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俺と首輪の協騒曲  作者: ふぁふぁに~る
黒影と深森の練習曲
10/56

森林浴

「ねえ」


「ん? どしたにいちゃん」


「歩きにくい」


 今俺たちは、ただでさえ歩きにくい未整備の森の中を歩いてるんだ。


 草はボーボーだし、所々に点在する草の少ないところを渡りながらフウの案内を受けた状態で、目的地に向かってる。


 歩き慣れてないんだよ俺は、だからせめて今くらいは離れてほしい。


「オレ、ジャマか……?」


「そんな目をされても困るから。間違いなく邪魔だよこれ」


 片腕が完全に塞がってるしなんか重いし、歩きにくいったらありゃしない。


 上目遣いで縋りついてくるフウの媚びた瞳は確かに何か訴えかけてくるものがある。けど俺が惑わされると思うな、何年一緒にいると思ってる。


「はいはい、また家に戻ったらどうせくっついてくるんでしょ? 今くらい我慢して、ほらっ」


「ぐぅ……わがっだ……」


 寂しそうに項垂れて、ちょっと濁った声で下唇を突き出したフウ。すぐに思いついたように声を上げる。


「あ、でも手ぇつなぐくらいはいい……?」


「……はぁ、おっけ。ほら案内して」


「うんっ!」


 打って変わって嬉しそうな声、小さな手が俺の手を包み込んだ。


 まあ、フウからすれば一か月ぶりらしいからな。


 俺からしたら昨日夜一緒に寝た感覚だから気持ちを理解してあげるのは難しいんだけどねぇ。


 けど優しくしてあげようとは思う。あまりに邪魔な事は邪魔って言うけどね。それがフウの為だから。


 フウは全体的に距離感がバグってるんだよ、少なくとも俺に対してはさ。そんなフウが可愛くて今も頭を撫でてる俺が言えたことじゃないけど。


「にいちゃん! いこ!」


「おうっ」


 これからどうなるかわからない。ここに来てからの短い時間で、何度も何度も考えたこれからの事。


 深い深い森の中、それもただの森じゃなくて超常ひしめく異世界の森だ。


 きっと俺が知らないような危険な生き物だっているはずだよな、危ない事も沢山あるに決まってる。


 なのに、どうしてだろう。


「……はは」


「にいちゃんどうした? なんかたのしそうだな!」


「そう?」


 不思議と心が躍るんだ。


───


 暫く森を歩き続けると、微かに水の音が聞こえ始めた。空気も心なしか澄んできて、鼻の奥にひんやりとした感覚を覚える。


「ここ!」


「うっわ、すっげえ」


 学校のプールなんかじゃ比較にならないくらい広くて、水は透き通るよう。


 マングローブにも似た高根の木々が自生していて、葉と葉の隙間から差し込む光が水面に煌めく。


 今まで見た何よりも幻想的な光景に、俺は自然と口から賛美の声が漏れ出ていた。


 それを見つめる俺と、隣で同じように口を半分開いて見とれている様子のフウ。……それはおかしくない?


「ってか、なんでフウも感動してるの? もう来た事あるんでしょ」


「あー、あはは……前きたときは、なんかな」


 ああ、無気力状態だったんだっけ。あの後に小屋で聞いたんだ。


 最初の一日二日程度は問題なかったんだって。何とか採集や狩りで糧を得て腹を満たしていたとかなんとか。


 綺麗な水だって小屋の中に最初からいくつかボトルに入ってたらしくて、それを飲んでたから問題なかった。


 ただ、どうしても孤独感だけは我慢出来なくて、どんどんやる気がなくなっていって。結果が俺の見たあのフウだったらしい。


「水がなくなったときは『オレこのまましぬのかなー、でもにいちゃんいないなら生きててもしょーがないな』っておもったんだけど……やけくそで森ん中すすんでたら、ここみっけたんだ」


「ホントに運良かったね……それに俺いなくても生きてよ」


「へへっ」


 そんな事考えたくもない、ってか俺がいないならうんたらかんたらって、ちょっと大げさじゃないか?


 なんでかなぁ、なんでこんなに俺に依存しちゃったかなぁ……。


「にいちゃん、ホントにきてくれてありがとな」


「俺いなくても大丈夫になろうね」


「やだーっ!」


 やだじゃないよ。赤ちゃんじゃないんだからさ。


 まあ今は良いや、でも俺はこれからどこに行くのかちゃんと説明されただけマシだったのかもしれない。


 フウなんてもっと酷かったらしいから。


 あの謎の声は人に合わせるという事を知らない、大人も子供も全部一緒に見てる節がある。


 きっと、俺と同じ説明をフウにもしたんだろう、そして何が何だかわからないうちにここに飛ばされた。


 何かを要求する暇もなく、静かに寝ていたはずなのに。


 ……ダメだな、頭の中が暗くなってばっかだ。


 早く水浴びと洗濯をやってしまおう。


「ほらフウ、服脱いでー、パンツも」


「はーい」


 湖の縁に腰かけて膝立ちで水場をのぞき込む。


 にしても水が冷たい……ここに入れっていうのはちょっと酷かもしれない。けどこれから何度も通う事になるだろうから、慣れとくべきなんだろうな。


「ぬいだ! にいちゃんっ、なげるよー!」


「はいよー」


 いつの間にか素っ裸になったフウからバサリと服とパンツが飛んでくる。


 薄汚れて、少し枝に引っ掛けたのかボロボロになったシャツに、腰で固定するために付けていたはずの紐、そして所々破れて中身が見えてしまいそうなパンツ。


 紐なんて今にも千切れてしまいそうだし、使い物になるか怪しい。


 これ、新調した方がいいよなぁ、けどどうやって……? 最悪素っ裸で生活する羽目に。


「おーい、もしもーし」


「うあっ! びっくりしたぁ」


 俺が考え込んでいると目の前にフウがいた。膝を屈めてのぞき込んできている。


 逆光のせいで身体がより黒く見えて、汚れがあんまり目立たない。こうしてみると、やっぱり少しだけ身体ガッシリしたみたいだな……。


 フウだったら全裸で過ごしてくださいって言われてもあんまり気にしなさそう。


「今は良いか……ほらフウ、身体洗っておいで」


「はーい」


 バシャバシャ音を立てて湖の中へと入っていったフウ。楽しそうに水で遊んでいる。


 身体洗えっつってんのに、でもまあ俺も湖で身体洗ったことなんてないからなぁ、どうせればいいのかわからないのかもしれない。

 

 さて、俺もやることやらないとな。


 俺の服はまだ良いか、でも濡れたら困る。


 誰もいるはずないのに、何となく周囲を見渡して、謎の緊張感を抱きながらもパンツ以外を脱ぎ去ると、それを草むらに置いた。

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