魔法と日々の暮らし
一日二話投稿、一話目です。
座り込んで目を瞑っていると、特に周りの空気た魔力をよく感じられる。
空から差してくる陽光に肌を焼かれるけど、不思議と俺はフウカのように日に焼けることがあまりない。
小麦色くらいにはなっててもおかしくないのに全然白い、インドア派の俺はもともと日に焼けていなかったけど、その頃と何も変わっていないんだ。
もう一か月も経つのにな。
「……ほっ」
体内の魔力を操って種にすると、そこに空気中の魔力を纏わせて一玉の火を作り出す。
その状態でもう一つ種を作り出すと、今度はそこに水の球が出来上がった。
「よぉし、だんだん出来るようになって来たな……次はもうちょっと火の温度を……」
「にいちゃーん、とってきたよー!」
魔法の練習から俺を引き戻したのは聞き慣れた高い声、平均よりも低いのに鋭いナイフを思い起こさせるくらい引き締まった体躯を持つフウの姿。
その両手には俺が普段主食にしてる木の実と引きずってきてるのは鹿のような原生生物。
フウはあんまり木の実を食べず、俺は逆に肉を食べれない。
俺たち二人分の食料を採ってきてくれるフウには頭が上がらないよ。
全体的に薄汚れた風貌のフウに、俺は水の球を操りながら声を上げる。
「フウー、服脱いでー」
「はーい!」
俺の言う通り服を脱ぎ去ったフウ、といってもパンツ一丁だったけど、それを脱いだフウに水をバシャりと掛けてやる。
その状態でフウの身体を起点に水を回転させると汚れが良く取れる。
俺の魔法の練習にもなるしフウの身体も綺麗になる、一石二鳥だ。
森の中を駆け抜ける穏やかな風が素肌を撫でて包み込む。少し前だったら「うひゃっ」とかそんな変な声を上げていただろうけど、すっかり慣れてしまった。
相変わらず新しい服は持ってなくて、いよいよ俺の来ていた服もフウが来ていた服もかなりまずい事になって来ている、だから森に入るときはパンツだけで行くようにしてる。
引っかかるものが多い森の中であんな目の粗い服なんて来てたら、ほつれてどうしようもない、実際かなりほつれちゃってるしな。
今じゃすっかり慣れてしまった。最初は気恥ずかしかったけど、今は何とも思わない。
「んじゃ頭洗うよ、耳塞いでね」
「んっ」
身体を包み込んでいた水を頭にもっていって、髪の毛を重点的に洗う。
徐々に伸びてきた髪の毛もそろそろ切らないとな、前髪が鬱陶しそうだから。
「タオルが欲しいよねぇ、でもそんなもの無いしなぁ」
全身びちゃびちゃ、極力水を散らせたとはいえ未だに濡れたままのフウの手を引っ張って家の中に入る。
……んー、薄いけど濡れた獣の匂いがする。石鹸も欲しいよ。
獣の皮を剥いで綺麗に洗った毛皮の山、その中から特にボロの物を手に取ると、フウの全身に巻き付けた。
「ごわごわー!」
「まあね、肌触り悪い」
けど暖かい。藁のベッドにも敷き詰めて、少しだけ寝心地が良くなった。
少しずつ俺たちの生活は改善していってるんだ、まだまだ文化的じゃない原始的な生活だけど、命の危機は首輪の時以来感じていない。
ここら辺には外敵がいないのかも。
……そう油断していたのが悪かったのかもしれない。
───
基本的に俺は小屋にいて、フウは森に出かけている。
暮らしていく中で俺にできることと言ったらそこらに生えてた草やらでちょっとした道具を作るくらいで、フウはその材料や食料を採ってくる係だ。
枯草を編み込んで歯ブラシのようなものを作ってみたり、魔法の練習に時間を費やしたり、後はそう、毛皮の処理とかだな。
だから今も、丈夫な根を片手に道具を織り込んでいた。
「……ん? なんだ?」
集中していたからこそ些細な違和感にはすぐに気が付く。
良く分からない違和感を感じて胸の辺りに手を置いたけれど、そこには俺のみぞおちがあるだけ。
ただ見た目上は何もなくても、安心は出来ない。何せここは異世界だ、何が起きるかわからない。
「……なんか、気持ち悪いな……」
胸の中に感じる泥のような何か、それはジュクジュク蠢いていて、なのに不思議と害は感じない。
もっとより強く感じようとすればするほど存在感が増してくるそれ、俺の魔力にへばりついているような……。
この魔力の源は大体胸の中心、心臓の辺りにある何か玉のようなものだ。
見たことはない、これが何なのか知識があるわけでもない、ただそこにある事だけは不思議と確信できる謎の内臓らしきもの。
淀みはそこにある気がした。
……後で良いか、とりあえずは今やってる作業を終わらせてしまおう。
そう思って手元に目を移した瞬間俺は再び違和感を感じる。
「……っ、な、なんだ……」
いいや違和感なんてもんじゃない、これは悪寒だ。さっきのとは本質的に違う。
体調は何も悪くないし視界も意識もスッキリしてるのに嫌な汗が止まらない、鳥肌が首筋にぞわりと吹き出てきた。
何か大変な事が起こっているような……わからないけどそんな気がする。
もうこんな作業なんてやってられない。
「フウ、フウっ……!」
焦燥感に駆られたまま俺は小屋を飛び出す。今すぐフウに会いたかった。




