EP01 XXXです。
エピソードなので本編に直接ではないですが、ある程度関係しているという何とも言い難いポジションに当たる部分です。
元々は章ごとの一番最初に前書きとして組み込む予定でしたが(最初以外にも組み込む予定だったが)、思ったより長くなってしまい、タイトル詐欺に近いことが起こる可能性があった(?)のでこのように独立させることにしました。
20XX年8月XX日
暑い真夏日。とある親子は散歩していた。
ベビーカーに乗る小さい女の子と、日焼けを気にしてか長袖の服を着ている母親。
親子は何不自由ない生活を送っていた。
赤ん坊は被っていた麦わら帽子を手に取り、力いっぱい振り回した。
「こら~、危ないわよ」
そう言うが赤ん坊は楽しいのか、"危ない"と言う意味が分からないのか、振り回すのをやめなかった。
けれど母親は笑顔のままだった。
自分は今幸福の絶頂にいる。この子を叱っては罰が当たるだけだ。不幸とは無縁だ。幸福に陶酔してそう思っていた。
「うあぅ」
赤ん坊がつかんでいた帽子が手を離れ宙を舞う。
母親がそれを拾おうとする。
しかしその瞬間後方から風が吹く。
母親はベビーカーを押しながら帽子を追いかける。
風に乗った帽子は障害物に当たって止まった。
誰かがそれを拾い上げる。
「はい。どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
障害物の主――黒いスーツ姿の中年男は笑顔で拾った麦わら帽子を手渡す。
「可愛い娘さんですね」
「はい、自慢の娘です」
「名前は何というのですか」
「えっと、XXXです」
「XXXちゃんですか。可愛らしい名前ですね」
そして男は赤ん坊に触れる。
赤ん坊は嫌がる素振りを見せる。
「す、すいません!もうXXXったら~」
「ははは、いいんですよ。こちらこそいきなりすいません」
男はため息をつく。そして再び笑顔に戻る。
「それじゃあ私はこれで」
男はそう母親に言ってから赤ん坊に小さく手を振った。
そして母親の頬に人差し指をツンと当てた。
「ひゃっ!?」
「また会いましょうね」
そう言って男は去っていった。
「…帰らないと。買い物に行かなくちゃ」
母親は震え声で男にツンとされたところを抑えながら帰宅した。