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ゴーストハンター雨宮浸  作者: シクル


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第十一話「朝宮露子と赤マント」

 赤マントと般若さんの攻防は、和葉からすれば目で追うのがやっとだった。浸の動きもかなり早いが、赤マントはそれ以上にも見えた。手数では圧倒的に赤マントが上だが、般若さんは動じない。そもそも受ける必要さえないのだ。赤マントの繰り出すナイフは、全て霊壁で阻まれている。

 赤マントの動きの継ぎ目を見抜き、般若さんは鉈で反撃していく。赤マントはそれに対して即座に反応し、回避する。パッと見互角の攻防だが、赤マントは圧倒的に不利だった。

「……このっ!」

 一応赤マントには当たらないよう、和葉は般若さんを射ったが動じる様子はない。般若さんの霊壁の前では、和葉の矢など豆鉄砲以下だ。

 ふと、赤マントが一度後退して和葉の元まで戻ってくる。

「邪魔だ。やめろ。お前は後回しにしてやるから失せろ」

「え、でも……」

 そう言い捨てるやいなや、赤マントはすぐさま般若さんの元へ駆けていく。どう考えても逃げるべきタイミングだ。ここは一度撤退して、健介を追いかけた方が良いだろう。般若さんのことは、露子と……可能なら浸と合流してから考えれば良い。しかし和葉が駆け出そうとした瞬間、般若さんに弾かれた赤マントのナイフが和葉の元へ落下する。

「……チッ!」

「赤マントさん!」

 すぐに赤マントは懐からナイフを取り出そうとするが、それよりもはやく般若さんが迫りくる。ナイフを取り出すのが先か、鉈が振り下ろされるのが先か。

 だが次の瞬間、般若さんの鉈に弾丸が直撃する。その衝撃が鉈の軌道をズラし、赤マントは無事回避に成功した。

「今のって……!?」

「お待たせ……って、なんでそこに仮面がいんのよ!」

 弾丸の主は和葉の予想通り、朝宮露子だった。彼女はその美しい金髪を汗で頬に張り付かせつつ、ゴスロリワンピースを翻しながら和葉の元へ駆けてくる。

「状況はよくわかんないけど、とにかくアンタが無事で良かったわ!」

「ありがとうございます! つゆちゃん!」

「つゆちゃん言うなっての!」

 言いつつも、露子は般若さんを二丁の拳銃で続けて銃撃する。しかしその弾丸が般若さんを撃ち抜くことはなかった。

「……ま、こうなるでしょうね。ほら、逃げるわよ!」

「銃でもダメなんですか!?」

「手数の問題じゃないのよ霊壁は! ゲームで言うなら、一定の数字以下のダメージは一切受けないってやつなのよ、アレ」

「じゃあどうすれば……!」

「決まってんでしょ! 逃げんのよ!」

 露子の言葉に一度はうなずく和葉だったが、どうしても赤マントのことが気になってしまう。果たして本当にこのまま赤マントをここに残して良いのだろうか。和葉がゴーストハンターを名乗った以上、赤マントは敵だ。

「……でもどうして、わざわざ出てきたんだろう……」

「何がよ」

 前置きなく呟く和葉に、露子は訝しげに問う。

「赤マントです。ゴーストハンターを潰すことだけが目的なら、般若さんは放っておけば良かったのに」

「それは……そうだけど……」

「……お願いします! 赤マントさんも助けてください!」

 意を決したかのように和葉がそう言うと、露子は一瞬硬直する。和葉が何を言っているのか理解が出来なかったのだ。

「は?」

「……もしかしたら良い人なのかも知れません! ゴーストハンターを襲うのも、何か事情があって……」

「ふざけないで! 事情があったら誰かを襲っても良いワケ!? 実際に負傷者が出てるのよ!?」

「それは……そうですけど……」

 般若さんと戦い続ける赤マントを見やりつつ、和葉は口ごもる。

 露子の言うことは正しい。例えどんな理由があろうとも、罪のない人間に一方的に襲いかかって良いわけがない。赤マントは、浸にだって襲いかかったのだ。

(だけど……)

 和葉がゴーストハンターを名乗った時、赤マントはどこか落胆するような声音だった。あれはもしかすると、和葉を殺したくなかったからなのではないだろうか。だから本当は、和葉にゴーストハンターではないと言って欲しかったのかも知れない。そう考えてしまった和葉は、赤マントをもうただの敵としては見られなくなっていた。

「……だったら、依頼します」

「え?」

「私から、つゆちゃんに……いいえ、ゴーストハンターの朝宮露子さんに依頼します! 赤マントさんを、助けてください!」

 真剣な表情でそんなことを言い出した和葉に、露子はどんな反応をすれば良いのかわからなかった。

 露子は、霊に対しては意識的に割り切って考えている。霊は霊、敵は敵。慈悲をかけ過ぎればこちらが殺される。赤マントの正体は不明だが、敵である以上は慈悲をかける必要はないと考えていた。

「……なんでアンタ、そんなにあいつの肩持つのよ」

「あの人は……結果的にかも知れないですけど、私を助けてくれました。私には、これ以上の理由なんていりません。私、悔しいです……自分で赤マントさんを助けられないことが」

 和葉がそう言ってから、数秒の間があった。しかし露子はわざとらしくため息をついて見せてから両手を上げる。

「あーはいはいもうわかった、降参。流石は浸の助手ね。頑固で嫌になるわ」

 言いつつ、露子は般若さんに対して銃を構える。

「ただし、本当に危なくなったら赤マントは放置するわよ!」

「ありがとうございます!」

「それと……あたしの依頼料って、高いんだからね!」

 露子の弾丸が、的確に般若さんの鉈を撃ち抜く。

「ソレは物質でしょ。お気になの?」

 霊壁をまとっているのは般若さんの本体のみだ。武器である鉈は変異した般若さんの身体の一部ではなく、ただの鉈に過ぎないため、霊壁を纏っていない。

 般若さんは緩慢な動作で露子へ視線を向ける。その隙に、露子は声を張り上げた。

「ほら赤マント! しょうがないから逃してやるわよ! とっとと帰りなさいよ!」

「……何故だ。意味がわからん。お前はゴーストハンターだろう。潰すぞ」

「やかましい! アンタが意味わかんないのが悪いんでしょうが!」

「協力しろ。こいつを仕留めてからお前を潰す」

 赤マントはそんなことをのたまいながら、和葉達の元まで後退してくる。

「馬鹿にしないで。あたしは和葉にアンタを助けろとは言われたけど、協力して戦えとは言われてないのよ」

「奴は攻撃が効かない。何か手はないのか?」

「マジでぶっ殺すわよアンタ」

 睨みつける露子だったが、赤マントは動じない。

「で、ないのか?」

「ないわよ。あたし達にはね。今の所、対策を持ってるのはあの馬鹿だけよ」

「アノバカ? 誰だそれは」

「いいから行け! そいつが来るまで持ちこたえりゃ良いのよ!」

「なるほど。わかった」

 悠然と歩いてくる般若さんに、赤マントは再び駆けていく。その後ろから、露子は銃を構える。ただ乱射しても意味はない。赤マントを援護するために、適切なタイミングで鉈を狙う必要がある。

 赤マントも般若さんと戦い続けているせいで疲労しているのか動きが鈍っている。もう、露子の援護なしでは凌ぎきれないだろう。

「おとぼけ。アンタははやく逃げた子のとこに行ってやって」

「……はい!」

 これ以上は和葉がここに残っても仕方がない。和葉はすぐに、健介を捜して走り出した。



***



 露子達の元を離れ、和葉は健介を捜して当て所なく走り回る。夜はすっかり更けてしまい、真っ暗でよく見えない。それでもなんとか捜し続けていると、ようやく木の根元でうずくまっている健介の姿を見つけ出す。

「健介くん!」

「え、お姉ちゃん!?」

 目元を真っ赤に腫らした健介は、和葉の姿を見るとすぐに駆け寄って飛びついてくる。そんな健介を抱きとめて、和葉はそのまま抱きしめる。

「良かった……無事だったんだね! 頑張ったね!」

「……うん! ありがとう、お姉ちゃん!」

「一人で怖かったよね。もう大丈夫だからね!」

「……へ、平気だったよ……!」

 そう言って、健介は握っていた拳をそっと開く。健介が握り込んでいたのは、和葉が渡したキャンディーの包み紙だった。

「これで……元気出たから!」

 一瞬、なんのことなのか和葉にはよくわからなかった。けれど、すぐに理解して、たまらなくなってもう一度健介を抱きしめる。

 ほんの少しだとしても、自分が誰かを助けられた、元気づけられた。その事実に誰より和葉が救われてしまっていた。

「良かった……良かった……!」

 後はこの山を降りて、健介を家まで送り届けるのが和葉の役目だろう。浸と露子を信じて、後は託すしかない。



***



「……ったく。なんであたしがこんなやつと一緒にへばんなきゃいけないのよ」

 和葉が健介と合流した頃、露子と赤マントは既に満身創痍の状態だった。もう赤マントは般若さんの攻撃を捌き切れず、露子も弾をほとんど撃ち尽くしてしまっている。時間自体はそれ程経っていないが、それ程までに般若さんの戦力は圧倒的だったのだ。

「……ここで終わるわけにはいかない」

「はぁ!? あたしだってそうなんだけど! 何自分だけ使命ありますみたいな言い方してんのよ通り魔仮面が!」

「通り魔ではない。相手は選んでいる」

「どの道悪いわ!」

 最早防戦一方となった二人は、逃げるようにして後退しながら般若さんを引きつけている。

「……多分もう、和葉は逃げ切ったと思う。これ以上こいつと戦う理由もないわね」

「そうだな」

「独り言よ! 答えんな!」

 だがこの状態で般若さんから逃げ切るのは体力的に厳しい。万事休すか、と露子が舌打ちした瞬間、二人の前に黒い影が駆けてくる。

「……アンタ!」

 その人影は即座に抜刀し、般若さんと対峙した。

「はぁ……はぁっ……!」

 息は荒く、足も少しだけふらついている。しかし見慣れたその背中に、露子は思わず安堵のため息をついてしまう。

「……申し訳ありません。お待たせしました……っ!」

「遅いわよ……浸!」

 振り下ろされた般若さんの鉈を、浸の刀が受け止めた。

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