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偽名少女  作者: かいわれ
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でこぼこコンビ

 長い入学式が終わった後、一旦教室に戻ったが、すぐにお開きになった。

不愛想な担任とはいえ、配布物を手渡されただけで特に何も連絡はなく、さっさと帰ってしまった。

そのため生徒は混乱していた。


「…僕たち帰っていいのでしょうか」

「先生いないしいいんじゃないかな…?他にもちらほら帰ってる人いるし」


教室を見渡すと確かに空いてる席があった。既にノートや筆箱が置き勉されているのでいたに違いないだろう。

帰ることにした二人は椅子から立ち上がる。それを見た美園も遅れて立ち上がる。


「それにしても校長先生の話長いし、担任は不愛想だし大丈夫なんですかね…。この学校」

「そうね…。まあ問題は授業よね。これで授業までおかしいと困っちゃうわね」

「えっ…高校って授業あるの…!?」


正直ここに来てそんな質問が出るとは思っていなかったのか、志園の顔が赤くなる。


「ちょっ…美園、当たり前でしょ!高校を何だと思ってるの!」

「遊ぶところ…」

「あのねぇ…ってじゃあさっきまでは何で緊張してたの?」


志園が呆れ顔で問う。


「えっと…友達と仲良くできるかな…とか、いじめられるんじゃないか…とか…」


言い終えた瞬間、明鶴が「僕もそうだった」と呟いた。


「えっ…?」

「僕だってさ、昨日まではクラスに馴染めるかとか、クラスで浮いたやつにならないかとか心配事で頭がいっぱいだったよ。でもいざ来てみたら赤葉野さんみたいに優しい人もいてさ、安心して悩みが吹き飛んだよ。…確かに教師陣は変わった人が多いけど、赤羽さんだってそのうち悩みがなくなるよ。それに何かあったら僕もできるだけ力貸すし。だから安心して」


美園はうなづいた。




 話しが一段落すると一行は教室のドアへ向かった。

話しをしている間に教室には誰もいなくなっていたため、ドアへはすんなりと着くことができた。


「さ、帰りましょ」


そう言って明鶴がドアに手を掛けようとした瞬間、ドアがひとりでに動いた。


「えっ…」


この学校のドアって自動ドアだったっけ。そんな様子でドアを伺う。

その次の瞬間――


「ドーーーン!!!」

「うわああぁぁぁぁっ!」


突然少女が飛び出してきた。

それに驚いた明鶴が大声を上げ、床にしりもちをついた。


「やっぱり"あずあず"じゃん!奇遇だな~高校が一緒だなんてな~」

「なんで常磐(ときわ)さんがここにいるんだ…?」

「私がこの雪ノ高校の生徒だからに決まってるだろ!?何馬鹿なことを言ってるんだ」


常磐と思わしき少女はしりもちをついた明鶴に指をさしながら喋る。


「えっと…この人は…?」


志園が明鶴に問う。


「その人はとき――」

「隣のクラスの常磐(あや)で~す!よろしくね~」


答えようとした明鶴の話を切り綾は自ら自己紹介をする。


「あ、このカチューシャがトレードマークだからぜひ覚えてね」


綾が自分の着けている黒いリボンのついたカチューシャを指さしながら言う。

金髪の綾にはよく似合っていた。


「そんなこと言ったって普段は着けてないじゃないか…」

「逆に普段着けているんだよ!…まったく、他人(ひと)のプライベートを知っているかのようにべらべらと…」

「別にべらべらとは話してないだろ…」


呆れ顔で首を振った綾は突然何かを見つけたような目で美園を見つめた。

そして美園に向かって突進した。


「わっ…」

「なにこの子チョー可愛いじゃん!!」


綾は美園の頭をなでたり、頬をつついたり、思いっきり抱きしめたりした。


「それにしても私より背の低い子がいたとは~これで私はちびって言われずに済む――」


と言いかけた瞬間、志園は綾の腕をつかみ、プロ顔負けの背負い投げをした。

綾は宙を舞い、ホコリを巻き上げながら床に落ちた。


「赤葉野さん…!?」

「なんだ貴様は!澤田の手先か!生徒のフリをしたってもうわかってるんだぞ!」


志園は人が変わったように話しだした。


「澤田ァ?何のことだが知らんが、私は怪しい宗教団体でもなければマフィアでもないぞ!父親が菓子メーカーの社長なだけで普通の女子中学生…じゃなかった。女子高生だぞ!」


綾は対抗するように大声で言い返した。ついでにちょっと自慢した。


「てかあずあず!こいつは何なんだ!急に私を投げ飛ばしやがって!」

「この人は赤葉野さん。で、常磐さんがさっき撫でてた人が赤羽さん」


明鶴は尻に付いたホコリをはたきながら言った。


「ふーん。てかなんでさっき私を投げ飛ばしやがったんだ!しかもその後なんだか知らないがどこかの手先とか言うし。大体なぁ、私が何をしたっていうんだよ!もしかして私はその子に触っちゃダメってか!冗談じゃな――」


怒り狂う綾の口をスラっときれいな手が塞いだ。


「もガガガ…モガ……」

「すいませんね。騒がしくしてしまって」


手の主が姿を現した。

手の主が現れた瞬間、教室中がバラのような心地よい香りで包まれた。


「えっと…どちら様?」

「あ、紹介が遅れました。私、(この子)と同じクラスの山手(やまのて)(うぐいす)と申します。よろしくお願いしますね」


自己紹介を終えた鶯の手を綾はふり払った。

呼吸を整え、鶯に話しかける。


「なんで鶯がここにいるんだ?」

「綾ちゃん一緒に帰ろうって言ったのに勝手にどこかに行っちゃうんだもん。で、校舎中探してたら綾ちゃんの声がしたからここに来たの。それにしても相変わらず大きい声ねぇ~。びっくりしたでしょ?」


鶯はそう問いかけるなり美園をそっと抱きしめた。

美園の顔はたちまち赤くなる。


「はわわ…」

「ちょっと鶯!その子に触れたらあの桃髪女に殺されるぞ!」


綾は鶯に小声で注意喚起する。


「そうなの?ごめんなさいね。あまりに可愛かったものでつい」

「あ、いえいえ大丈夫ですよ」

「あーっ!おい!さっき私がした時は背負い投げしたく――」


綾は再び口を塞がれる。


「そうだ、せっかくだからなにか食べに行きません?お詫びに奢りますよ」

モガガッガガッガ(お詫びってなんだ)ー!!」

「お詫びなんてそんな…」


志園が断る。しかし、その横で美園は行きたそうな表情を浮かべた。


「いいじゃないですか、折角ですし。ね、行きましょう!」


明鶴の声にも志園は表情を変えなかったが、一行は教室を出、飲食店を探しに向かった。

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