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俺と首輪の協騒曲  作者: ふぁふぁに~る
黒影と深森の練習曲
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望郷の空

 空もすっかり暗くなって、俺は窓から身を乗り出して空を見ている。


 夜空すらも地球と違って、でも美しさだけは変わらない。それがなんだか……。


 そう、哀愁を誘う。


「……」


 父さん、母さん、何してるかな……。


 良く小説とかで使われる、同じ空の元、云々かんぬん……。同じ空じゃないから俺には当てはまらない。


 見ていてもノスタルジックな気持ちは収まらない、むしろ空しくなるだけだ。


 でも、ついつい見ちゃうんだよなぁ。


「にいちゃん」


「ん、どした」


「……や、なんでもない」


 そっか、それなら良いや。


 空に流れる青い光、流れ星というよりほうき星かな……こっちに来てからはよく見るんだ。


 地球じゃそうそう見れるもんじゃない。幻想的な現実離れした風景が現実じゃなかったら、今もフウと一緒にあの世界で、ゆっくりと過ごしていられていたらどんなに……。


 ……はぁ、やめよ。最近こんな事ばっかり考えてるな。フウは向こうに戻りたいなんて事、きっと考えていないだろうにさ。


「ねえ……」


「ん!? なんだなんだ!?」


「……俺も、なんでもない」


 そう、考えているわけない。フウには今の生活の方が多分向いてるんだ。


 それにフウは俺と違って、向こうに帰りたいって思う理由がないんだろう。


 良くも悪くも、フウは俺に依存してしまっている。そして俺もそれが嫌じゃない。


 一見すると俺たちの相性は良いし、実際に上手くいってる関係だ。


 ……この悩みは全部、俺に問題があるんだよな。


 もう一度空を見上げた。


 魔の力に満ちた世界は魔性の魅力を放っていて、きっと俺はいつかそれに魅了される。


 きっといつか、前の世界の事なんて薄れていってしまうと思うんだ。


「……フウ」


「ん?」


「そろそろ寝よっか」


 頷くフウと一緒にベッドに座り込むと、隣の小身が俺の肩に頭を押し付けてくる。


 ふわふわの獣耳、触り心地のいい髪の毛。まだ幼いフウからは、あまり清潔とは言えない生活のはずなのにおかしな匂いは殆どしない。


 それどころか安らぎすら覚えてしまう。こんな小さい子に、もう高校生にもなった俺が。


 ……ああ、そういえばこの首輪の事もわかったんだ。持たされたあの説明書に文字が追加されてた。


 とんでもない事が書かれてたから読んだ瞬間は思わず声をあげてしまうほどだったけど、フウはむしろ嬉しそうだったのが印象的だ。


 首輪の名前は、『繋魂の輪』。魂と魂を無理やりつなぎ合わせる危険な魔道具。


 魂って言われてもピンとこないけど、要するに俺とフウは魂レベルで繋がったらしい。


 どちらかが死ねばもう片方も死んで、お互いの位置が何となくわかる。


 俺の付けてる腕輪の方が上位らしくて、やろうと思えばフウに絶対命令を下すことも出来るとかなんとか、そんな事しないけどね。


 だから名実ともに、フウは俺のパートナーになってしまったらしい。ペットなんかじゃないだろこんなの。


 本人はペットみたいに扱ってほしいみたいだけど。それよりもっと、深い関係になってしまった。


「にいちゃん、おなかなでて?」


「ん、いいよ。お腹出して」


「はいっ!」


 フウはお腹を撫でられるのが好きだ。


 抱き合った状態で服をぺろーんと捲り上げ、曝け出される縦筋入った腹筋を手で滑らすと、本当に幸せそうな表情で頬を緩ませる。


 両手をくるんと丸めて俺を見つめる瞳は蕩けている、涎こそ垂れてないものの本当に犬みたい。


 まるでペット。フウはペットが家族って言ってたっけ。


 家族、家族かぁ……俺の家族は、もうフウだけなんだな。そう考えると目の奥に熱い物が宿った。


「……っ、あ、やべ……」


「にぃちゃん……? なん、なんでないて……っ」


「フウっ」


「ぅぉっ」


 ヤバい、ダメだダメだ、俺が泣くとかダメだろ。


 でも抑えきれない、フウの事をより強く抱きしめて顔を見られないように頭を胸に押し付ける。


「泣いて、ないてないっ」


「いやでも、にいちゃ……」


「ほんとに違うからっ……えっと、あれだよあれ、なんか寒かった」


 んなわけないだろ俺、言い訳下手くそか。


 それはきっとフウもわかってる。声だって震えてるしバレないはずがないだろう。でも俺の背中を抱きしめてくれるフウからは、優しさしか感じない。


「……そっか。にいちゃん、さむかったの? じゃあ、もっとくっついていーよ」


「っ、あり、がとね」


 フウの身体に縋りつくようにしながら目を瞑る。


 温もりが、匂いが俺を満たす度にどんどん意識が落ちていく。


 これからずっと続いていくであろう新しい日常に、フウのためにも早く慣れないといけないな。


───


 にいちゃんが眠った、オレを抱きしめたまま。


 ねえにいちゃん、そんな泣かないでくれよ。にいちゃんは気づいてないみたいだけど、あれから毎日泣いてるんだよ。


 さっき空を見つめる顔だってなんか物凄く悲しい顔してた。


 一緒に寝てるときのにいちゃんも……同じくらい、悲しい顔してる。


「にいちゃん……」


 オレはこんなに幸せなのにな。なんで一緒に幸せになれないんだろう。


 もっと、もっとにいちゃんと仲良くならなきゃいけないのかな、オレがにいちゃんの全部を埋めてあげればいいのかな。


 にいちゃんの友達になって、家族になって、お父さんになってお母さんになって……あと何があるかな。


 ……恋人とか?


「……ふへへ」

 

 自然と口が緩んで自分でも気持ち悪い声が出ちまった。


 ヤじゃないな、にいちゃんはどう思うかわかんないけどさ。


 にいちゃんはオレのために頑張ろうとしてくれてる、それはよーくわかってる、でも。


 オレが頑張るべきなのに……にいちゃんが悲しんでるのはオレが原因だから、オレが何とかしないといけないのに。


 にいちゃんの腕から抜け出して、すっかり眠ってしまったにいちゃんの顔を覗き見た。


「ん……ん゛ん゛……」


「……にいちゃん、かわい」


 オレが抜け出したからか手を伸ばしてきたにいちゃんに、初めてそんなキモチが湧いてくる。


 オレの事赤ちゃん見たいって言ってたけど、今はにいちゃんの方があかちゃんみたいだよ。


 なんならおっぱいでも吸わせてやろうか。なんてな、オレ男だし。


 にいちゃんにされていたみたいに、今度はオレがにいちゃんの頭を胸に抱く。


 温かい……それに、ちょっとだけ胸が濡れてる。


「ヤなことあったらぜんぶ、オレに言ってくれ。オレは……にいちゃんの家族なんだから」


 だから泣かないでくれ。にいちゃんが泣いてると……。


「ズズっ……ライ、にいちゃん……っ」


 オレまで泣いちゃうんだよ。

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