side:フウカ 毎夜直、オレだけが知っている
一日二話投稿、一話目です。
またにいちゃんが眠ってしまった。
食い千切られたはずの肩はもう痛くないし、多分血がたくさん抜けたからだと思うけど少し肌寒いのだって、にいちゃんのおかげで寒くない。
にいちゃんが治してくれたんだろうな、それ以外に無い。
「……なおってる……よな」
自分の肩を触ってみても別に変な感じはしない。問題なく動くしほんとにケガなんてしてなかったみたい。
大好きなにいちゃんの匂い、大好きなにいちゃんの温もり、大好きなにいちゃんに抱きしめられてこうやってオレはまた眠ろうとしている。
安心して、全てをにいちゃんに任せたくなってしまう。
それじゃ、ダメなのに。
「……ん」
にいちゃんは分からず屋だ。
これじゃ、意味がない。にいちゃんの幸せとオレの幸せが釣り合ってない。
守りたいんだ。今まで守ってもらった分、今度はオレが。
「……にいちゃん、だいすき……でもオレは……」
オレはオレが嫌いになりそうだ。
にいちゃんを少しでも楽させてやろうと森で色々な物を集めて来たのに、このざま……。
すっごく心配させたし思い切り泣かせちゃったし、何よりオレが死んだらにいちゃんも死ぬ。
にいちゃんを殺してしまうところだった。自分が死ぬよりオレはそれが辛いんだ。
きっと、にいちゃんからしたら逆なんだろうな。
「すぅぅ……にいちゃぁん……」
にいちゃんが眠った後の、例のあの発作が起きるまでの少しの間、オレは悪いと思いつつもその胸に鼻を埋めた。
───
「うっ、うぁぁ……ひぅっく、とぉ、さん……」
「っ、お、オレ、オレがいるよ。ほら、ぎゅー……」
「ん、ぅぅ……」
にいちゃん、自分は何でもないよーって感じにオレに言ってきた癖にさ、やっぱり寝てるときには泣くんだよ。
なにが辛い事は全部俺に言えだ。それはこっちのセリフだっての。
にいちゃんの腕の中から抜け出して、今度はオレがにいちゃんの頭を抱きしめる。
そして頭を撫でながら「いーこいーこ」って囁き続けてやるんだ。
最初のころとは違って、こうやってやれば少しだけ収まってくれるようになった。
オレは悪い子だから、泣く原因を作ったのがオレなのにこうやって泣き止んでくれるのがたまらなく嬉しく思っちゃう。
「っ……」
……やっぱりオレは、オレが嫌いだ。こんなのサイテーじゃんかよ。
それにさ、もっとオレの身体柔らかかったら良かったのに。
身体動かすの楽しいし、にいちゃんの役に立ちたくてついつい動いちゃって、身体が締まっちゃうオレだけど……もっと柔らかかったらきっとにいちゃんももっと気持ちいいはず。
周りの奴らって大体オレより身体鍛えてないだろ? だから、プールの時間とか明らかにオレより柔らかそうな奴多いもん。んで、それが普通なんだと思う。
だとしたら、オレは……女の子に産まれてれば良かったのかな。
それに女の子だったらさ、にいちゃんと夫婦になれたのに……。
「……っ、ばっ、お、オレ……なんつーこと……」
絶対にいちゃんには言えないよこんな事、絶対気持ち悪がられるしそもそも何考えてんだオレ。
あー、マジで恥ずかしい……。血が足りてないはずなのに顔があっつい。
「う、んん……フウ……」
「にいっ……! オレ、オレいるよっ……!」
にいちゃんに寝言で名前を呼ばれた。凄く嬉しいな。
「おれ、に……まかせ……」
それはヤダ。けどオレってにいちゃんのペットだから、言う事聞かなきゃ……。
にいちゃんはオレに笑っていて欲しいって言ってたっけ……それだけで良いのか本当に不安になる。
だって、オレはにいちゃんといるだけでついニコニコしちゃうんだぞ?
でも、そっか……じゃあにいちゃんの前ではもっと笑うようにしよっかな。
あと、思った事をもっと言って……辛かったりしても言って……よし、分かった。
にいちゃんが困るくらい言ってやる。迷惑はかけたくないけど自分で言ってきたんだ、オレがいっつもどんな気持ちでいるのか知ってもらいたい。
オレの事はなんでも教えてあげるから、だからにいちゃんの事も全部教えてよ。
「ね、にいちゃん」
「すぅ……」
「オレ、にいちゃんと居るとすっごい安心して、なのに胸がドキドキするんだ」
後で起きた時に言ってやる。でも寝てる時にも言ってやる。
「にいちゃんに頭をなでられると、ふわふわーってなって、腹をなでられると……身体ぜんぶがキューッてなる。
にいちゃんのにおいをかいだらギューってしたくなるし、こーやってくっついてたら、もっとくっつきたいって思う」
オレは身体を更に摺り寄せる。
「だいすき、すき、すきだよにいちゃん。にいちゃんも、オレのことすきかな……すきだと良いな。
オレにはにいちゃんしか居ない、にいちゃんにもオレしか居ないってなってほしい。思って欲しい……。
にいちゃんの全部に、オレ、なりたいんだ」
贅沢かな、オレの願い。
でもそれは紛れもなくオレの本心で、にいちゃんが求めたオレの心の全部。幼馴染であるオレとにいちゃんの関係を超えた、誰がどう考えても重すぎるオレの気持ち。
今のオレは、ただのにいちゃんのペットだけどさ、いつかもっと、それ以上になりたいから。
抑えきれないかもしれない、暴走しちゃうかもしれない、だからさにいちゃん。
「ちゃんと、オレのこと飼いならしてね」
にいちゃんも落ち着いて眠りにつく前に、もう一回だけにいちゃんの事を抱きしめた。
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