31.閑話:王子
「以上が支援の勇者である吾妻恭介の現在の行いです」
私に報告してきたのは魔道の聖女である神城柚月だ。
恭介とギルドで出会ってすぐ依頼の受注報告に訪れたついでに恭介が奴隷を使役していることを報告しにきたのだ。
この世界は今魔族との戦争を行なっている。この国は最前線に近い一番大きな国であり人間族の防衛拠点として運用されていた。
魔族領があるのは大陸の西側で東側が人間側の領土だ。昔はほぼ人間側の領土だったが数年前に魔王が誕生してからというもの魔族側の領地拡大は著しく、大陸の半分に迫るまでになっていた。
そのため、占領された領地に住んでいた人間たちは他の国へ難民として流入しており各国とも対応に追われることとなった。
現在魔族の侵攻はいったん落ち着いており膠着状態が続いている。しかしなにもないというわけではなく、前線付近では小競り合いが絶えないため油断はできない状況だった。
魔族の侵攻によってもとは世界の中央付近に構えていたエーデル王国だったが今となっては人間族の最終防衛ラインになっている。
国力も兵力も大陸で1、2を争う大国だったため、戦争開始から筆頭で戦っていたが押し込まれた今となってはこの国が落ちてしまうと人間の負けは確定的といってもいい。
もちろんエーデル王国以外にも国力が強い国は複数存在する。エーデル王国の他には東のベクール公国、北のアヴァンセ帝国、南のフノー選王国だ。西にも帝国があったが魔族領の境界付近にあったために魔族侵攻のさいに真っ先に滅ぼされ亡国となってしまった。
他の国々も国力はあるがそれぞれがいろんな分野に特化しているため総合力ではエーデル王国には及ばない。なので特定条件下では強みが発揮できるのだが弱点をつかれると脆いため総合力でエーデル王国に勝る国はない。ゆえにエーデル王国が最終ラインなのだった。
落ちてしまえば魔族は一気に大陸を制覇してしまうと言われている。それをさけるためにエーデル王国は勇者召喚を行なったのだった。
そうして呼ばれたのが
聖剣の勇者である夜須一尋
武道の勇者である藤堂菜々華
魔道の聖女である神城柚月
支援の勇者である吾妻恭介
の4人だった。勇者の2つ名はそれぞれのユニークスキルと戦闘スタイルから自然とそう呼ばれるようになったものだ。
勇者と言っても基本的には一般人で戦争の経験もない学生ばかりだったためエーデル王国の騎士団に基本的な武器の扱いや闘い方の指導を受けていた。
その間にも魔族との小競り合いは起こっていた。その小競り合いの中で第1王子は命を落とし第2王子は重症を追って昏睡してしまった。
王は他国との調整や戦力確保等に奔走しているため勇者たちの相手は第3王子であるヨハネス・エーデルフェルトに一任されていた。
「わかった。勇者が奴隷使役とは外聞が悪すぎるな…」
「そうですね。なので可能な限り奴隷を解放するよう圧をかけるべきかと」
「そうは言ってもな、我が国は奴隷を禁止しているわけではない。なので無理やり取り上げることもできないのだ」
奴隷制度が合法である我が国でいくら勇者であろうと奴隷を使役することは違法ではない。ただ、勇者が奴隷使役というのは国民に示しがつかないのも事実だ。
「私の方からアズマ殿に話をしてみよう。それでわかってくれれば…」
「いえ、それには及びません」
王子の言葉を遮ってまで神城は王子の提案を断った。
「ギルドであった際に奴隷について問い詰めたのですでに市井には出回っている情報です。今更内密にというのも無理な話でしょう」
「なんだと。なぜそんなことをした。貴殿らからの提案で支援の勇者は今後の戦いについて来られないと言われたのでパーティから外したのだぞ。無理やりこの世界に呼んでしまった彼に戦い以外の不安を与えるのは我が国の威信にも関わるのだぞ」
「その点に関しては申し訳ありませんでした。しかし私としてもショックだったのです。元とはいえ仲間が奴隷を使役している事実に。私が奴隷解放の運動をしていることを知っているはずの吾妻くんが」
神城は目を伏せショックを受けているかのような表情をしていた。
しかし私としてはこの女の考えていることがわからない。先ほどこの女に言ったように奴隷制度は合法であるため特に問題はないのだ。
「その運動に関してはもはや何も言わないがな。決して我が国が認めた運動ではないしそれを盾に言われてもなんとも言えんぞ」
「承知しております」
本当にこの女は何を考えているのやら。戦場でも人助けをすることもあれば容赦なく捨て石にすることもあったのだ。
聖女なんて呼ばれているがその本性はどこにあるのだろうか。
「おい、恭介の処遇は決まったのか」
実りのない会話に聖剣の勇者である夜須一尋が扉を勢いよく開けて乱入してきた。
「処罰なぞ考えていない。それにいくら勇者といえど少し無礼ではないか」
「あぁ?しらねぇよ。てめえらの都合で俺らを呼んでおいて無礼とか言ってんじゃねぇ。むしろお前らが無礼だろ」
それを言われると強く言えなくなる。こちらの都合のみで彼らの都合はまったく考えずに召喚したのはこちらだ。
「ちょっとそんな言い方しちゃダメだって!王子様、すいません」
武道の勇者である藤堂菜々華も続いて入室してきた。
「うるせぇよ藤堂。それよりも王子様よ、処罰しないってのはどうゆうことだよ」
「どうもこうもそのままだ。先ほど神城殿にも話したが我が国では奴隷制度は合法であるのでな」
「合法だったらなんでもありかよ!あいつは元勇者だぜ!?それを利用してどうにかできねぇの?」
「無理だ。そもそも貴殿らアズマ殿をどうしたいのだ。私は彼をどうこうしようとしている貴殿らの考えがまったくわからんぞ」
「いえ、ボクたちは吾妻くんをどうにかしようなんて思ってません。ただ前線から離れたところに行って欲しいだけで…」
「それを言ってるのは藤堂だけだろ?俺はあいつが目障りでしかたねえんだよ」
「それはなぜだ?彼は戦力としては期待ほどではなかったが努力家の青年だったぞ」
「戦力にならねぇだけでこの世界には必要ねえだろ!」
「なにが気にくわんが知らんが私は彼に対してなにかするつもりはない。彼に関する報告も今後は不要だ。もう下がれ」
これ以上この者たちの話に付き合うのも嫌になってきたので退室を促す。
「チッ!もういい!」
夜須は自分の思い通りに行かなかったことが気に食わないのか荒々しく部屋を出て行った。
「では殿下、私もこれで失礼いたします。ただ奴隷の件は私を今後も活動しますので。それと依頼の件はお任せください」
そういうと神城もすぐに退室して行った。残ったのは藤堂菜々華のみだ。
「あの、王子様、お願いがあるのですが」
「なんだ?私は下がれといったと思ったが?」
「……そうでしたね。すいません。失礼します」
力なく謝罪すると藤堂も退室し部屋には私1人になった。
「藤堂殿にはちょっと強く当たってしまった。私もまだ感情を御しきれないな…」
いくらイラついていたからといってなにも聞かずに追い出すのはさすがに狭量だったかもしれないと反省した。
次に話があった場合はしっかりと聞いてやろう。
「それにしてもなぜアズマ殿にそこまで執着するのか…」
私にはまったくわからなかった。特に夜須の極端な嫌悪感がわからない。もはや恨みといってもいいかもしれない。
考えても答えは出ない。そんなことうよりもやらなければいけないことは山積みなのだ。
「この件は後で考えよう」
後回しにはなるが仕方ない。機会があれば吾妻恭介を単独で王城に呼んで話を聞いてみようと考えたところで執務に戻っていった。
ちょっと3勇者サイドが書きたくなったのでキリもよかったのでこの辺で挟んでみました。
時系列的にはギルドで恭介にあった直後の話です。




