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初陣⑧

自称英雄の我輩勇者の目線です

 我輩の名は勇者である! 誰もが恋い焦がれ憧れる英雄を体現した存在、すなわち勇者なり!


 ……冗談だ。


 我輩の名は寺門(じもん)――え? さっきも聞いたからいいって?

 では飛ばそう。


 フハハハハ!

 だがしかし、我輩が勇者であるという点は真実だ。


 我輩、異世界に召喚された――ん? それもさっき聞いたから良いと?


 フハハハハ!

 良く知っているではないか!

 まあ、我輩のような英雄の活躍は有名だからな、常識であろう。


 フハハハハ!

 では、ご存知の通り異世界の勇者、男なら誰もが憧れる英雄を体現したもの、我輩である!


 その我輩は今宵、連合軍東方戦線の防衛の要と言える重要拠点のクラムフト要塞にて邪神軍どもの侵略に目を光らせていたのだが、其奴らが万の軍勢を率いて周囲の砦とこの要塞に向けて侵略を開始してきたのである。


 フハハハハ!

 我輩ある限り難攻不落のこの要塞を攻め落とすことなど不可能である。


 ……挨拶代わりのエクスプロージョンを放った時、偶然見つけただけとは言わない。

 そう、我輩には侵攻を予想できていたのである!


 と、とりあえずこう着状態を突然破って邪神軍は侵攻してきた。

 我輩はそれを迎え撃つべく、エクスプロージョンを味方が巻き込まれないように遠方の敵陣に放つ。


 フハハハハ!

 食らうが良い、一撃100殺の大爆発。

 エクスプロージョン!



「フハハハハ!」



 笑いが止まらぬわ!


 我がエクスプロージョンは100の邪神軍を一撃で薙ぎはらう。

 この火力は勇者随一と自負しているものだ。



「そらもう1発だ、食らうが良い!」



 3発目は西の砦にたかっている連中である!

 なかなか見どころのある花火が巻き起こったわ!



「フハハハハ! 我輩最強!」



 そう、英雄たる我輩は無敵である!


 異世界、英雄、すなわち最高!

 フハハハハ!


 さあ侵略者どもよ、勇者たる我が力に恐れおののくが良い!





 ……異変を感じたのは、3発目のエクスプロージョンを放った後である。


 なんか要塞の正門の方が騒がしい。


 邪神軍の一団が要塞に接近中ということで、門を開いて騎馬隊と歩兵部隊が迎撃に出たという。


 ところがその迎撃を突破して邪神軍が要塞内に侵入してきたというのだ。


 正門には城壁の上も合わせれば3,000からなる大軍が待ち構えている。

 突入してきた邪神軍はたいした数ではないだろうし、この連中は連合軍の皆に任せれば良いだろう。


 フハハハハ!

 我輩には英雄としての役目があるのでな、雑魚は任せたぞ!


 ……しかし、どういうことか。

 何と正門にいた部隊が多数の被害を出し突破を許したというではないか。


 なんたることか。

 要塞の中には非戦闘要員の人々もいる。


 庇護するべき民の身に危険が迫っているというではないか!

 これは英雄として放置してはおけない。


 どうやら連合軍には荷が重い将軍クラスの邪神族が率いているという。


 奴らは中ボスクラス、それこそ我輩たち勇者と互角以上に戦える強力な戦闘力を持つ敵だ。

 なるほど、連合軍のもの達には確かに荷が重いだろう。


 ならばこそ、ここは英雄の出番である。


 フハハハハ!

 勇者と互角に渡り合える中ボス、なるほど勇者1人のこの要塞を攻めるのには適しているだろう。

 こちらも勇者は我輩だけであるからな。一対一になれば勝てる可能性があるとても踏んだか。


 だが、それは実に愚かなり!


 フハハハハ!

 我輩を他の勇者と同じにしてもらっては困るのだよ。

 何と言っても我輩は英雄である。他の勇者とは違うのだ! フハハハハ!


 我輩は広範囲の殲滅魔法を得意とする勇者である。

 一撃の広範囲の破壊を繰り出すならば、その火力は他の勇者の追随を許さない。


 そして、我輩の魔法は射程距離が圧倒的に長いのだ。


 フハハハハ!

 馬鹿め、我輩の魔法が遥か彼方の砦を攻めている邪神どもに降り注いだことを忘れたのか!

 いかに将軍クラスといえど、我輩の力を持ってすればこの場に辿り着く前に貴様らを一方的に殲滅することなど容易いのだ!


 さあ食らうが良い、侵略者よ!

 今宵も我輩の魔法の贄となり、屍を晒すがいい!



「一撃100殺の三重奏、トライ・エクスプロージョン!」



 我輩の最大火力、エクスプロージョンの3段重ねである威力3倍の『トライ・エクスプロージョン』である。

 花火3発が盛大に邪神どものいる地を焼き尽くした。


 ……正門と逃げ切れてなかった味方まで派手に吹き飛ばしてしまったが。


 いかん、やり過ぎてしまった。

 しかし小さき代償として受け入れてもらうしかあるまい。

 この犠牲、かの中ボス的存在たる邪神の死を持って雪ぐとしよう。


 千里眼を飛ばすが、爆炎で何も見えない。

 だが、中で何かが動くような気配はない。


 ……跡形もなく吹き飛んだのか。

 フハハハハ! 思い知ったか、邪神め!


 勝利を確信して、マントを翻し決めポーズをとる。



「我輩最強! フハハハハ!」



 そして振り返った時だった。







 ――強烈な殺気が背中に突き刺さってきたのである。


 急いで防護魔法を展開したところ、直後に防護魔法の奥で爆発が起こった。



「な、何事か!?」



 いきなりでびっくりしてしまったわ。

 だが、我輩の防護魔法は我輩のエクスプロージョンも耐え抜く。この程度の爆発、どうということはないわ!



「フハハハハ!邪神の最後の抵抗というやつか。だがしかし、中ボス如きに討たれる我輩ではないわ!」



 英雄は勝利が約束されているのだよ。

 フハハハハ! 我輩やっぱり最強!


 ……しかし、いまのは本気でひやっとした。


 ふん、英雄たる我輩に一瞬でも冷や汗をかかせたのだ。あの中ボスは己の力量を誇るべきであろう。

 我輩を相手にするには百万年早かったがな! フハハハハ!



「フハハハハ! 出直すがいい! 生きていればの話だがな、フハハハハ!」



「――見つけたぞ、勇者」



「はは!?」



 な、何だと……!?


 いきなり知らない声が聞こえてきたので振り返ると、我輩が爆発から己が身を守った防護魔法の先に1人の全身黒甲冑に身を包み5メートルほどの長さの槍を携えている1人の謎の男が佇んでいたのである。


 いや、男と称するのはいささか違う。

 こいつからは、形こそ人間を模しているが今まで出会ってきた邪神の駒どもから感じとれる奴ら特有の邪神の気を感じる。


 こいつ、人間ではない。邪神の手先か!


 まさか誰にも気づかれずにこの場所までたどり着くとは、何という隠密性か。忍者のようではないか。

 ならば勇者たる我輩を暗殺しにきた者であろう。


 ふん! こそこそ隠れるネズミ風情にくれてやる命などない。

 距離を詰めれば我輩に勝てるとでも思ったか!



「愚かなり邪神族よ! フハハハハ! この距離なら我輩に勝てるとでも思ったが、甘いわ!」



 我輩の防護魔法の前には、あらゆる物理攻撃・魔法攻撃は無意味よ!


 我輩の圧倒的優勢は何も変わっていない。

 魔法のエキスパートたる我輩の前に立つとは、不幸なアサシンよ。せめてもの情けに一撃で葬り去ってくれる!



「フハハハハ! 飛んで火に入る夏の虫とはこのこと、我輩の魔法の餌食になる者がわざわざわかるとはな! しかし気づかれた時点でアサシン、貴様の負けだ!」



 邪神族は動かない。

 ふん、恐怖で身がすくんだか臆病者め。

 しかし容赦する道理はない。



「無様に散るがいい邪神の手先よ! フレイム・カノン!」



 左手を前に突き出し、火炎が形作る巨大な横渦の業炎の魔法を放つ。

 円に爆発を起こすのがエクスプロージョンなら、フレイム・カノンは直線に爆発を起こす魔法。

 食らえば邪神族といえどひとたまりもなく先の輩のように消え去るだけだ。



「フハハハハ! 勇者、いや英雄たる我輩、寺門(じもん) 関索(かんさく)の前に貴様らなど無意味!」



 潔く散れぇい!


















































 ……ズブッ。



「フハハハハ……は……?」



 ……むむ?


 妙な感覚が腹に走った気がする。

 そこで視線を下ろすと、そこには見覚えのある棒が我輩の腹から背中に通り抜けていた。


 なぜ我輩の腹に棒が伸びているのだ?

 そしてなぜ我輩の腹からトマトジュースが出ているのだ?


 ……そういえば、この棒。

 さっきの邪神族の持っていた槍の柄に見える。見えなくも、ない……。



「……ブハッ!?」



 直後、激痛に見舞われて我輩は血の塊を吐いた。



「あ、ああ……アアア゛ア゛ア゛アアアァァァァァ!」



 力が抜けて倒れる。

 激痛に頭がおかしくなり、枯れた叫び声が出る。


 な、何がどうなっているんだ!?

 何で我輩の体に槍が刺さっているんだ!?

 防護魔法は? いや、この槍の持ち主は死んだはず!


 視界に黒い靴が映る。


 見上げると、そこには先ほど焼き尽くしたはずの邪神が()()で立っていた。



「…………ッ!?」



 声にならない悲鳴、恐怖で歪む表情。


 それを見下ろす兜の奥に光る冷たい目。


 ……何だよ、これ……?

 我輩は、英雄なのに……!


 邪神が槍を抜き、振り上げる。



「やめ……た、たす……たす……っ!」



 必死に助命を乞うが、言葉がうまく紡げない。


 そうしているうちに、槍が下ろされ――
































 ――男として憧れた夢を叶え、得た力を思うがままに振るい活躍した英雄を自称する勇者は、その命の炎をあっけないほどに簡単にかき消された。

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