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俺と首輪の協騒曲  作者: ふぁふぁに~る
黒影と深森の練習曲
20/56

相思

「──ん、にいちゃん」


「ん、んぅ……」


 頭が重くて、身体は少し寒い。今までずっと身体の中を駆け巡ってたはずの魔力が殆ど感じられないのも違和感だ。


 でも、顔だけは温かい。それと手のひらも温かいものに触れていて……何かじゃないな、これはフウだ。


「フウ……?」


「あ、おはよにいちゃん。えっと、ごめんなぷっ!」


「フウっ! うぅぅ……!」


 目が覚めるや否や、俺はフウの事を思い切り抱きしめた。


 良かった、本当に良かった。やっぱりちゃんと俺はフウの事を助けられたんだ。


 年甲斐もなくフウの胸に頭を押し付けて、思い切り小さな体を締め付けてやる。


「んぉっ、に、にいちゃん……へへっ、ほんと、ごめんなさい……」


「よがっだぁ……フヴぅぅぅ……!」


「んっ……ありがと……」


 普段だったら絶対恥ずかしくてやらないだろうけど、俺には抑える事なんて出来なかった。


 フウの胸が濡れるのも気にせず、背中に優しく回してくれたフウの腕に安心感を覚えながら俺は泣きじゃくる。


 自分でももう何が何だかわからなかった。


「あ゛あぁっ、うぁぁぁあああっ!」


「……ありがと……まじでありがと……ライにいちゃん……」


 気を失う前の恐怖感やら喪失感やらもう色々ごっちゃになってた俺の気持ち。


 ずっと抑えてフウに注ぎ込んでいたソレを全て開放するように俺は声を上げ続けた。


「んふふ」


「うっ、ううううっ」


 フウの手が俺の頭に乗って、優しく上下左右に髪の毛をくしゃくしゃ動かしてくる。


 いつも俺がフウにやってあげてる事だ。でもそれは全部言うなれば子ども扱いに該当する事で、俺がやられるとなると途方もなく恥ずかしい。


 多分、俺の顔は今真っ赤だ。


 泣きすぎて息が苦しいのと、絶え間なく襲い来る嗚咽で上手く息が出来ないのと、頭を撫でられる羞恥心。


 なのに不思議と嫌じゃない。それどころか安心するような……。


「にいちゃん、なんかあかちゃんみたいだなっ……オレのこといえねーじゃん……」


「ち、ちがうぅっ……だって、フウ、フウがぁ……!」


「ちがわねーよ? ……ま、オレはべつにいーけど……つーかもっと、オレにこーやってくれても、いーってゆーか……」


 それは俺が嫌だよ……だって俺がフウを守るんだ。


 フウにこうやって泣きつくなんてみっともなさ過ぎる。俺は泣きつかれる側になりたい。


「やぁ……それ、俺が、いやだぁ……」


「んむぅ……じゃーこーしてやる! おりゃっ……」


「うぉぅっ……うぁぁ……」


 あったかい。


 フウに頭をより強く抱きしめられて、頭を抱えるように撫でられる。


 後頭部をさすられると嗚咽が余計ひどくなるし、更に更に気が緩んで涙が溢れて止まらないんだ。


 ほんとに、俺情けないなぁ……あんな死に際にまでなったフウはこんなピンピンしてんのにさ……。


「ひっく、すごいね……フウはっ……うっく」


「ん、なんで?」


「だって、俺なんかっより。ずっと、痛かったし、辛かった、よね?」


「……ん、いたかった……にいちゃん来てくれたとき、ゆめだって思った」


「そっか……がんばったね……あ、あはは、こんな格好で言ってもなんかアレだけど」


 話しているとようやく嗚咽も収まり出す。


 まだ声は震えるし息だってしにくいけど、途切れず話せるようにもなってきた。


 気恥ずかしさを誤魔化すようにさっさと頭を離そうとした俺だけど、それは他ならぬフウによって阻止される。


「えっと、フウ……?」


「オレ、しんだと思った。んでオレがしんだらにいちゃんもしぬから、ほんとに、ごめんって……オレがぜんぶわるいんだって……」


「……」


 なんだ、フウも全然大丈夫じゃなかったんだ。


 頭を抱き枕みたいに抱きしめられて、同じく抱き枕みたいに顔を埋められる。


 頭の匂いを嗅がれているようで気恥ずかしさは強くなるのに拒絶しようとは思わない。頭皮に触れる濡れた感触が原因なのかな。


「にいちゃんがこっちにきたのは、オレのせいだ」


「それは……」


「にいちゃんはオレとはちがって、ちゃんとした家族がいたんだ」


 何か慰めの言葉や否定の言葉を探したけど、何も出てこなかった。


 ただ、静かに言葉を聞くことしかできない。


「オレはにいちゃんさえいれば、他になんもいらねーけど……にいちゃんは、そーじゃなかった。だよな?」


「あ、いや……そんな、事、は……」


 ……言い切れない。だって言い切ったらフウに嘘を付くことになる。


 俺は、フウ以外にも大事なものはあった、大事な人はいた、一緒にいて楽しい友達もいた。


 母さんの料理は好きだったし、出張が多い父さんの土産話を聞くのは幾つになってもワクワク感を抑えきれなかった。


 フウは、俺にとって弟みたいなもので、それと同時に友達でもあって、更に一緒にいて楽くて、癒してくれて、反応の一つ一つが娯楽になる。


 けど……俺はフウに俺の全てを投げ出す程の重きを置いていたわけじゃない。


 そんな俺の逡巡に気が付いたんだろう、フウは聡い子だから。


「いーよ……おかしいのはオレだから。それはわかってる」


「フウ……俺……っ、あ、いや……」


「でもね、きーてにいちゃん」


 フウの手から頭が解放される。そうして俺たちは顔を付き合わせた。


 俺は思わず息を飲む。真剣なフウの瞳はオレンジ色に淡く輝いていて、俺の言葉を吞み込んでしまった。


 泣き笑いのような顔の大粒の瞳は涙でキラキラ輝く、少し湿って見えるのは流した涙のせいだろう。


 耳も尻尾も元気なさげにへにゃりと垂れて、口からは悲しげな声で俺に言う。


「オレにはさ、にいちゃんしかいないんだ」


 ダメだ、フウにこんな顔させちゃいけない。俺がこっちに来るのを決意したあのフウの顔と今のフウの顔が繋がる。


 フウには笑っていて欲しいんだ、笑うフウは俺まで楽しい気分にさせてくれるんだから。


 どんなに辛くてもそれを見れば吹き飛ぶくらい


 胸の奥がキューッと閉まる感じがして、整い始めてきた心がぐちゃぐちゃになり始めて、俺までまた泣きそうになってしまって……。


「……ん」


「じゃあ、俺がそばにいてやるから……っ。フウもさ、俺から離れないようにしてくれよ……?」


 今度は俺から、もう一度フウと身体をくっつけた。

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