表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

想曲・陸〜茜〜

 我が命を代償とすると、そう告げた従者の赤い瞳に迷いはない。鋼鉄の決意を秘めたその瞳を、主は冷徹なまでの静かな深緑の双眸で見据えた。

 張り詰めてゆく緊張。重い沈黙。

 無言の対峙がどれ程長く続いただろうか。しかし本当は、その対峙はほんの数秒間。

 ゆっくりと、主はその瞼を閉じた。

「――――わかった」

 凪いだ深海の声が了承を告げた。そのまま彼は席を立ち、部屋を出て行った。

 その背に、ラキは声をかけることが出来なかった。扉が閉ざされ、遠ざかっていく足音を聞きながら、ラキは覚悟を決めた兄を心配そうに見つめた。

 ラウがゆっくりと振り返った。緋色の翼を一度羽ばたかせる。その姿は、彼の犯した罪の証。

「ラキ。すまないな」

「いえ…」

 その赤い瞳に浮かぶ優しい光に、ラキは顔を歪めた。

「兄さん…。後悔は、しませんか?」

 ラキの静かな問いかけに、ラウは瞑目した。それが、答え。

 窓の外は純潔の静寂。さんさんと舞い降りる六花が、地上の全てを純白へと変えていく。




 昨夜遅くまで降っていた雪は日が中天に差しかかる頃には止んでいた。厚い雲は晴れ、柔らかな日差しが室内へと差し込んでくる。

 開け放たれた窓から少し離れた巨木の枝にとまり、ラウは病室の様子を見守っていた。

 白色のベッドに横たわった少女。その傍らに立つ両親らしき人物が心配そうにその様子を見守っている。瞼が震える。ゆっくりとその瞳が開けられた。

 涙を流す母親。淡く微笑む父親。意識を取り戻した娘を、二人は愛しそうに抱き締めた。

 幸せそうな親子の様子に、ラウはその赤い瞳を細めた。

「…どうか、幸せに」

 呟きは、決して彼女には届かない。それでも、この気持ちだけは。

 ラウは静かに瞳を閉じる。いずれ訪れる魂の消滅に、一片の恐怖も感じる事無く。凪いだ心でただ願うのは、愛しい人が愛した者達の幸せ。

 地平線へと陽が沈む。橙色に染まる空。冷たい夜の帳が下りる前の、束の間の優しさ。全ての者達の至福を願う、茜色の空。



ΨΨΨΨΨ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ