対峙⑦
勇者たちの視点です
大陸南方戦線。
エルフとドワーフが中核をなす連合軍に対し、この戦場を侵攻している邪神軍はフィフスペトルの第4軍団とゼグビスの第6軍団である。
2つの軍団の共同戦線は、他方面の戦線に対し単純に倍に上るの戦力を有する。
連合軍もそれを警戒し、数の有利を活かしにくい地理である大陸南部に広がる森林地帯を戦場として防衛線を展開し、さらに3人の勇者を配置し多くの戦力を整えていた。
しかしそれでも邪神軍の戦力は圧倒的であり、ゲリラ戦を展開する連合軍を数の有利を持って進軍を続けることで、徐々に森林地帯の出口へと防衛線を押し込んでいた。
この戦況は邪神軍が優勢に見えるが、しかし南方戦線の邪神軍には2つの軍団が揃っている戦場という他の戦線にはない特徴がある。
通常、各軍団内の指揮系統は軍団長を司令官として縦に統一されているのだが、軍団長同士は同格の地位にある。
つまり南方戦線において、邪神軍は上下関係のない友軍が同じ戦場にて戦っているという状態があった。
さて、ここで問題が生じる。
第4軍団と第6軍団は、メテオスの異世界侵略という共通の目的のために戦っているが、2人の軍団長はそれぞれの軍団を持つ同格の指揮官である。
戦場は広大だが1つ、戦う敵も連合軍という体であり1つ、そして隣に共通の目的で戦う友軍がおり数において圧倒的に優勢である。
そして、それぞれの軍団はただ目的が同じであるだけで足並みをそろえることまでは強制されていない。
結果は、第4軍団と第6軍団の手柄の争奪戦であり、どちらが先に連合軍を撃破して森林地帯を抜き勇者を屠るかという競争の形をとっていた。
せめて連合軍がもう少し積極的な防衛線を展開し、頑強な抵抗を見せていれば違っていたかもしれない。
だが、優勢すぎる戦況が2人の軍団長に共闘している軍団が競争相手という認識を与え、ゲリラ戦の奇襲により受ける損害を度外視した強行な侵攻軍を起こした。
結果的に、この味方の損害を顧みない2つの軍団の戦い方が逆に連合軍のゲリラ戦術を駆逐していき森林地帯の戦いをむしろ優勢に進めるに至るという事態を招いた。
クラムフト要塞の陥落からすぐに戦線を後退させたにもかかわらず、罠さえ警戒せずに強引に侵攻を続けてきたのには、邪神軍にこのような背景があったためであった。
数が有利な軍勢は、本来森林や渓谷といった視界が悪く進軍が難しい地形よりも平野などの戦場が戦いやすい。
だが、この邪神軍に限って言えば多少割に合わない損害を受けようが隣の軍団に遅れを取るよりはマシであると強引な侵攻を行うため、むしろ森林などの戦闘の方が優勢に戦況を進められた。
そしてクラムフト要塞陥落後、連合軍が戦線を森林地帯から完全に撤退し渓谷に防衛線を築くなり、好機と見た第4軍団長フィフスペトルは渓谷に対して総攻撃を仕掛けた。
狭い渓谷の谷間に誘い込まれ、出口をふさがれ、密集するため進軍もままならず敵と衝突する面積が制限されるので戦闘に実際に参加する兵士は少なく、さらに密集したところを渓谷の上からも矢を射かけられと散々な目に遭いながら、しかしフィフスペトルは攻撃を仕掛けた。
一方、連合本営から東方戦線ではなく南方戦線に援軍が送られたことを把握した第6軍団長ゼグビスは、さすがにこの渓谷の戦いにはなんらかの意図があると警戒し森林地帯に陣を敷き防衛の構えを見せていた。
しかしそんな邪神軍の内情を勇者たちは知らない。
2つの軍団のこの選択が、勇者たちの決死の作戦に大きな影響を与えることとなる。
渓谷で第4軍団と連合軍が激突する中、勇者の1人である岡松 幸太朗は、奇襲による軍団長の撃破を目指してその所在の索敵に出撃。
軍団長は前線に出ていないだろうという判断から森林地帯で捜索を行っていたところ、ゼグビスの築いた防衛陣地の発見した。
「マジかよ、これ……」
そして、絶句する。
渓谷の戦場にほとんどの戦力を投入するから、本陣は手薄のはず。
そこに勇者たち少数精鋭の決死隊による一撃必殺の攻撃を加えることで、軍団長を撃破し指揮系統を破壊する。
それが、この作戦の根幹だった。
だが、見つけた防衛陣地は手薄などではない。
森を切り開き築かれた陣地は、まるで城でも築いたかのような巨大な要塞となっており、軽く見積もってもその陣地だけで3万はいるだろう莫大な戦力を展開している鉄壁の陣地だった。
その頂上には、偵察時に遠目ながら確認できた敵の軍団長の巨大ムカデの姿も確認できる。
ここが敵の本陣で合っているだろう。決死隊を導く目的地は間違えなくこの陣地であり、討つべき軍団長の姿もいる。
……想定と違うのは、その本陣が手薄などではなく前線よりもはるかに整った全力で固められた鉄壁の防衛拠点であったということ。
「こんなの、どうしろ言うし……」
見つけたはいいが、これをこのまま決死隊だけで攻撃したところで軍団長を撃破できるとは思えない。
南方戦線の邪神軍の戦力が他の戦線に比べてはるかに多いことは連合軍側も把握していたが、しかしその予想もさすがにこの戦線のみ2個軍団を動員しているという事実までは見抜けていなかった。
敵の総戦力を多めに見積もっていたが、実際にはそれでも少なすぎた。
その読み間違えが、この第6軍団の主力が守る要塞という形で岡松の前に立ちふさがった。
連合軍を囮にして勇者たちに全てを託したこの作戦はすでに発動している。
後には引き返せない。
作戦を中止するということは、渓谷とその先の都市を捨て、数多くの難民を生むということ。
それを阻止するために戦ってきた全てを無駄にすることに等しかった。
「けど、こんなのどうしろって……」
自分1人では決められない。
ひとまず敵の本陣と軍団長の位置は把握できた。
この情報だけでも持ち帰り、その後の判断は仲間に任せるとしよう。
この場で絶句しても何も始まらないと、岡松はそう判断して静かにその場を立ち去る。
「…………」
だが、その様子を1つの影に見られていたことには気付けなかった。




