足手まといにはならない
俺たちはこっそりあの黒い獣が通った道を辿って、何とか後ろから追いつこうと森を歩いていた。
フウは奇襲したいそうだ、最初に手傷を負わせて後が楽になるとかなんとか。
「いちおー、オレもあんときおもいっきりブンなぐれたから、ちょっとはケガしてると思うんだけど……」
そういってこちらを見つめるフウ。
うん、言いたいことは分かる。俺を守りながら戦える自信がないんだろう。
けど俺だってただ足手まといになる気はないんだ。色々考えて来た。
「俺がなんも考えずに来たと思う?」
「んぇ?」
「フウってばさぁ……ホントに」
一緒に戦おうって言ったばっかりじゃん。
俺ってそんなに頼りないかなぁ、少し身体鍛えてみよっか。
「俺ってさ、フウの事治せたでしょ。だから色々出来るんじゃないかなーって思ってさ」
フウを抱きしめて……ってか目が覚めるとなんか逆に抱きしめられてたけど、目が覚めた時まだフウは目が覚めてなかった。
先に起きた俺は、フウより先に外で魔法の実験をしてみたんだ。
「やってみたらさ、今までの苦労が嘘みたいに色々出来たんだ。例えば……」
目の前に手をかざして魔力を操る。
イメージするのは風のトランポリン。周りから渦巻くように風が集まって、少しだけ風景がゆがんだ半不可視の楕円が出来上がった。
「なんだ、これ?」
「上乗ってみ」
見慣れないものに恐る恐る足をあげると、そのまま俺が作り出した風のトランポリンに足を乗っける。
その瞬間風は破裂し、フウの身体が一気に浮き上がった。
「うわっ!? わーっ!」
「ね、凄いでしょー。よっ、と」
「ふわ……」
上から落ちて来たフウの身体を俺は腕で抱いて止める。
腕の中のフウのキョトンとした表情に俺は自慢げな気分が沸き上がった。
今までの俺だったら高い所から落ちて来たフウの身体をこうやって普通に抱き留める事なんて出来るはずがない。
確かに俺もこのエルフみたいな見た目になって、ここでの生活のおかげで少しは筋力が上がったりしてるけど、流石に無理がある。
フウだって、向こうでは小学五年生だった。
ちっちゃい子供じゃあるまいし、そう簡単に持ち上がるような体重じゃないんだ。
けど、衝撃を殺せば大きな米俵を持ち上げるのと何ら変わらない。
落ちて来るフウの身体を風で包んで落下速度を下げて、今だって下から風を起こして少しだけ補助もしてる。
「すっげー……すげー!」
「あはは、ありがとー。けどあんまりおっきい声だしたらアレ来るよ?」
「あ、そっか。……にいちゃん、マジですげえっ」
そんな褒めるな、なんか照れくさい。
俺の身体にしがみついたまま小声ですげぇすげぇと囁き続けられて、羞恥心が限界になった俺はそのままフウの事を地面に下して魔法を解除した。
今のだって、色々試したうちの一端でしかないんだけどな。
……まあ、これはどうせ俺自身の力じゃない。あの変な声がどうせくれた力なんだろう。
じゃなきゃ有り得ないだろ、突然こんな事出来るようになるってさ。もしくは魔力があればみんな出来るんじゃないかと思う。
そもそも魔力って何なんだよ、それすらも分からず俺は力を使ってるんだ。
フウの獣耳や尻尾、俺の耳となぜか日焼けしない肌、超常の世界だからって突然こんな事になるなんてなぁ……。
あー、いけない。また俺の悪い癖が出てしまった。
一度そういう事考えだすと、ついつい気持ちがそっちに傾いちゃうんだ。俺は無理やり元に戻した。
「こんな感じにさ、俺もやってみたら色々出来たんだよ。だから足手まといにはならない」
「うん、うんっ。たよりにしてるなっ!」
もちろん、フウの足手まといにはならないよ。
それだけは嫌なんだ。俺が俺を許せない。
貰った力かもしれないけど、突然宿った力かもしれないけど……それでも俺はフウの役に立ってやる。
「あと、火をおこしたり、水を出したり……まあ、なんか風が一番操りやすいんだけどね」
風は魔力を使えば生み出せる。水だって魔力で生み出せるし、後は周りの水蒸気を集める方法を使えば効率よく操れる。
火だけは、少し苦手なんだけどな。熱運動をイメージしながら魔力を高速振動させてようやく小さな火の玉が出来るくらい。
それでも頑張って練習したんだ。だってこうやって生活する上で一番便利なのは火だから。
「火は危ないけどね……牽制くらいは出来るはず」
「あぶなかったよなー、あれはやばかった」
うん、一回マジで大火事になりそうだったから。思い出すだけで嫌な汗を掻く。
火の玉の操作をミスって思いっきり近くの樹にぶち当てて、それだけなら良かったんだけど近くに燃料の枯れ木を置いてたからそこに火の破片が引火して結果の大炎上。
何とか水を生み出して消し止めたからよかったけど、あれ手が付けられないことになってた可能性だってある。
ここらへん緑だらけだし……使うの怖いなぁ。
やっぱ風かな、風の刃とかまだ出来ないけど。あと水をぶっかけてやってもさぞ鬱陶しかろう。
悪だくみをしているとフウの足が止まった。
「……あ、にいちゃんっ、ストップ……」
「……いた?」
「おう」
フウと二人で木の陰に隠れて、そっと道の先を見つめる。
黒い獣の通った道は、草が押しのけられるような形になっていて、ここを黒い獣が通ったというのが丸分かりなんだ。
そしてその先に、ようやく目にした黒い影。
「……いくよ、にいちゃん」
「うん」
俺は斜めに風のトランポリンを設置すると、そこへフウが勢いよく飛び乗った。
ブックマークと、下の☆☆☆☆☆から評価の方よろしくお願いします。




