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俺と首輪の協騒曲  作者: ふぁふぁに~る
黒影と深森の練習曲
19/56

危機

本日二話投稿の二話目です。

 あの日以来俺はフウの居場所が何となく分かる。


 とは言っても正確な距離が分かる訳じゃなく、大体どの方向にいるか、近いか遠いか、そういったアバウトな情報だけ感じ取ることが出来た。


 だから俺は、わき目も振らずにフウのいる方向へと駆けていく。


「……っ、はぁっ、ふぅっ……!」


 なんだこの悪寒は、本当に気持ちが悪い、他の何も考えられなくなる。


 今すぐフウを抱きしめたいんだ。フウを慰めるためとかそういう理由じゃなくて、ただ俺の心のために。


 長めの草を裸足で駆け抜けると足の裏に小石が少し刺さるけど、それだってもう慣れた。


 それに今は気にしてられない、もうすぐ、あと少しでフウのところに……!


「ふ、フウ!」


 やっと見えた木々の中にある小さな影は、ゆっくりこっちに歩いて来ている。


 思わず声を上げるけど反応してくれない。ただゆっくりこっちに来るだけだ。


 様子がおかしい、俺は急いで駆け寄って、そして息を飲んだ。


「っ! ちょ……!? おまっ、何で……!」


「に、いちゃ……?」


 俺は急いでフウの元に駆け寄った。


 力なくその場で起立するフウの肩を掴んでハッとする。


「あ、ああ……!」


「いつっ……へ、へへ」


 右肩から感じたぐにゃりという柔らかく熱い、湿った手触り。俺の手もフウの肩も、不吉な赤色に染まっていた。


 脂汗をダラダラ垂らしながら力ない笑みを浮かべるフウの肩は、骨が見えるほど抉れている。


 震える俺の手と、フウの身体。


 重力に逆らうことも出来ずに倒れたフウの身体を抱き留めて、俺は言葉にならないうわ言を絶えず漏らしながら全速力で家に戻った。


───


「大丈夫、大丈夫だよっ。俺が絶対助けるからっ」


 意識のないフウを横たえたベッドの横で、俺は必死にその手を握る。


 服を脱がせて身体を見ても、細やかな傷はいくつかあったものの大きなケガはこの肩だけだった。


 まあ、その肩のケガが致命傷レベルだから一切安心する要因にはならないのだけど。


「まずは、傷口の圧迫……んで心音確認して、息もちゃんとしてる……」


 腕の傷口は水で洗い流して、止まらない血は何重にも重ねた厚皮で圧迫して止血しようと試みた。


 運よく筋肉は抉れてなかったけどそれでも筋繊維が丸見えだった腕は、そうとう深くまで食いちぎられたんだと思う。


 だから完璧な止血ってのは難しくて応急処置の域を出ない、皮の隙間から時折漏れる血に焦燥感が止まらない。


 フウの拳には少し向けた皮と、にじんだ赤い血、そこに引っ付いたままの謎の黒い毛があった。きっとフウも応戦したんだろう。


 ある程度緩くはあったものの何が起こるか分からない異世界の森暮らし、何度も何度も何かしらの非常事態が起きた時の応急処置の事は考えていた。


 冷静とは程遠い心境でも、ただフウを助けるための行動を俺は取る。取らなければならない。


「えっと、次は、次はぁ……! あ、そう、魔法でっ」


 魔法は色々なことが出来る。例えば火をおこしたり、水を出したり光を放ったり。


 だからきっと、ケガを治す魔法だってあるはずなんだ。


 一か月の鍛錬でわかったのは、イメージが大事だって事と魔力の操作によって効率が変わる事。


 その二つを重視すれば、俺なら、俺なら出来るはずだっ。


「んっ……! ダメだよ、絶対に死んじゃダメだからね……!」


 魔力の球を幾つも作り出しては傷口に入れる。イメージするのは……。


 するのは、なんだ?


 何をイメージすればいいんだ? 傷を一瞬で治すとかどうすれば良いのかわからないっ。


「あぁぁ……! と、とりあえず、えっと、えぇっと……そう、血、止血しないと!」


 血が出なければ死ぬことはないはずだ。幕を張るように周りの魔力を搔き集めて強く止血をイメージした。


 まずは完璧に止血しないと。家に連れ帰る間にも血の跡が出来るほど流れ出てるし、今も圧迫した隙間から血が流れている。


 もうかなりまずい状況だ。フウの意識はとっくにないし、身体は何だか冷たい。


 胸に耳を当てると聞こえるのは弱い心音、普段の力強い音とは全然違う。弱っているのが伝わってくる。


「はぁっ、フウ、死なないでよっ、絶対死ぬんじゃないよっ」


 俺の身体の中にある魔力だって無限じゃない。


 使いすぎるとどうなるのかわからないけど、全てを注ぎ込むつもりで絞り出す。


「いけそうっ……もっと、もっとっ!」


 傷口がボゥッと淡く輝きだした、その分俺の中から大量の魔力が漏出していくのも同時に感じる。


 傷口を覆う皮を剥がして患部に直接手をかざす。辺りを覆う鉄臭さと真っ赤に染まったフウの肩。


 両手で傷口に魔力を送り込み続けながら、また別に水を出現させる。血を洗い流して傷口の様子を観察する。


「……っ」


 少しずつ、肉が盛り上がってきた。丸見えだった筋肉に薄皮が覆うように出ているのが見える。


 それでも薄いピンク色、少しずつ湧き出る赤色もまだ見える。


 でもあともう少し、もう少しだ。なのに……!


「まずっ、意識がっ……」


 まだ外は明るいのに目の前がどんどん暗くなってきた。視界がぼやける。


 身体がだんだん冷えていく感覚……それと同時に薄くなる、自分の中の魔力。


 魔力が無くなると意識が落ちるとか……? 試しておくんだった……。


 でも、その前に絶対終わらせる。


「くぅぅぅぅっっ……!」


 唇を思い切り噛んで落ちそうな意識を無理やり持ち直して治療を続けた。


 ブレる視界と身体の力が抜ける感覚、フウのお腹に頭を埋めるように倒れながら、何とか動く手で傷口を触った。


 足りない分は身を削ってでも、吐き気と頭痛に苛まれながらも限界ギリギリまで力を引き出し、どれくらい時間が経っただろうか。


 俺はついに、フウの腹へと頭を落とした。


 けど、それでも俺は。


「……は、はは……やって、やった……」


 もう新しく血は出ていない。


 少し冷たいフウの体温と呼吸のたびに優しく動く腹筋に頭を揺すられる。


 そういえば……フウが死ぬと俺も死ぬんだったっけ。今思い出した。


 じゃあ、そっか。フウだけじゃなくて俺も助かったんだ……。


 なんだか無性に安心感が俺を包み込んで、抵抗する事もなくそのまま意識を落とした。

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