び声をあげてしまう。
じゃあ、この暗闇って俺があの世界に行く前と同じような場所って事か? なんで俺はこんな所に……あ、ああ、そうだ……っ、俺はっ……!
「俺……死んだの……?」
最後に残った光景は、こっちに向かって黒い塊が飛んでくるところ。
俺は何も出来なくて、そのまま……。
『いや、君は死んでないよ』
「え? じゃあなんでここに……」
『君が重傷を負いそうだったからねぇ」
「あ、そ、っか……」
じゃあ俺は、この声の奴に救われた……? けれど次の瞬間、そんな一瞬の謝意も吹き飛ぶ事になってしまった。
『今の君があれに被弾した場合、身体的及び魔力的欠損を引き起こして以降三日以内の生存率が0.01%未満に─る。RD─規約──常事態ガイド──ンに則──今回こう────て干渉───踏──』
「……え、は? なに?」
何を言っているのかは相変わらず分からない。最初の方はともかくとして、どんどん言葉が早口になっていくんだ、それもまず聞き取れるようなレベルじゃないくらいに。
けど所々意味が分かる単語から察するに、俺はあのままだと死んでいた……って事になるのかな。
「まって、まて、ストップ! ちょっと待ってよ!」
『え、ああ、ごめんね。圧縮言語に慣れすぎた弊害が……下位世界の子たちと話すのは難しい』
「とにかく! 俺は、俺は今どうなったんだ!? フウの所に戻して……ってか俺は無事なの!?」
『無事と言えば無事だよ。今のところはね』
「今のところ?」
『時間は止まってるから』
「なぁッ! ……いや、俺たちを転移させたんだからそれくらい……何でも出来るじゃん」
『いいや、何でもは出来ないよ。例えば過去には行けないし……それに、今は時間は止まったと言ったけど、それも正確じゃない。
正確にいうのならば、限りなく低速で動いている、と言った方が正しいかな』
「そうなんだ……」
誰が聞いても訳が分からない、まずあり得ないような事を平然と告げるこの存在の言葉は不思議と疑う気になれない。
何をしても、まあそれくらい出来るんじゃないかな、という思考が解決してくれてしまうんだ。
って、だからそれもどうでもいい事なんだってば。
俺のそんな考えが伝わったのか、いよいよ本題を語り出す謎の声。
『さてと、このままだと君は死んでしまう。けれどそれはこちらとしても問題だ』
「それも、フウの為?」
『そうさ。彼の才能は捨て置くにはあまりにも惜しすぎる。
一つの世界の寿命を間接的にではあるが縮めるような存在値……しかもたった個人の武力によってもたらされるそれを、ただ廃棄するだなんてポリシーに反するものだ。
だからこそ多大なリソースが割り当てられているし、そのリソースを用いて君というパーツをそちらの世界から取り寄せた。
けれどそれが徒労に終わるだなんて、ああ、あり得ない、あり得ないよ』
声だけでわかる、頭を抱え何かに心酔しているような不気味な感情。
なのに、本当に不思議なんだけどそれが何だか心強いように感じてしまった。同時に酷く恐ろしいものにも。
『だからこそ決めたんだ。残ったリソースを使って君というパーツを磨き上げる。
今の君は……言うなればそう、欠陥プログラム。必要な物も不必要な物もごちゃ混ぜで、更には必要な物が足りていない。
恐怖などという未熟な生存本能への耐性の低さ、痛みへの禁忌……偽善と欲望に塗れた平和への追求は、生きとし生けるもの全てに備わるはずの生存本能を限りなく鈍らせる』
「だ、だって、仕方ないじゃないか! 俺、フウと違って戦った事なんて……喧嘩の時だってせいぜい言い争うくらいで、殴った事なんて数えられるくらいしかないしっ!」
『それは理由にならないよ。
肉体的苦痛を避け、けれど精神的苦痛は多大……意味が分からない。
ならばこそ解決策は、精神的苦痛が肉体的苦痛への恐怖を上回らせる事……そうだろう?』
待て、待て待て待て。何だか凄く嫌な予感がして来た。
言っている単語の羅列、それらがあまりにも不穏過ぎる。
「い、いや。同意を求められても……」
『うん、それだけじゃ足りないね……フウくんは君がいないと何もできない。それは非常に良くない事だ。
せめて……そうだね。君と離れていても数か月は平常を保っていられないと問題だ。
……これは後で考えておくとして、今は君の事だ……』
半ば独り言のような口調で、けれど確かにこっちへ向けられたその言葉はついに途切れる。
少しだけ考え込むように僅かな音を漏らし、はっきりとした口調で訳が分からない事を言い出した。
『よし、君を別世界へと送ろう。そこで何度も死んでもらう事にしようか』
「……は?」
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