突然の試練
なんか物凄く寂しい夢を見ていた気がする。
とっても悲しく、冷たく、怖い夢。覚えていなくて良かった、ついついそう感じてしまうような恐ろしい夢だ。
にしてもなんか……息が苦しい。けどなんか安心するような感じ、暖かくてすべすべでちょっと硬めな何かに包まれている。
「ん゛……」
「あ、にいちゃん。おはよ」
あれ……俺どうなってんだ? これ、フウに抱きしめられてる?
「フウ、おはよ……んで、なにしてんの?」
「ん? にいちゃんの事ギューってしてんの」
そっか……ギューってしてんのか。
……なんで?
「えっとさ、ちょっと動きにくいからそろそろ離して?」
「……うん、わかった」
なんだ、ちょっと歯切れ悪いな。ってか俺の顔観察してなかった?
寝起きの顔じっと見られると恥ずかしいな……。
あれ、フウがあんまり見たことないような表情してる。泣き笑い……? いや、ちょっと違う。
「フウ、何かあったの?」
「うぇ!? い、いや、なんでもないよ?」
嘘が下手だなぁ。目を泳がせながら俺から視線を逸らすとか露骨すぎる。
下手に詮索はしない方が良いか。話したくない事を無理に聞き出すのはしない方が良い。
うあー、外が眩しい……瞼が重すぎる……。
「あ、そーいやさ」
「なぁに?」
「テーブルにおいてる、アレなに? あとにいちゃんがつけてるソレ……」
ん……? あ、あー、すっかり存在を忘れてた。
フウにはあんまり言いたくないんだけどなぁ……でもせっかく貰った物だし、フウが喜ぶなら良いか。
どうせ誰も見てないしさ。
「これね、なんか首輪らしいよ」
「マジで!?」
「うぉっと」
予想以上の食いつきだ、パァっと太陽みたいな笑顔になったフウは、突然服の中からするりと抜け出しテーブル上のリングを取った。
少し弄った後に金具の存在を見つけると手早く解いて再び近寄ってきた。
「な、なぁ……にいちゃん……」
「わぁーった、わぁーったよ……ほら、寄越しな」
「うん!」
ってか首輪より先に服着た方が良いと思うんだけどな……。
これさ、もしかしてこの状態で俺に首輪付けろって言われてんの?
「……えっと」
「にいちゃん?」
ヤバくね? 目の前には裸の少年、パンツすら着てないケモ耳尻尾生えた優良児。
そこに……首輪? ちょっと背徳的過ぎないかな、色々な面でアウトの中でも特にアウトじゃないかな。
「おねがいだよ、にいちゃん……おねがい、ねぇ」
「お、おいで」
「やった!」
これはフウが望んでることだ。大丈夫、俺はなにも深く考える必要はない。
近寄ってきたフウから首輪を受け取ると、フウは上を向いてあの時みたいに首をさらけ出してくる。
鎖骨の間から延びる気道のデコボコ、そこを締め付けないように気を付けながら首輪をそっと嵌めていく。
本当に不思議な素材だ、伸ばそうと思ったらゴムみたいに延びるのに、締め付けは驚くほど弱い。
すぐに外れてしまいそうだけど、首輪の裏側には張り付くような不思議な感覚があるんだ。
「んっ……」
「……」
カチッ
首輪の金具が音を立てて閉まる。その瞬間金具が霧のように消え失せた。
「あ、あれ、これ外せなっ、ア゛!?」
「にいちゃっ、ウ゛ッ!?」
腕輪が一瞬水色に光を放ったと思ったら腕がビクリと跳ねた。まるで自分の腕じゃないみたいだ。
「な、なに……っ、あ゛、え、フウ……? っ」
「に、にいちゃっ。なんか、なんかっ」
フウの方も全身をビクリと痙攣させる、同じような感覚が走ったんだと思う。特にフウの場合首だ、俺よりもその感覚は強いだろう。
けどそれだけじゃ終わらない。やっぱり得体のしれないものなんて付けるべきじゃなかったんだ。
突然腕に流れた激しい痺れ、続いて身をつんざくような痛み。
足が攣った時ですら声を出すの抑えられないのに、それ以上の痛みに耐えられるはずもない。
「イぃッ、腕、あああア゛ア゛あああア゛ぁ!?」
「ギャァァぁ゛ぁ゛ぁ゛っ! に゛い゛っ、いだい゛っ、い゛だい゛ぃぁぁ……!」
全身から嫌な汗が湧いてくる。
頭の中が沸騰したように熱くなって手で頭を押さえるけど、リングを付けた右腕は上手く動かない。
死ぬ……これ死ぬんじゃないか? こんな痛いの耐えられない。痛すぎて何も考えられないんだ。
「あ゛……ぐ、ギぃ……!」
「に゛い゛ぃッ……ジャァ……」
フウの声が聞こえる気がする、痛みは腕だけじゃなくて既に胸の中にまで広がっている。
もうダメかもな……そう思った俺の痛みに支配された身体に何かが触れた。
「にぃ゛……!」
「……っ、ふ、う゛ぅ……」
それはフウの腕だった。
凄いなフウは……フウもこの痛みに苛まれてるはずなのに、俺のところまで這って来たんだ。
……俺、気をしっかり持て。
そうだよな、フウが耐えてるのに年上の俺が耐えられないのはダメだろ。
今にもホワイトアウトしそうな意識を全力で取り戻して、俺の手を握るフウの手の感触を強く意識する。
代わりに俺も足を使ってフウの臀部を引き寄せて、その小さな身体を近くへ引き寄せた。
「が、んばッ……って……! に、イ゛ぃっ、ちゃんっ……!」
「ふう゛っ……!」
本当にフウは強い。俺なんかよりずっと。
こんな状況でも俺の事を気にかけてくれるんだ。
「んん゛っ」
「に、ぃぃ……!」
少しだけ動くようになった右腕も使ってフウに回して抱きしめると、全身を硬直させて痛みに耐えるフウの身体を思い切り抱きしめる。
少しでもフウが楽になるように耳を撫でながら、しっぽの付け根をコリコリマッサージした。
くすぐったいかもしれないけど、痛みから気を逸らすには丁度いいだろう。
「ふう、も……おれ゛のッ、みみぃ……!」
「ふぁ、あ゛ぐぅ……ん゛」
言葉は通じているみたいでフウの手が伸びる。俺の耳を触る指は少し乱暴、けど感じてるはずの痛みは更に強い最悪の痛みに上書かれて感じられない。
代わりに襲い来るのはゾワゾワとしたくすぐったさ。それに意識を向ければ少しだけ痛みが和らいだ。
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