後編
これにて完結です。
国に戻り、俺は近衛騎士から魔獣殲滅部隊へと転属届けを出した。そこは死亡率が非常に高く、一応騎士団の端くれだが荒くれ者たちが集う場所だった。一応、貴族もいるがどれも三男や四男等家を次ぐ資格のないものたちだった。
初め、彼らは華々しい役職である近衛騎士から魔獣部隊へと身を移した俺に散々妬み嫉みを口にしてきた。
「お上品な近衛騎士だったやつに魔獣が殺せんのかよ?あぁ、そういえばお前“英雄”とか言われてたっけ。婚約者も守れなかったくせによく言うぜ」
「ここはお前みたいなやつが来るとこじゃねぇだろ。なんかやって左遷でもされたのか?気の毒なこって」
だが、それも俺が自ら望んでこの場にたっていると聞くと、その視線は同情的なものに変わっていった。
彼女を殺し連れ去ったあの魔獣を見つけるため、彼女の仇を打つために周りの説得も何もかも無視してこの場にいる俺に彼らは何か思うところがあったのだろう。それでも、やっかみを口にするものは一定数いた。
俺は、彼女を見つけるまで家に戻らないと誓った。
両親にもこのことは伝え、家は弟が継げるように跡目の座を譲り渡した。
「なぜ、そこまでしてあの子を探す?お前はあの子のことを嫌っていたじゃないか」
父は、俺にそんなことを聞いてきた。
…何故だろう?俺自身分からない。だが、どうしても心が、体が彼女を求めて仕方がないのだ。
「…俺には、彼女が…ミリアが必要だから」
「嫌いなのにか?それとも、お前は彼女を愛しているとでも言うのか」
愛…?どう、なのだろうな。
しかし、たとえそうだとして俺にはそんなことを言える資格はない。今まで散々彼女に酷い態度を取り、悲しませてきたのだから…。
俺は父のその質問には答えず、そのまま家をあとにした
魔獣殲滅部隊に入ってからというもの、国境沿いを中心に人を襲う彼らを殺しまくった。
そのうち、俺の実力も認められていった。
だが、やはりあの魔獣を見つけることは叶わなかった。
というのも、不思議なことに魔獣の数がどんどん減っていっているのだ。それは他国も同じらしく、聞けば世界各国でこの不思議な現象は起きていた。
魔獣達は一様に同じ方向を向き、その場所へ向けて大移動を開始しているらしい。
その先は…海。正確にはその先にある島へと向かっているらしかった。最果ての地と呼ばれるその島は人間はおろか生き物が暮らせるような場所ではなかった。
その島に向かい、不思議と生きて帰ったものはおらず今では罪人の流刑地となっていた。
そんな場所に魔獣たちは今では人間に目もくれずひたすら急ぎ向かっているらしい。
きっと、あの魔獣もそこにいるのだろう。
俺は魔獣達を一人追うことにした。
騎士団をやめ、国を出て俺は魔獣を追う旅に出た。
家族にはこのことは伝えていない。誰にも言わずに黙って出てきてしまった。だが、魔獣部隊に入る時に彼女を見つけるまで家には戻らないと伝えてあるので大丈夫だろう。
そんな折、不思議な噂を聞いた。
魔獣の群れに交じって、人間の女がいるそうだ。
彼女の姿は魔獣のように黒い髪に、目は血のように赤く染まっていると。初めそれを見たものたちは、魔獣を引き連れるように歩く彼女を『魔女』と呼び恐れた。
しかし、魔女は魔獣のように人間を襲うどころか、襲われかけている人間を助けて回っているという。
魔獣たちも、不思議と彼女の言葉を聞き襲うのをやめ去ってゆく。そして、魔女は人々にこう言葉を残していく。
『私たちは、最果ての地へと向かいます。もう、人間を襲う事はせず、その地で静かに暮らしたいと思います。
貴方たちが無闇にこちらに近づかない限り私達は手を出しません、これで彼らの狂気に脅かされる日々はなくなることでしょう…そう、他の方々にも伝えてください』
彼女はそう言葉を残すと、大きな黒く立派なツノを持つ馬に跨り他の魔獣達を引き連れて去っていった。
初めその言葉を聞いた者達は、信じられ無い気持ちでいたが事実この目で彼女が人間を何度も救っているのを見ていた。
何時しか魔女は、『救世の魔女』とも『黒の魔女』『魔獣を引き連れる者』と呼ばれるようになった。
俺はそれがミリアだと確信していた。
噂と彼女の持つ色彩は一致しないが、それでも魔女はミリアだと思った。
だが、俺は彼女が死ぬのを目の前で見ている。
どういうことだろうか…?
悩んでも答えは出ない。なら、確かめに行こう。元々、例の魔獣を見つけるために最果ての地へと向かっていた俺は慎重にことを進めた。
魔獣の後をひたすら追いかける日々が続いた。
どれくらいの月日がたったのだろう?
もはや数えることはしていない。
俺はようやく、最果ての地を見つけた。
波打ち際、うっすらと見えるその島に翼を持つ者は飛んでゆき、それ以外のものは海を泳ぎ渡っていた。
生きて帰ることの出来ない呪われたその地に足を踏み入れることに一切戸惑いはない。
俺は小舟を借りると、その日はもう太陽も沈み暗くなってしまったため翌日、朝早くに出発しようと決めた。
海からほど近い街に宿をとることもなく、近くの森で野宿をしていた。ふと、何かが聞こえた気がして顔を上げる。
風に乗って、微かにだが歌が聞こえてきた。
その声は…ミリアのものだった。
声のする方へと必死に駆けて行った。
「ミリア!」
彼女の名を叫ぶも、返事はない。
それどころか、歌はいつの間にか聞こえなくなってしまった。
「ミリア…どこだ、どこにいるんだ!」
草をかき分け進むと、ぽっかりと空いた広い空間へと辿り着いた。そこには月明かりを受け光り輝く美しい湖があった。
その傍らに探し求めていたミリアの姿があった。
彼女は黒い髪に真っ赤な瞳をしていたが、それ以外は俺のよく知る姿をしていた。
ふわふわとした髪に大きくパッチリとした目元、小動物のような愛らしい顔つきに小さな背に比べて女性らしい体の彼女はこちらをキョトンとした顔で見つめていた。
変わらないその姿に安堵する。
「ミリア…」
良かった、やはり生きていた。
死んだと思っていたが彼女は生きて、ここにいる。
彼女に近付き手を伸ばす。
しかし、彼女からは予想だにしない言葉が零れ落ちた。
「…だ、れ?」
「ミリア…?俺が、分からないのか?」
その時、彼女に向かって伸ばしていた手はぴたっと静止してしまった。
「…あなた、だれ?わたし、知らない…」
その言葉が信じられず、俺の声は震えてしまった。
「ミリア、俺だ。リカルドだ」
「りか、るど…?」
俺の名前をつぶやいた彼女に喜びを覚える。
きっと、彼女は俺を覚えているはずだ。
これは何かの悪い冗談なのだ、と自分に言い聞かせた。
そうでもしないと、俺は…壊れてしまいそうだった。
「あぁ、そうだ!君の婚約者だった…」
しかし、彼女は俺を睨みつけるとキッパリと否定した。
「違う。私のルドはあなたじゃない」
「は…?」
「あなたは誰…?いや、ルド…ルドどこ?」
不安で泣きそうな顔をするミリアの肩をきつく抱き寄せ、必死に希う。
お願いだ、ミリア。思い出してくれ…
君のリカルドは俺だ。
「ミリア?俺だ。リカルドはお…」
その時、背後から魔獣の気配がした。
咄嗟に彼女を背後に庇い剣を抜くと、そこには彼女を殺した例の魔獣がいた。
『リア、呼んだか?どうし…貴様、何故ここにいる』
それは、俺の頭に直接語りかけてきた。
魔獣が人語を話すなど、いやこのように頭に直接語りかけてくるなど有り得なかった。
その事に驚き、固まっているとミリアが俺の背中から飛び出していった。彼女は奴の元へと向かっている。
咄嗟にその腕を掴もうと伸ばすも、俺の手は彼女の腕を捕えることは出来なかった。
また、俺は彼女のあんな姿を見るのかと、絶望した。
しかし、それは起こらなかった。
「ミリ「ルド!」
それどころか、彼女は己を殺したそれに抱きついたでは無いか。
「ルド!あの人、変なことを言うの…私のルドはあなたなのに、違うって言うの…ルドは、私のルドはあなたよね?」
『勿論だ、リア』
彼女はその言葉を聞き、心底安心した笑みを浮かべると奴の胸に頬を擦り寄せた。
その光景があまりにも信じられなくて仕方なかった。
「ミリア?どうしたんだ、そいつはお前を殺したんだぞ…?」
『黙れ人間、リアは我のものだ。今更何をしに来た』
奴は俺に鋭い目線を向けると唸り声を上げた。
会話ができることには驚いたが…所詮、奴は魔獣だ。
人を襲い、喰らう残忍な生き物だ。なのに…ミリアはそれに抱きついて離れない。これは、どういう事だ?
「…お前こそ、何を言っている?ミリアは俺の婚約者だ。ミリアを殺したくせに…彼女を返せ!」
「ルド…?」
『こやつは既にお前の知るミリアでは無い。人間ですらない。この子は我らと同じく魔獣だ』
「は…?なに、言ってる。そんなはずがないだろう!人間が魔獣になるなど聞いたことがないっ!」
『…それは貴様らが知らなかっただけの事よ。そもそも我ら魔獣とは何か、お前は知っているというのか?』
「魔獣とは何か…だと?それは、どういう…」
奴は俺を見つめると、衝撃の事実を暴露した。
『我ら魔獣は元々、貴様ら人間どもの残滓よ』
「ざん、し…?」
なんだそれは。確かに、魔獣の生態系はよくわかっていない。動物の変異種が増殖したものと言われるのが一般的だったが、どこからともなく現れる彼らを検証するすべはなかった。なぜなら、不思議なことに魔獣は死ぬと数時間ほどで煙となって跡形もなく消えてなくなってしまうからだ。
生きて捕らえようにも、その獰猛な性格から捕らえることは難しいため魔獣の生態については詳しい者はいない。
魔獣が人間の残滓?なんだそれは…?
それでは、人間自ら魔獣を生み出していると言っているものでは無いのか…?そんな、はずは…
『応。我ら魔獣とは人間の負の感情によって生まれる。元々は弱いそれらが集まり凝り固まったものが魔獣よ。
人間の妬み嫉み憎しみ苦しみ…そんな負の感情を身に宿す我らは本能的に人間に牙をむく。分かるか?人間。貴様らが我らに殺されるのは自業自得なのだよ』
その顔には自虐的な笑みが浮かんでいる。
奴もまた、そんな感情に振り回された被害者なのだろう…そう、俺は魔獣相手に思ってしまった。
「そんな…な、ならお前はどうなんだ!それに今の魔獣達も!人間を襲わず、最果ての地へと向かっている。この状況はどう説明するんだ!!」
『…それは』
「あのね、私が頼んだの」
今まで黙って成り行きを見守っていたミリアがとつぜん奴の言葉を遮り発言してきた。
「ミリア…?」
「私ね、人や魔獣達が死ぬのが嫌だったの。私達は好きで殺しあってる訳じゃないの、ただ本能に逆らえないだけ。でもね、それなら人間と距離を取ってしまえばいいと思ったの。そうすれば、どちらも悲しむことはなくなるでしょう?」
そういうミリアの顔には真剣な、だがどこか自慢げな色が浮かんでいる。
「だが…それだけの事で、魔獣達が言うことを聞くものなのか?」
今まで魔獣と会話が成立したことはなく、会えば速攻で攻撃を仕掛けてくる魔獣が…?
到底そんな話、信じられなかった。
だが、ミリアにルドと呼ばれたその魔獣は静かに、だがしっかりと頷き肯定した。
『応。正確には、この子の感情が我らに流れ込んできたからだ。狂気で染まった我らの中に、負の感情以外の温かな温もりが流れ込んだことで我は正気を取り戻した…リアは、我に刺されたその時まで誰かを憎むことは無かった。それどころか、我の為に涙を流してくれた。我ら魔獣を可哀想で愛おしいと、そう思ってくれたのだ。その瞬間、我の中にあった狂気はなりを潜め、今こうして会話ができるほどにまでなっている』
ミリアが?本当にそんなことがあるのかと疑問に思うが、現に彼らは人を襲わず最果ての地へと向かっている。
「ミリアは…何故、そこまでして」
自分を殺した相手を憎む事をしなかったのだろう。
それだけじゃない、彼女は家族からの扱いも酷いものだった。
本当に、一度も誰も憎んだことがないのか?
すると、奴は瞳を伏せて静かに言葉をこぼした。
『…お前を、愛していたからだ』
あい、し…俺を?
嘘だ。だって、彼女はあの時嫌いだと言ったじゃないか。
「だ、だが…ミリアはあの時…」
奴の言葉が到底信じられなかった。
だが、奴は俺に言い聞かせるように語気を強め語った。感情を無理やり抑え込むように、苦しそうに語るその姿に嘘は無いのだと思った。
『死の間際、彼女が何を祈ったと思う?みなの幸せを、何より…愛したお前の幸せを願っていた!あえて、拒絶する言葉を残したのも、お前を自分から解放するためよ。
自分の死を、お前に背負って欲しくない。嫌いな自分のことなど、忘れてくれていいと…幸せになってくれとっ!
長年、婚約者として傍に居たにもかかわらずお前はリアのことを何も見なかったくせに、リアは最後までお前の事を愛していたのだぞ!!』
「そ、そんな…」
『…我の中に流れ込んだリアの記憶と感情はどれも優しく温かいものだった。だからこそ、我は貴様を許さん。
今すぐ八つ裂きに切り刻んでしまいたいくらいだ!!
…だが、貴様を殺せばリアが悲しむ…だから、我はお前が憎くともこの狂気に従うことは無い。人間、今すぐここを立ち去れ。そして二度と、我らに近づくな』
奴は一方的にそう言うと、ミリアを連れて行こうとする。俺は咄嗟に叫び、彼らを引き止めた。
「ま、まて!ミリアは…今のミリアはなんなんだ!死んでないっ!まだ、生きてるじゃないか!」
『ミリアは死んだ。我が殺した』
「だがっ!」
どうしても食い下がる俺に、奴はチラと冷たい視線を一瞬向けた。そして、ミリアを愛おしそうに慈愛の滲む瞳で見つめるとその秘密を語った。
『我は…この子を生かすために、我の血肉を与えた。適合するかは賭けだったがな…リアは人としての生は終えたが、魔獣として新たな命を手に入れることが出来た。
だから、先も述べた通りリアはもはや貴様の知るミリアではない。諦めろ』
「そんな…」
俺の頬に涙が伝った。
思えば、彼女を失ってから初めて流す涙だった。
その時、俺の頭を優しく撫でる存在がいた。
顔を上げるとそこには優しい笑顔を浮かべた彼女がいた。
「あのね、今の私には前の私の記憶はないけど…私、あなたのこと好きよ」
「え…?」
「ふふ。なんでだろうね、貴方を見ると…何となく懐かしい気持ちになるの。胸がポカポカするの、ドキドキして落ち着かないの。これって好きってことなんでしょう?」
「ミリア…」
彼女の名前を呟くと、ミリアは悲しそうな、困った顔をした。それはいつも見ていた、彼女の顔によく似ていた
「…ごめんね、私はもうあなたのミリアじゃないの。
私はルドのリアなの。だから、貴方とは一緒に行けない」
「だがっ!」
「ごめんね…私はリアよ。ミリアじゃない」
彼女はキッパリとそう言い捨てた。
俺は…その姿を見て、理解した。
あぁ、そうか。
やはり、ミリアは死んでしまったのか…
漸く、ミリアの死を認めることが出来た気がした。
俺は未だ頭を撫でるその子と目線を合わせる。
聞きたいことがあった。
俺は、ミリアを幸せには出来なかったから…。
「…ミリ、いや。リア…君は今、幸せ?」
彼女は嬉しそうに微笑んだ。
楽しそうに語る彼女はキラキラと輝いて見えた。
「うん!私ね、ルドも他のみんなも大好きなの!好きな皆といられるから、だから今とっても幸せよ!」
「そう、か。なら…いい」
その答えが聞けただけで、俺はもう…。
そんな俺の考えを見透かしたかのように、彼女はその赤い瞳で俺を覗き込んできた。
ミリアとは違う、ルビーのような輝きを持つその瞳はとても美しかった。
「あなたは?私、あなたも幸せじゃないと嫌だな。
きっと、前の私もそう思ったんだと思うの。好きな貴方には1番、幸せになって欲しいって」
「おれ、は…」
俺は…俺の幸せはなんだろうか?
ミリアが見つかれば、ミリアを連れかえれば…いや、ミリアを死なせず彼女自身をしっかり見つめていればその先には幸せと呼べるものがあったのだろうか…?
だとしたら、今の俺の幸せは…
「…今は無理でも、貴方なりの幸せをみつけて欲しいな。
だから生きて。前のミリアの分まで生きて幸せになって」
彼女は静かにそう告げると、優しく微笑んだ。
そう、だな。ミリアの、彼女の分まで俺は生きて、生きて生きて幸せにならなくてはいけない。
でないと、俺の幸せを願って死んだ彼女に申し訳が立たない。
これ以上、不義理な男に俺はなりたくなかった。
「っ、あぁ、必ず!必ず幸せになるよ、約束だ」
「うん!絶対よ?」
「勿論だ、彼女の分まで生きて…幸せになろう」
彼女は俺に抱きついてきた。
俺も彼女をしっかりと抱きしめ約束した。
「…ありがとう、もう行くね」
そう言って立ち上がった彼女は最後にこちらを振り返り、あの時と同じ満面の笑みを浮かべた。
「私を好きになってくれてありがとう、リカルド」
その姿は、紛れもなくミリアのものだった。
「ミ…」
「さよなら」
そう言って、彼女はルドと呼ばれた魔獣と共に姿を消した。
※※※※※
あれから、数年の月日がたった。
今俺には最愛の家族ができた。
可愛い子供達も3人も儲け、とても幸せな日々を送っている。
あの日、ミリア…いや、リアと約束したから。
彼らと別れたあと、俺は国に戻った。
両親には、やはりミリアは死んでおり結局、遺体は見つからなかったことを伝えた。
代わりに、救国の魔女と呼び親しまれている人にあったことを伝えた。傍らにはルドと呼ばれる大きな立派なツノを持った魔獣がいたことも。
彼らは、長年続く人間と魔獣同士の殺し合いに嫌気がさし仲間の魔獣達を引き連れて最果ての地へ赴き、人間から手を出してこない限り今後一切危害を加える気は無いと話していたこと。
そして…ミリアの分まで生きて幸せになってくれと、言われたこと。
両親は無言で俺を抱きしめてくれた。
「そうだな…お前は、ミリアには婚約者としての義務を果たさず酷い態度を取り続けてきたが、彼女は最後までそんなお前を見捨てずに命をかけて守ってくれたんだ。恩を返すと思って、彼女の分まで幸せになりなさい」
「…は、い」
俺はその言葉を聞いて涙が止まらなくなった。
年甲斐もなく、ボロボロと泣き続ける俺を両親はただ優しく抱きしめてくれていた。
未だ、俺にそんな資格があるのか疑問だったが…彼女の願いを叶えるためにも、俺は精一杯生きようと思う。
俺は再び騎士団へと戻った。
しかし、近衛騎士にはならず今はもうない魔獣殲滅部隊の仲間たちと街の治安を守るために、忙しくもとも充実した日々を送っている。
その間に、俺は恋をして、結婚をし、家族を作った。
ありふれたこの幸せが何よりも大切な宝物になっている。
時おり、彼女のことを思い出す。
ミリアでありリアである彼女は、今何をしているのか?
どのような生活を送っているのだろう?
魔獣達と最果ての地で幸せに暮らしているだろうか?
幸せだといい。いや、きっとあの時彼女が言ったように幸せに暮らしていることだろう。
ミリア、俺は今君のおかげでとても幸せだよ。
俺を最後まで愛してくれて、ありがとう。
好きになってくれて、ありがとう。
さよなら。
俺の婚約者だった人。
ここまでお読みいただきありがとうございました!楽しんで頂けたでしょうか?(;´Д`)ドキドキ
本来ならば短編にする予定だったのですが、思った以上に話が長くなってしまったので話を分けての投稿になりました。
そのうち、番外編など書きたいと思っていますので、その時にでもまた読んでもらえると嬉しいです。