はじめの依頼
俺は物心が付く前からとある特殊能力を持っている。なぜ能力を得たのか分からない。まあ今の俺にはそんなに重要じゃないからいいか。過去に何があろうと今この能力のおかげで仕事が出来ている。深く考えたところで答えは出ないだろう。
俺は今探偵として働いている。「動物と話せる」能力を持つ俺には天職だ。天職に転職。面白い。さすが俺。俺さすが。倒置法が使える俺すごい。すごい俺。どうだ対句だぞ。
こんなバカげたことを考えていたらもう依頼者が来る時間だ。
ぴろりぴろりぴろりぴろり ポテトが揚がったのではない。事務所のベル音だ。
「ポテト揚がりました?」
「その件もうやったから。えっと依頼者の?」
「神宮寺 彩愛です」
随分強そうな名前だ。
「強そうな名前ですね。」
「よく言われます。」
「依頼は?」
「猫をさがしてほしくて。」
「得意です。」
「知ってます。だから来たんです。」
そうだ。俺の事務所はペット捜索にべらぼうに長けている。能力のことを伏せてはいるがペット発見率100%を売りにしている。
「特徴は?」
「特徴って?」
「例えば大きさとか色とか、そういう情報をいただかないと探すのが難しいので。」
「えっと身長は165cm体重は普通。色はうすだいだいです。」
「そういう事じゃなくて。」
「スリーサイズですか!?失礼な!」
「あなたのじゃなくて猫のです。」
「あ、なーんだ。これといって特徴のない白い猫です。」
「種類は?」
「真っ白ってよりは乳白色に近いですかね。クリーム色程黄色ではないです。」
「色の種類じゃなくて猫の種類で。」
「ミックスのみけねこです。」
「オスですか?メスですか?まあ、みけねこの場合はほとんどがメスですけどね。」
よく知られた話ではあるが、みけねこのオスは3万匹に1匹ぐらい珍しい。
すると彼女は頬を赤らめながら
「恥ずかしいです。」
「ごめんなさい。あなたの気持ちが理解できない。」
「私下ネタ苦手なんです。」
「どこに下ネタ要素がありました?」
話が全然進まない。
「えっともういいので書ける範囲でこの書類を書いてください。」
そう言って俺は問診票を渡した。問診票とは読んでいるが猫の特徴を書いてもらうものだ。
「すみません。まだお茶の一つも出てないんですけど。」
「申し訳ありません。」
落ち着け俺。相手のペースにのまれるな。
「コーヒーでいいですか?」
「お気になさらずに。」
お前が言ったんだろ。
「なにか入れますか?」
「増えるワカメを入れてください。」
増えるワカメあったかな。たしか戸棚の中に。
「増えるワカメ入れるの初めてで思いのほか増えてしまいました。」
そう言いながら彼女の元へ。と思ったが彼女はいなくなっていた。
「は?」
書類は机の上に置いてあった。所々空欄はあるものの1通り書いてくれたようだ。書類の端に
「家の鍵掛けてきたか不安になったので帰ります。見つけ次第連絡ください。」
と書いてあった。おい、どうしたらいいんだよ。まあ探すけどさ。
そう言ってコーヒーを一気に飲み干した。ワカメにコーヒーが染みて不思議な味だった。