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召喚された日②

 意味がわからない。

 何事もない平穏な日常、それが一瞬で非現実的な世界に突き落とされた。


 何事もない平穏な日となるはずだった。

 ……幼馴染と一緒にエレベーターに乗り込むまでは。





 △▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽





「ソレハ貴様次第ダ、異邦人ヨ」



 化物は、口を弓張月の形に変えてそう言った。


 話し合いに応じた。やはり、この化物は自分と雫を殺すことが目的ではなく、なんらかの要求があるのだろう。

 だが、雫の拘束を解く様子はない。


 とにかく雫の安全が欲しい自分は、言葉を返してくれた化物にダメ元でもなんでもいいから懇願してみた。



「頼む。抵抗しないとも逃げ出さないとも約束する、代わりに自分を縛ってくれて構わない。何か要求があるなら応える。だから、彼女を放してくれ。その人だけは助けてくれ!」



 化物は雫の命を握っている。

 それでも、相手がなんだろうが関係ない。言葉が通じ、対話する意思があるなら可能性はある。

 だから、一度頼むと口にしてからは止まらなくなった。

 自分は正座し直して床に両手をつき、化物に向かって土下座をして懇願した。



「助けてください……彼女だけは見逃してください! 自分にできることならなんでもします! だから、どうか!」



 みっともなくても構わない。

 助けてくれと、見逃してくれと、放してくれと、床に頭を叩きつけて懇願した。


 それに対し化物は――



「……ソウ来ナクテハナ」



 そう返答した。



「良イダロウ、放シテヤル」



 もしや解放してくれるのではという希望を抱いて顔を上げる。

 だが、化物は歪んだ顔を浮かべたままその希望を否定する言葉を発した。



「ダガ、無事デイラレルカハ、ヤハリ貴様次第ダ」



「何――!?」



 すると、自分の周囲を無数の異形たちが取りかこんだ。


 あの化け物の手下だろうか。人型の部位だけで2メートルを超える背丈をもつ壇上の化物と違い、平均的な人間とほぼ同身長のこれまた特撮に出てきそうな化物である。

 基本的な形は人間に即しているようだが、その表面には奇怪な躍動する血管らしきものが浮かんでおり、まるで皮のない肉ダルマのようなむき出しの筋肉のような表皮をしており、頭の部位には首なし人間のように何もない。

 骨らしきものは見えず、肉と血管で構成されている奇怪な外見をしている。


 また、他にも槍や剣を構えた甲冑姿の人間らしきものたちもいる。

 こちらは肉塊に比べて一見するとまともな鎧を着た人間に見えるが、しかし頭の部位がデュラハンのように立ち上る青白い炎があるだけで中身が見られなかった。



「くっ……」



 再び足止めを食らう。

 しかし、化物は話し合いに応じる気だけは起きたらしい。雫を拘束する蔦を解いて、彼女を下ろしてくれた。



「安心シロ。大事ナ人質ダ、殺シハシナイ。貴様ガ大人シク従ウナラバ、ナ」



 嘲笑するように化物が言う。

 彼女の拘束は解かれたが、しかし自分は動かなかった。

 すかさず配下の化物が雫を確保したためである。


 グロテスクな異形の化物に囲まれている。

 状況が違えば肝の小さい自分は恐怖に負けて気絶するような光景だが、今は不思議なほどにそんな怪物たちに囲まれてもおとなしくすることができた。

 それはきっと、壇上の化物の手にある幼馴染がいるためだろう。

 雫は蔦の拘束を解かれ、代わりに化物のそばに寄ってきた2体の甲冑に捕まえられた。

 そのまま甲冑に連れて行かれる。

 連れて行かれる際、こちらにもう一度目元に涙を浮かべた表情を見せた。



「少しだけ、待ってくれ。必ず、助けるから」



「勉……うん、待ってる」



 けど、彼女は本当に強い。

 涙を拭って、返事をしてきた。

 その顔には、自分を絶対的に信頼しいつまでも待っているという強い彼女の顔があった。


 その顔を見て、自分は決意した。

 ――絶対に彼女を助ける、と。


 雫の拘束を解き、彼女を女性型の動く甲冑2人に預けた化物は、配下に取り囲まれているこちらに目を向ける。

 その間、暴れたり助けようと無茶をしたりせず大人しくしていた自分の姿に満足げな声を発する。



「己ノ状況ヲ理解出来タ様デ結構。賢イ者ハ好キダゾ、ククク」



 化物が壇上から降りてこちらに近づいてくる。

 それに合わせ、肉塊や甲冑たちが自分の包囲を解いて道を開けた。

 雫を連れ去った今、必要ないと判断したのだろう。


 化物が近づいてきた来たことで、暗くてよく見えなかったその全貌が見える。

 そいつは、植物と人間が融合したような、奇妙な外見をした化物だった。

 服と思っていたものは葉や蔦が肌と融合しており、髪と帽子に見えていた頭には赤紫色の綺麗な大輪の花が咲いている。

 そして2メートルを超えるその姿は遠目ではわからなかったが意外なほど人に近い外見をしており、身体から生やしている植物がシルエットを化物の様に見せていたがその外見は幻想的な美しさを感じる美貌を持つ女性の姿をしていた。


 だが、蠱惑的な魅力を放つ美貌を持つ美女でも、化物であることに変わりはない。

 雫を握られている以上、抵抗も反発もしない。だが、警戒はする。


 ここで反発しても雫を危険な目に合わせるだけだ。

 ならば、この場はおとなしくしたほうがいい。


 化物の目的は分からない。

 そもそもこの化物がなんであるが、ここがどこであるか、自分にはそれさえわからない。


 理解できない状況の連続で混乱していた隙を突かれ雫を取られ、人質とされてしまった。

 言い訳だが、自分にはどうすることもできなかった。


 自分は無力だ。大事な人さえ守れない、無力な存在。

 それでも、雫を助けられるならなんでもしたい。たとえこんな化物が相手であろうとも。


 そんなこちらの心情を知ってかしらずか、化物は弓張月に見えていたあの笑みを浮かべた。



「貴様ハ、己ガ何者デアリ、我ガ何者デアリ、ソシテ、此処ガ何処カヲ理解シテイナイ。貴様ヘノ要求ハ、ソレヲ語ッテカラダ」

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