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対峙⑥

勇者達の目線です

 頑固者の終わらない論争に終止符を強制的に打ったのは、邪神軍の森林地帯突破を知らせる報告だった。



「くそっ! 予測より早い……岡松殿に頼りすぎたか」



「どうするつもりだ、待った無しだぞ」



 予測が外れたことに焦るサミール将軍に、九重が詰め寄る。


 どうあれ急いで結論を出すしかない。

 ここでいがみ合っていては、渓谷も突破される。


 折れたのは、サミール将軍の方であった。



「致し方なし、か。この場で軍議を続けていては後手に回るだけだ。九重殿は囮部隊に!」



「最初からそう言え頑固者!」



「あなたにだけは言われたくない!」



「言い争ってある場合かよ!」



 当初は九重の意見に加勢しようとしていたが2人の熱気に押され黙っていた鳩村が、さすがに我慢できなくなり2人を引き離した。


 とにかくここからは早く動かなければならない。

 編成もそこそこに、軍議をお開きにした面々は各々の部隊の元へと向かう。


 連合軍はスミス将軍やサミール将軍たち、南方戦線と援軍のほとんどの兵力を動員する。

 それに九重が同行し、渓谷の出口に集結。その出口を封鎖する。


 正直、戦力的には邪神軍とは比べるもない規模だ。

 侵攻してくると予想される邪神軍は10倍の数だが、それでもまだ確認できた戦力から導き出されたもの。全貌が明らかになっていない以上、それ以上の数が動員されてもおかしくはないという。


 精鋭部隊は急いで本陣の位置を探し出し、囮部隊に邪神軍が十分に食いついたら本陣に対し提出攻撃を仕掛ける。

 こちらは5人の勇者と10騎に満たないわずかな戦力のみだ。

 しかし、連合軍の本命と言える最大戦力はこちらに集中している。



「総員展開、急げ!」



「ドワーフはすでに渓谷に配置している! 我らも遅れをとるな!」



「この戦、連合の命運を分けた一戦だ! 命を捨て戦うのだ!」



「口上はいいからさっさと渓谷へ行け!」



 寿命が長い分、エルフの行動はこういう時でも遅い。

 スミス将軍をはじめとするヒューマン達の苛立ちが、戦闘開始が迫る時の空気に上乗せされてより大きな緊張感を生んでいた。


 鳩村はスミス将軍に別れと再会を願う挨拶を手短にしてから、九重の姿を探す。

 今回の戦いはかなり厳しいものとなる。もっと厳しい戦いも経験してきたが、寺門が死んでから仲間の死というものをより身近に感じるようになっていた。


 きっと、怖いのだろう。次は会えないかもしれないということが。

 だから、どうしても会って話をしておきたかった。


 目当ての九重の姿を探す。

 だがその途中、いきなり首根っこを何者かにつかまれた。



「っ!?」



 振り向くと、そこには先ほど帰陣したばかりの岡松が立っていた。



「お、岡松! 戻ってたのか」



「ああ、さっき。やっと森から戻ったし」



 若干苛立っている様子。

 心当たりはないが、戦場帰りだから気が立っているのだろうと鳩村は判断する。



「そうか。悪いな、休める暇もなくて」



「そういう問題じゃねーし、鈍感」



「えっ!?」



 とりあえず労いの言葉をかけたが、むしろ逆効果だったらしい。

 しかも、何だかイラついている原因が鳩村にある様子である。


 鳩村に心当たりはないが、自分が悪いのならばととりあえず謝っておく。



「ご、ごめん……」



「謝るくらいなら九重はほっとけやい。今水嶋と最後になるかもしれないって大切な話しとるから、鈍感は空気を読みすっこんで大人しくこっちにくーる! ほら、はよ!」



「あ、そ、そういうこと!」



 しかし、岡松が苛立っていだのは別のことだった。

 どうして九重を探しているのか岡松にばれたのかはわからないが、九重は今水嶋と会っていたらしい。


 なるほど、友人の最後の別れになるかもしれないときだ。

 時間も限られているから会える人も限られる。

 そこに邪魔しようなど無粋の極みだった。


 岡松に言われようやく納得できた鳩村。

 よく周りからは鈍感と言われているが、こういうことに気付けないからそう言われるのだろうとややずれた解釈をしながらも納得した。


 無粋な邪魔を野郎がするべきではない。

 すでに最上と井納がいる精鋭部隊の元へと岡松とともに向かう。


 岡松はこの後すぐに本陣の捜索のために精鋭部隊に先んじて森に出る。



「では、行ってくるでな」



「気をつけて。危なくなったら――」



「即さいなら、だろ? わーてるって」



 心配そうな鳩村をよそに、岡松は普段通りの様子だ。

 でも、どこか不安なのだろう。少しばかり表情を無理に作っているようにも感じる。



「岡松……」



「あー! 男に見送られるのは性に合わん! やい、男女!」



 心配そうに声をかける鳩村に対し、それを吹っ切れさせるようにいつもの軽口を叩く岡松。

 ついでに最上を完全に無視して井納を呼びつけた。



「えっ!? ぼ、僕なの!?」



「そうそう、ボクっ娘だし!」



「僕は男だよ!」



「わはは! こんなかなら1番女らしいし!」



「岡松くん! もう!」



 困惑しながらもきた井納は、しかし岡松の悪ふざけに顔を赤くして反論する。

 岡松のふざけた態度に、場の空気も和み不思議の不安も落ち着いてきた。



「んじゃ、後でな! 狂犬は来んなし!」



「今犬って言ったよな! 殴り飛ばす!」



「わーわー! ストップ! 郁ちゃんストップ!」



 ……偵察に出る直前に岡松が置き土産と言わんばかりの騒動を引き起こしたが。





 森林地帯を抜けた邪神軍が、囮部隊めがけて迫る。

 渓谷がその進軍を縦長にし、連合軍と当たる面は小さくなるが、しかし縦の長さを占めるその総数が違う。



「奴らを迎え撃て! 一歩たりとも谷を越えさせるな!」



 スミス将軍の号令のもと、連合軍は殺到する邪神軍と戦闘に入った。


 この渓谷の名前から、後に「ゴーティアス渓谷の戦い」と呼ばれることになる、クラムフト要塞の戦いを上回る規模の南方戦線における一大決戦が火蓋を切ることとなる。

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