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「うげっ!?弾薬たっか!」
「これが【銃】が不遇になった原因の一つですわ。消耗品の癖に値段は一級品なんですの」
「6発500Gって幾らなんでも高すぎるよ………。いっそのこと自作でもしようかな?」
所変わって、現在東大通りの一角にある武器屋に来たボク達。目的は弾薬の補充と、刀や銃の手入れ用品の購入だ。
手入れ用品は何事もなく買えた。だが問題は弾薬だ。
値段が高い。ひたすらに高い。
比較対照に、矢を挙げてみよう。
まず、最初に手に入る矢は『木の矢』というもので、お値段は一セット(10本)50G。矢尻がついてないだけあって、威力はないも同然らしい。
次に『石の矢』そこそこの性能で一セットお値段100G。
最後に『鉄の矢』初期に手に入る矢のなかでは一番性能がいい。一セットお値段250G。
では次は銃弾だ。
最初に手に入る『鉄の弾薬』一セット(6発)お値段500G。
次に、上位互換の『鉛の弾薬』威力が高めで一セットお値段1000G。
逆じゃね?鉛の方が沢山採れなかったっけか。
「細かいことはあまり気にしない方がいいですわ。あと弾薬はまだ誰も作れていなかったはずですわ」
「自作すら出来ないんかい…………。まあいいや、取り合えず買っちゃおう。すいません『鉄の弾薬』100セットください」
取り合えず100セット。合計600発購入だ。こんだけあればしばらくは持つだろう。1発でロンリーウルフが1殺できるから、単純計算で600匹は狩れるな。
「なんだ、嬢ちゃんは銃使うのか」
「そうですけど、それがなにか?」
「いーや珍しいなと思ってなあ。あ、そうだそうだ!なぁ嬢ちゃん、新しい銃を買わねえか?今なら安くしとくぜ?」
「銃………ですか?」
新しい銃、か。ぶっちゃけ今はそれほど欲しいとは思えないな。
今の銃でも割りと事足りている。だけど、しいていうならもう少し大きな銃が欲しいところだ。今の銃だと刀と同時に使うとバランスが取りにくいし。
そんな葛藤をしていると「なーにまずは見てくれよ。きっと気に入るからよっ!」と言って店員が店の奥に入っていった。
こうなったら待つしかない。カウンターに並ぶ砥石を眺めて時間を潰す。
「ほらよっ、こいつだ」
「あ、はい……………あの、これ銃ですか?大砲じゃなくて?」
「一応銃らしい。弾を卸してくれるねーちゃんが前に持ってきたんだが、誰も買ってくれなくてなぁ。デカイし重いし場所取るしでもて余してんだよ。買ってくんねえか?」
店員が持ってきたのは、ボルトアクションのライフル(?)だ。但し特大。全長二メートル、重厚なバレルに木製のストックのシンプルなデザインだ。
持たせてもらうとかなりズッシリと来るけど、以外と収まりがいい。とそうだ、ついでに《鑑定》もしておこう。
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手持ち式大砲 品質B+ レア度☆☆☆☆
人間が生身で使用できるように作られた大砲。形状はボルトアクション式のライフルに酷似している。使用可能弾薬は、専用の徹甲弾と炸裂弾の二種類。
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おいやっぱ大砲じゃねえか。
「なあなあ買ってくれねえか?本来ならセットで5万Gの所を3万G!さらに肩紐と弾をいれるレッグポーチも付けるからよー」
「………弾は何発?」
「徹甲弾が30発、炸裂弾が10発だ。」
ぬぅ、かなりお買い得だな………。お金も余裕があるし個人的にロマン砲には魅力を感じている。どうするか───。
「で、買ってしまったと」
「あんだけサービスがつくなら買わないと。チャンスは逃さず手に入れるがボクのモットーだからね」
今のボクの肩には手持ち式大砲が背負われている。
あれから悩んだ結果、結局購入することになった。今は別に火力不足ということはないがいずれは不足することもあるだろう。だからこれは先行投資みたいもんだ。
「けれどそんなに大きな銃、使いこなせますの?かなり重たそうですけど」
「確かに取り回しは悪いけど、十分扱えるよ」
先程空き地で軽く振り回してみたが、リロードに手間取るぐらいで問題はなかった。それについては練習あるのみだが、いざ戦場でリロードできなかったら鈍器にしてしまえばいい。コイツは重いし頑丈だから問題ないだろうし。
しかしアレだな、コイツを担いでると無性に撃ちたくなってくる。どれほどの威力がでるのか、もしかしたら喰らった相手が肉骨粉になったりするのかな?早く試してみたいな。
「ダメですわよお姉さま、夜の狩りは今のお姉さまでは危険すぎますわ!」
「さすがに行かないよ。こうも暗いと戦闘どころじゃないしね。おとなしくログアウトするよ」
現在のゲーム時間は20時。辺りはもう真っ暗だ。
このゲームの一日は現実時間での四時間。サービス開始が正午で今はもう20時。現実一時間がゲームで六時間だから、ゲームを始めて一時間以上たっている筈。そろそろログアウトしとかないといろいろ不味いことになる。主に尊厳とかが。
ヤバくなったらアラームがなるようにはなっているが、決壊寸前は避けたいところだ。
「お姉さま、装備を取りに行くときにワタクシもついていっていいですか?」
「構わないよ、何時に待ち合わせする?」
「ゲーム時間で9時半にいたしましょう。場所は集いの広場で」
「わかった。じゃあお先に。リュウビもまたあとで」
「キュッ!」
皆に挨拶を済ませ、メニューを開いてログアウトを押す。するとボクの視界はあっという間にブラックアウトしていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
時間を置いて再度ログイン。集いの広場に降り立つ。
集いの広場は相も変わらず人でごった返している。そんな中に大砲背負って頭にドラゴン乗っけてるとすごい目立つ。正直居心地が悪い。
「お姉さまっ、こっちですわ!」
「はいよー。よっと、ちょっと通りますよ」
回りの人にぶつけないように、手持ち式大砲を手で持って人混みを掻き分けていく。なぜか行く先々でギョッとされるが、そんなにおかしいか?ボクより奇抜なやつなんて探せば幾らでもいるぞ。取り合えず、一人はこの街に確実にいる。
「おまたせー、てどしたの、そんな豆鉄砲が鳩食った顔して」
「逆さになってますわよお姉さま。ワタクシはお姉さまがそれを片手で持ち上げたことに驚いてるんですわ」
レーカが指差すのは手持ち式大砲。確かにコイツは重たいが、ボクにとってはまだまだ許容範囲だ。
「驚くことかな?たかが十キロちょいだよ。これくらいならまだ軽いほうさ」
「そういえば、お姉さまは見掛けによらず力持ちでしたわね………」
そんな話をしながらキャサリンの露店へと向かう。
…………どうも見られてる感じがして落ち着かないな。いっそ走り抜けるか?いや今はレーカが一緒にいるから流石にダメか。仕方ない、もう少しの辛抱だ。
そうこうしている内にキャサリンの露店に到着する。その頃には視線が集中することにもなれてきていた。
「待ってたわよぉスカイちゃん、ほら、これが依頼の品よぅ。なかなかいいのができたわぁん♪」
体をくねらせながら胸を張るキャサリン。本人は自覚がないんだろうがすごい迫力だ。
まあそれはともかく、今はボクの装備だ。
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風独走狼のコート 品質B+ レア度☆☆☆
風独走狼の全身毛皮で作られたコート。
丁寧に作られておりとても丈夫。フードには獣耳が付けられている。風属性の魔力を帯びていて、身に付けると素早さに補整がかかる。
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風独走狼の革鎧 品質B+ レア度☆☆☆
風独走狼の全身毛皮で作られた革鎧。
板金で補強されている。風属性の魔力を帯びていて、身に付けると素早さに補整がかかる。
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風独走狼のホットパンツ 品質B+ レア度☆☆☆
風独走狼の全身毛皮で作られたホットパンツ。
丈が短いため、脚部の動きを阻害しない。
風属性の魔力を帯びていて、身に付けると素早さに補整がかかる。
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風独走狼の籠手 品質B+ レア度☆☆☆
風独走狼の全身毛皮で作られた籠手。
板金で補強されていて、殴打の際ダメージに補整がかかる。指貫になっていて行動を阻害しない。
風属性の魔力を帯びていて、身に付けると素早さに補整がかかる。
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風独走狼の膝当て 品質B+ レア度☆☆☆
風独走狼の全身毛皮で作られた膝当て。
板金で補強されている。風属性の魔力を帯びていて、身に付けると素早さに補整がかかる。
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風独走狼のブーツ 品質A レア度☆☆☆
スキル【加速】の付与されたブーツを風独走狼の全身毛皮で強化したもの。板金で補強されている他、至るところに独狼の牙が仕込まれており、攻撃性が上がっている。
履くだけで速度が上昇し、アーツ《アクセル》を使用することができるようになる。
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テーブルに並べられたのは緑色がメインの装備品の数々。
どれもこれもボクの想定していたもの以上の出来だ。特にこのブーツの攻撃的なデザインがボクの趣味にドンピシャだ。
「どうかしらん?興が乗っていくらか注文にないカスタムもしちゃったけど。嫌なら手直しするわよぉ?」
「まったく嫌じゃないです!むしろ凄くいい!これ、着てみてもいいですか?」
「いいわよぉ、そこの簡易更衣室をつかってねぇ。あ、鎧の下にはこれを着てねぇ」
装備品とインナーとTシャツを受け取り、更衣室へと駆け込む。
ギルド受付嬢の制服は畳んでバッグの中へ。これは予備の服としてとっておこう。
インナーとTシャツを着てホットパンツを履く。次に革鎧、籠手、膝当て、ブーツ、それと武器屋で貰ったレッグポーチを身に付け、コートを羽織り、その上からマジックバッグを付ける。最後に牛皮のガンベルトを巻いて刀を提げれば完成だ。
「あ~ら、なかなかいいんじゃないかしらん?どう?なんか違和感とかないかしら?」
「大丈夫です、問題ありません」
「とても似合ってますわお姉さま!」
飛び付いてくるレーカを受け止めつつ、体を軽く動かしてみる。
やっぱり普段よりも体が軽い。装備の効果もあながち馬鹿に出来ない。後は実戦でどのくらい動けるかだな。
「キャシーさん、これの値段は?」
「そうねぇ。今回は素材持ち込みで、しかもレア素材でレベルの上がりも良かったから………4万Gってとこかしら。毛皮の端切れを半分譲ってくれたらもう少し安くできるわよぉ」
「それでしたら全部貰ってくれるとありがたいんですけど」
ボクは自分で服を作る訳じゃないから、端切れは持ってても邪魔になる。只でさえ弾薬でバッグの用量が圧迫されているというのに。
そう言うとキャシーは「装備の修復には端切れを使うからある程度は持っといた方がいいわよぉ」と言われた。なるほど、それがあったか。
「それなら半分譲ります」
「わかったわぁん。そしたらお値段は……………2万5000Gになるわぁ」
財布から代金を取り出しキャシーさんに渡す。
「あ、そうそう!ねぇスカイちゃん、よかったらアタシとフレンド登録しない?貴女にはこれからもうちの店をご贔屓にしてもらいたいしぃ」
キャシーさんからフレンド申請が送られてくる。
これはありがたい話だ。ボクも装備についてはキャシーさんに頼むつもりでいたし、願ったり叶ったりだ。
フレンド登録を済ませ、キャシーさんの露店を後にして次に向かうのは、東門から出たところにある草原だ。目的は手持ち式大砲の試し撃ちとリュウビのレベル上げ。別に北の荒野でもいいんだけど、あそこは今のリュウビには厳しいものがある。
そこでレーカにいい場所はないかと聞いたところ、上げられたのがこの東の草原だったわけだ。
「ここが東の草原ですわ。出現する敵は“スライム”と“ホーンラビット”。どちらも雑魚ですのでリュウビちゃんでも問題ないかと」
「なるほど。よっしリュウビ!まずはあそこのウサギからだ!」
「キュィイー!」
ボクのフードからリュウビが飛び出し、手近なホーンラビットに飛び掛かる。大きさはホーンラビットの方が一回り、いや二回りは大きい。
だけどリュウビはちっちゃくてもドラゴン。抵抗されながらも背中に食い付き、果敢に攻めていた。
うん、これなら大丈夫そうだ。
仕留めきるにはまだ時間が掛かりそうだ。この間にコイツの試し撃ちを済ませとこう。
肩から手持ち式大砲を降ろして構える。
そして装填。込める弾は徹甲弾だ。
狙いはそうだな、まずはあのホーンラビットにするか。
手持ち式大砲の威力、しかと見させて貰おう。