表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

前編

その場の勢いで書いてます。

シリアス全開。悲しいお話を目指しました。


拙い文ですが、どうぞよろしくお願いします。


日間異世界(恋愛)ランキング36位(2020.8.12)

日間異世界(恋愛)ランキング25位、週間100位(2020.8.13)

日間異世界(恋愛)ランキング16位(2020.8.14)

嬉しい(*´˘`*)Thanks❣❣




ゴポッ…


体に激痛が走り、血が溢れ出す。

腹部を覗けばそこには大きな黒い物体が突き刺さっていた。

喉から何かがせり上がり口の中に鉄の味が広がった。

不味い血の味に思わず吐き出してしまう。


「ゲホ…」


静寂の中、ゴポゴポと私の命がこぼれ落ちる音がした。

だが、既に体の感覚はなく、痛みはない。

霞む視界の先には、驚愕に目を見開く婚約者の顔。

普段、無表情で無愛想なその顔が今にも泣きそうな悲壮に満ちた顔に歪められるのを見てこんな状況にも関わらず笑みが零れた。


「ミ、リア…?」


呆然と私の名を呟く彼の顔を確りと見据えて私は精一杯笑顔を作って最後の言葉を吐き出す。


大好きよ、愛しい愛しい私の婚約者だった人。

貴方は私の事が大嫌いだったけど、私はずっと貴方を愛していたわ。でも私ね、ずっと言いたいことがあったの。

最後くらい、いいわよね…?


「…だぃ、きらい」


私の頬には一筋の涙が伝った。

それは血と混じり赤く、まるで血の涙のようだった。


婚約者でありこの国の騎士である彼…リカルドは私の最後の言葉をどう受け止めるのだろう…?

私のこの姿を見てどう感じるのだろう?

今この瞬間、彼は一体どんな顔をしているのだろう?


それを知ったとして、もう私は死ぬのだから関係ないか…

最早、身体中の感覚がなく視界も暗く霞み何も見えず何も感じない私にはそんなこと分かるはずもないのだから


ただ、笑顔だけは作れていたと思う。


こうして、ミリア・リム・ラティアスは18歳という若さで人生の幕を閉じた。



※※※※



遡ること8年前。


その日は生憎の雨だったが、数ヶ月も前から決められていたこの日に延長という文字はなく私達は彼の家である侯爵家の応接室にて初めての邂逅を果たした。


当時私は10歳、彼は15歳。

初めて会った彼は、幼い面影を残しながらもその姿は青年と呼べる程に成長していた。そして、その容姿は美しいの一言に尽きる。キラキラと月の様に輝く銀髪に、サファイアのように美しい瞳はとても儚げで、少し垂れ下がった目元は優しげな雰囲気を醸し出していた。

よく見ると、目元には小さなホクロがついている。


その美しい容姿に私はつい、見惚れてしまった。

こんな美しい方が今日から私の婚約者なんて信じられない思いだった。


しかし彼の顔は常に無表情で、氷のように冷たかった。


互いの両親を混じえた会話はそんな私達とは関係なくとても弾み朗らかな雰囲気が漂っている。しかし、当の本人たちには何となく気まずい空気だけが漂っていた。

それを見兼ねた侯爵様は彼に私を部屋に案内しもてなす様提案してきた。

それに逆らうこともできず、彼は無言で私の手を取るとその部屋を後にし彼の部屋へと案内してくれた。


「あ、あの…」


「…」


「今日から婚約者同士、これからよろしくお願い致しますわ」


「…」


精一杯声を掛けるも、彼から返事が返ってくることは無かった。

ただ、無言でその冷たい瞳を一瞬私に向けただけ。

それ以上何も言葉は出て来ることはなく、その日はそのまま解散となった。




それからというもの、一応は婚約者の義務として月に一度お互いの家を行き来し親睦を深めるという名目でお茶会が開かれたがそこでも会話らしい会話は無い。

と言うよりも、彼は一切口を開くことは無かった。


その日も彼と会う約束があったが、生憎出会った時と同じく朝から雨が降っていた。遠くからはゴロゴロと雷の音も聞こえるほどだ。


(これは…今日のお茶会はきっと中止ね)


今にも土砂降りに変わりそうな外の様子を見て私はため息をついた。今日は彼が私の家に来てくれる予定だったが、会うのは難しそうだ。


まぁ、会ったとしても挨拶をするくらいで後は何も話すことは無いのだが…


だが、私は会話はなくとも無言でお茶を飲む彼の姿を少し見るだけでも十分だった。初めて会った時から彼に一目惚れをしてしまった私は、彼に好かれようと努力を惜しまなかった。例え、そんな私の事を彼は一切見ていないと知っていたとしても、無駄な努力だとわかっていても止めることは出来なかった。


どんなに冷たい態度を取られようとも、彼の婚約者は私なのだと言い聞かせ、私は彼の前で笑顔を作る。

いつか、彼が私のことを見てくれることを願って…


その日、私の予想通り彼が姿を現すことは無かった。



※※



彼は私と婚約を果たす少し前から騎士団に所属している。

今日は騎士団の訓練公開日。

多くのご令嬢達が麗しの騎士達を一目見ようと今日も今日とて大勢押しかけていた。


私もそのうちの一人として、友人と2人で彼の姿を見るため訪れていた。


「楽しみね!あ、でもミリアは婚約者様にしか興味無いかぁ」


「そ、そんなことないわよ」


「とか言って彼に惚れてるくせにぃ!」


「ネリィ!からかわないでよっ!」


彼女は私の幼馴染であるコーネリア・ラン・リンジャー。

彼女には未だ決まった婚約者は居らず、こうして私と騎士団見学と称し未来の旦那となりうるかもしれない男性を見繕いに来ている。ほかのご令嬢方の目的も大体彼女と似たり寄ったりな感じだろう。


「あ、ほら見て!あの方凄くかっこいいわ!」


「…そうね」


切り替えの早いコーネリアは私のことなど忘れてキャッキャとはしゃぎまくっている。

私は婚約者であるリカルドを探し周りを見渡していた。


「あ…」


彼のことはすぐに見つけることは出来たが、やはり多くのご令嬢方に囲まれていた。

最近になってグンっと身長が伸び、より一層輝かしく美しくなった彼は今まで以上に女性からの人気が高くなっていた。

彼は、私には1度も向けたことの無い笑顔を浮かべ楽しそうに仲間の団員達やご令嬢方と何か話をしていた。


その姿を見てズキッと胸が痛む。


(あんな顔、私には1度として向けたことは無いのに…)


やはり、政略結婚だからだろうか。勝手に親に決められた婚約者が彼は気に入らないのだろう。だから私にはいつも冷たい視線を送るだけで、私以外には笑顔を振りまくのだろう。そう、思うと虚しさが込み上げた。


「ミリア…?どうしたの、そんな泣きそうな顔して…」


「い、いえ。なんでもないわ」


「でも…」


「陽の光が眩しくて、ちょっと目に痛かっただけよ。それより、ほら。あの人ネリィが好きそうな感じじゃない?」


心配してくれるコーネリアには悪いが私は無理矢理話を逸らした。婚約者と上手くいっていないなど、彼女には話せない。話したら余計心配させてしまうから。

コーネリアは未だ心配そうな顔を向けていたが、私の話に乗ってくれた。そんな友人の優しさに何となく罪悪感が込み上げた。


(せっかく心配してくれたのに…ごめんね、ネリィ)


そんな私の事をリカルドがじっと見つめていたなんて、まったく気づくことは無かった。



それからというもの、私はコーネリアと共に騎士団の訓練公開日にはちょくちょく顔を出すようになった。

しかし、彼には一切近づくことは無い。ただ、少し遠くから彼の楽しそうな姿をこの目で眺めるだけ。

コーネリアはそんな私を見て何となく察したのか、彼との仲を取り持つようにしきりに、話しかけに行こうと誘ってくれるがその度に私は大丈夫だからと断り続けた。


私がそばに行けばきっと、彼は一瞬にしてその笑顔を引っ込めてしまうだろうから。

私に向けられることはなくとも彼の笑顔を見ることが出来る貴重な機会に、胸の痛みを無視して私は彼の姿を眺め続けた。



そんな日々を送っていたある日のこと、彼と夜会に参加する事になった。

夜会に着ていくための服は婚約者である彼が贈ってくれた。その事が嬉しく、私は舞い上がってしまった。

いつもよりも気合を入れて化粧を施してもらい、髪型も美しく結い上げて貰った。

気合十分。彼との初めての夜会にワクワクが止まらない私に彼が迎えに来たとの知らせを聞き、足早に玄関ホールへと向かった。


そこには、普段とは違う姿の彼がいた。

髪型はをひと房だけ残し全て後ろに流し、黒のタキシードを着ている。胸元には白いバラの花が飾ってあった。

いつも以上に美しく、かっこいい彼の姿にしばし見惚れてしまった私は慌てて彼に挨拶をした。


「お、お待たせしてしまい申し訳ありません」


「…」


相変わらず、彼からの返事はない。

無言で私を見下ろすと彼は手を差し伸べてきた。


「え、と…」


突然の事で戸惑う私に痺れを切らしたのか、ぐいっと手を引かれ馬車へと連れてかれた。

あれよあれよと言う間に馬車に乗せられた私は彼の対面に座り、落ち着きなくチラチラと彼の姿を伺った。

しかし、彼はいつも通り冷たいほどの無表情で窓の外を眺めるだけだった。私にはチラとも視線を向けてくれない。それどころか彼は自ら贈ってくれたドレスについても何も語ろうとはしなかった。


「あ、の…このドレス、ありがとうございました。とても綺麗で…私には勿体ないくらいです」


「…」


彼は一瞬首を傾げたが、やはり何も話すことは無かった。

その様子に、このドレスを贈ったのは彼ではないと気づいた。

彼の名前で贈られてきたこれは、きっと彼の父である侯爵様が気を回してくれたのだろう。

その事に、舞い上がっていた気持ちがどんどんと萎んで行った。


(それは、そうか。彼は私に興味が無いのだから…寧ろ、嫌われているかもしれないわね。婚約者とはいえ彼が態々こんな素敵なドレスを送ってくれるはずないじゃないの…バカね)


これ以上、彼に不快な思いをさせてはいけないと思い口を噤む。

会場に着くまで、私達の間には沈黙が流れた。

彼が迎えに来るまでのワクワクとした気持ちは既にない。今はただ、この息苦しい迄の空間に体を縮こませて耐えるだけだった。


夜会に到着してからも、彼は一応は私をエスコートしてくれたが1曲ダンスを踊り終えると義務は果たしたとばかりに離れていった。初めての夜会、煌びやかなこの空間に何だか気後れしてしまった私はそうそうに壁際に引っ込み彼の姿を探した。

やはり、彼は今日も多くのご令嬢方に囲まれその顔を笑顔で彩っていた。私は、夜会が終わるまで一人そこで彼の楽しそうな姿を眺めていた。



※※


私が18歳になる少し前から彼は第2王女付きの近衛騎士となった。

それはとても喜ばしいことで、彼の両親も私の家族も大層喜んだ。しかし、前よりも仕事が忙しくなり彼と会う時間はただでさえ少なかったというのにより一層減っていった。

それに伴い、私達の結婚もどんどんと先延ばしになっていった。本来なら成人を迎えた私の16歳の誕生日に結婚式をあげるはずだったが、彼の都合によりそれはなくなり今ではいつ結婚式をあげるのか未定である。


私の友人たちはコーネリアを含め皆結婚しているというのに。私だけが置いてけぼりだ。




秋も深まり段々と肌寒くなってきた頃、彼がひと月ほど国を離れることになった。なんでも、第2王女が輿入れ先の予定である隣国へ外遊するのだという。彼はその護衛として共に行くそうだ。


旅の道中、魔獣に彼が襲われないかと心配で仕方なかった。しかし、彼は今では騎士団でも指折りの実力者との噂だ。その力を認められて第2王女付きになったくらいなのだから、きっと無事に帰ってくると信じるも、やはり心配で結局私は彼を見送るため国境の近くまでついて行く事にした。


私の他にも数名、似たような方々もおり彼らと共に王女一行について行った私達を待っていたのはなんと魔獣の群れだった。


突如襲ってきた魔獣の群れは一目散にこちらへ襲いかかってきた。国境沿いには幾つも小さな村が存在している。まさか、彼らも襲われてしまったのではないか…?

そうなのだとしたら戦うすべを持たない村人たちは全滅かもしれない…そう思うと胸が苦しくなった。

しかし、今そんなことを考えている暇はない。

私達もそうそうに避難しなければと慌てるも、私は彼が心配でならなかった。


王女の馬車の方をむくと、何故か中から王女を抱えた彼がでてきた。そのまま彼はこちらに向かってくると王女を私たちに預けた。


「リカルド!貴方も一緒に逃げなさい!!」


王女が涙ながらに彼に向かって必死に声をかけ引き留めようとしたが、彼は安心させるようにほほ笑みを浮かべると他の団員たちに王女と私たちを守り逃げるように指示を出した。


「リカルド!!」


「姫さま…私は大丈夫です。今は一刻も早くお逃げ下さいませ」


「リカルド…無事、私の元に戻ってくると誓いなさい。

でなければ、私はここから絶対に離れませんっ!」


「姫…」


彼は王女の手の甲に口付けを落とすと、彼女の言う通りに誓を立てた。


「私、リカルド・ロイ・サフィールは必ず生きて姫の元へ戻ることを誓いましょう」


「…必ずよ」


「えぇ、きっと」


そのまま2人は暫しの間見つめあっていた。

私はその姿を見て、彼らは愛し合っているのだと悟った。


…あぁ、やはり私には彼の1番にはなれないのね。


わかっていたことだが、目の前で見せつけられるととても悔しくて苦しくて、何より悲しかった。


彼はきっと、私のことにすら気づいていない。

気づいていたとしても、彼女に向けるような慈愛に満ちた視線を送ることは決してない。ただ、氷のように冷たい目を向けるだけ。


婚約してから8年。私は1度も彼に名前を呼んでもらったことがない。まともに会話すら交わしたことは無いというのに…そうか、彼はとっくに愛する人がいたのか…


呆然とそんなことを考え込んでいた時、彼の背後に黒い影が覆いかぶさった。

それは大きな黒い角を持った、馬のような魔獣だった。

しかしその目は魔獣らしく血のように赤く、口には鋭い牙が並んでいる。


自然と体が動いた。


彼は一瞬、魔獣に気付くのが遅れたらしい。咄嗟に姫を守るため彼女の前に飛び出るも、魔獣の角はすぐそこまで迫っていた。


ドスッ!


その場に赤い鮮血が広がる。


「いやあぁ!リカルド!!」


姫は甲高い悲鳴をあげた。

彼女はリカルドが刺されたと思ったのだろう、彼を心配する声だった。


当の本人は怪我ひとつなくただ目を見開いて固まっていた。


「ゲホッ…」


血を吐く私の姿を見て彼の口から私の名前が零れ落ちた。


「ミ、リア…?」


初めて、彼に名を呼んでもらえた。

その事が、少し嬉しかった。


(なんだ、私の名前知っていたのね…)


私の腹にはは太く黒い魔獣の角が未だズブズブと刺さり貫通している。その角をそっと掴み抱きしめた。

私から絶対抜けることがないように、彼をこれ以上危険にさらさないように、非力ながらも懸命に私は魔獣を押さえ込もうとした。


「ミリア…なぜ」


彼はそんなことを聞いてくる。


なぜ?何故だろう…体が勝手に動いてしまったのだ。

彼が死んでしまうと思ったから…ダメね。

私はやはりあなたの事がどうしようもなく好きみたい。

貴方は私のことを嫌っているというのに…


「ミリア…」


「リカルド…?良かった、無事なのね!さぁ、早く逃げましょう!」


姫は彼が無事だと知ると、すぐさまこの場を離れようと腕をグイグイと引っ張っている。

その間も私の腹からはゴポゴポと血が溢れて止まることは無い。不思議なことに、魔獣も動く気配はなかった。


「さぁ、早く!そんな女置いていきましょう!」


姫はちらとこちらを見ると、口元を嬉しそうに綻ばせた。

きっと、彼の婚約者である私がずっと妬ましかったのだろう。

だがこれで私が死ねばその場は空く。

彼は、侯爵家の跡取りだしもしかしたら私が居なくなったあとは彼女と添い遂げることになるのかもしれない。今迄、私と結婚を進めようとしなかったのは姫の事が好きだったからに違いない。


なら、もういいか。

彼が幸せなら、それもいいかもしれない。

そもそも私はもう…助からないだろうし。


「ミリア…」


彼は未だに呆然と私を見つめたまま、名前を呟いている。


最後に、名前を呼んでもらえたのだ。

十分だろう。

でも、最後くらいいいわよね…?


「ミリ…」


「り、るど…さま」


私は彼をしっかりと見詰め、精一杯笑顔を浮かべた。

彼は、何故か悲しそうな顔をしている。


その顔が見られただけで、私…


自然と涙が零れた。


リカルド様、8年も私に縛り付けてしまってすみませんでした。

貴方は会った時から私に対して興味なんてこれっぽっちもなくて、寧ろ私の事を嫌っていましたよね。


でも。でもね、私は…ずっと貴方のことが



だぃ、きらい…(大好きでした)





次はリカルド視点のお話になります。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ