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衒学的対談記  作者: 紫藤 樹(しどう いつき)
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第一談第二部 入室

 まだまだ私はこの書斎で置き去りにされるようだ.友人を家の一室に招いて早々,1時間近くも放置しておくなんてあまりにも酷いではないか.一体彼の所要がどんなものかは知らないが,こうも長い時間私を待たせているのだから,少々彼の書棚を物色したところで罰は当たるまい.

 実際に彼の書棚を眺めてみると,私の研究分野にも関与のありそうな文献や論文がいくつかあった.そのうちの幾つかに目を通してみると,やはり私が今知りたい理論や近似式・定数表について論じている箇所がいくつかあった.彼と顔を合わせ次第,この文献を貸してもらえないか打診してみることにしよう.

 それから彼の机に目をやると,計算用紙が一束積まれている.そこから用紙一葉分の数式を掬い上げてみると,数式を構成する記号や図などが定規やコンパスなどを用いて馬鹿丁寧に書かれてあるのが一目でわかる.彼がこれらの計算を人一倍の時間をかけてもたもたとやっているのを想像すると,なんだかじれったくて腹が立つ.

 彼の過度に几帳面な性質は,学生時代から一切変わっていなかった.私から見れば拘っていても仕方ないところに妙なこだわりを見せ,ニ三日考え込んでやらなくてはならない研究がすっかり止まってしまうこともあった.ただごく希にではあるが,彼のこだわって考え抜いた結論がその後の研究に大きな進展をもたらすこともあった.彼のこういった性格には何度も苦笑させられたが,同時にこれは,私が彼を尊敬する理由の一つでもあった.



 そうこうしているうちに,漸く彼が書斎に戻ってきた.書斎の戸が開いて閉まる音,足音,咳払い,それから私たちの1時間ぶりの挨拶が時空の格子上にプロットされる.薄暗い部屋の隅から,「ボン,ボン,ボン」と十五時を知らせる音が鳴る.

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