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スマホケース

「えー! あーちゃんもとうとう買ってもらったの!?

 しかも最新のePhoneじゃないの、いいなあ」


「ハルと同じ機種じゃないの?

 初めてだしよくわからないからお父さんと同じにしたんだよね。

 でもちょっと大きすぎて指が届かないよ」


「ウチのは旧型だよ。

 どこが違うのかわかんないけど、新しい方が自慢できるじゃん?

 指が届かないときはね、ちょっと貸して、こうやって、こうして、はい出来たよ」


 どこをどうしたのかわからないが、隣の席ハルの下へ行ってから戻ってきた私のスマホは、あかさたなが並んでいる部分が小さくなっていた。これなら右手の指が十分に届く。


「なにこれ? どうやったの?

 なんだかわからないけどありがとう」


「どういたしまして、ってこんなの基本だよ、基本。

 次の休み時間にリンメッセ入れようよ。

 みんなメールじゃなくてリンでしゃべってるからさ」


「う、うん、もうちょっとわかるように説明してよね。

 こっちは完全な初心者なんだからさ」


 始業のチャイムが鳴り始め、窓際で話していた私たちは席へと戻った。真新しいスマホは制服のポケットへ滑り込んでいく。


「あとさ、そのケースダサいよ。

 いくらなんでもおっさん臭すぎでしょ」


 担任が入って来たというのにハルはまだこそこそと話しかけてきた。私だってあんなケースじゃない方が良かった。でも購入したショップでおまけに付けてくれるケースはこれしかなく、かろうじて色が三色から選べる程度だったのだ。


「水曜日さ、買いに行こうよ。

 いい店知ってるからさ」


「うん、わかった。

 でもハルのケースみたいにウサギの耳が生えてるやつじゃない方がいいな」


「えー、これかわいいのに。

 じゃあどういうのがいいんだろ、考えとくね」


 嫌な気配を感じた私は軽く頷くにとどめ教壇へ向き直した。そしてどう見てもこちらを凝視している担任と目が合うと、ぺこりと頭を下げておいた。



◇◇◇



 水曜の午後、学校が五時間授業で終わるその日、時間を持て余した私たちはそれなりに高い頻度でターミナル駅で暇をつぶす。


 今日は、おっさん臭いと言われてしまった、あのかわいそうなスマホケースとお別れするためにやってきたのだ。かわいいアイテムに詳しい春と一緒ならきっと気にいる物が見つかるに違いない。


「いつもあーちゃんが行ってる文房具屋あるでしょ?

 あの百貨店の一階にもそこそこかわいいの売ってるよ。

 でもウチのおススメはマルジュウの二階にあるお店かな」


 ハル、同級生の大平春の言ったマルジュウは、中高生から大人の女性まで幅広く人気なテナントが並ぶファッションビルだ。


「マルジュウかあ、私はあそこ苦手なんだよね。

 キラキラしすぎて目が痛いというか」


「ていうかかわいいの欲しかったらマルジュウは外せなくない?

 おしゃれはガマンって言うし」


 ハルは得意の謎理論を振りかざす。まあとりあえず言う通りについていって、気に入ったのがあったらそこで買うかどうか決めることにしよう。


 駅からちょっとだけ離れたマルジュウについた私たちは、ハルのおススメの店へ行ってあれこれ物色した。周りにも同じような女子中高生が大勢いるので店内はかなり騒がしい。結局いくつか気になるものがあったものの、購入に至ることは無く二人は店内を出ることにした。


「ごめんね、せっかく連れて来てくれたのに買わなくて。

 たくさんありすぎて選びきれなかったよ」


「とりあえず気にいったのがあったら買ってみたら良かったのに。

 飽きたら違うのに変えたらいいんだよ」


「そんなの無理だよ、お小遣い足りなくなったら困るもん」


「あれでしょ 万年筆だっけ?

 去年のクリスマスにもらったカード、今も机の上に飾ってあるよ。

 あーちゃんの書いたやつかわいいよねー」


 そう言えば去年のクリスマスに、仲の良い数人にクリスマスカードを描いて渡していたんだっけ。その後どうしたか教えてもらったのは初めてだけど、なかなか嬉しいものである。


「そうだ! いいこと思いついた!

 お財布にも優しくてかわいいケースあるよ!」


「えっ、ほんとに!?

 じゃあ次はそこへ連れてって!」


「オッケー、すぐそこだから行ってみよう!

 ついでにウチのもお願いしちゃおっかなー」


 ついでにお願い? どういう意味だろう。ハルが何を思いついたのかわからないまま、私たちは繁華街を急いで歩いていった。



「ここよここ、ここにいいのがあるはず」


 そう言って立ち止ったのはどこにでもある100円ショップの前だった。


「ここって…… 百均じゃない。

 ここにかわいいスマホケースなんてあるの?」


「まあここじゃなくてもいいんだけど、お財布にやさしい方がいいでしょ。

 いいからハルちゃんに任せておきなさい!」


 私は首をかしげつつも頷いて、ハルの後を追って店内へ入っていった。


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