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月の戦姫と金星の浮遊都市  作者: 川越トーマ
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金星上空の戦い

「逃亡中の大統領専用機の乗員に告げる。無駄な抵抗はやめて直ちに降伏せよ」

 アントニオ・エストラーダ艦長は通信機で大統領専用機アルテミスに呼びかけた。

 まもなく宇宙護衛艦エラトステネスの主力兵装である電磁誘導砲の有効射程に入るところだった。

 電磁誘導砲は、金属製の砲弾を電磁力で加速し超高速で発射する兵器で、エラトステネスに搭載されている火器の中では、ミサイルよりも射程が長く、レーザー砲よりも破壊力が大きかった。

 エストラーダ艦長はすでに電磁誘導砲の発射準備を指示しており、相手からの返信を少しの間、待った。

 しかし、射程に入ってからも相手からは何の反応もなかった。

「電磁誘導砲発射準備よし」

 宇宙護衛艦エラトステネスのコントロールルームに、エミリオ・ガルシア中尉の声が響いた。

 大統領専用機には電磁誘導砲は搭載されていなかったがミサイルやレーザー砲は搭載されていた。

 そのため、このまま距離が縮まれば逆に向こうから攻撃される恐れがあった。

 できれば捕らえよと命じられてはいたが、艦長としてはそろそろ決断を下さなければならなかった。

「撃て」

 アントニオ・エストラーダ艦長の低い声に一瞬遅れて電磁誘導砲の発射音が微かに響いた。

 電磁誘導の力で火薬よりも高速で砲弾を発射する兵器であるため、艦内が火薬の爆発音にさらされることはなかった。

 葉巻型のエラトステネスの前方上下に設けられた二連装旋回砲塔二つが合計四発の砲弾を発射した。

 四発の砲弾は回避運動を予測して着弾位置を一発づつ微妙にずらしていた。

 しかし、大統領専用機アルテミスはデルタ翼を斜めに傾けると金星大気の抵抗を利用して素早く進路をずらした。

「かわされました」

 距離があるため着弾まで時間がかかった。

 逆に相手はセンサーで電磁誘導の発生状況を光の速さで確認できた。

 そのため、遠距離攻撃の場合は回避運動が成功する確率が高かった。

「敵艦ミサイル発射。四発です」

 アネット・バロー中尉の声が響いた。

「迎撃ミサイル!」

「目標確認、迎撃します」

 エストラーダ艦長の声に機敏に応えたのは革命組織のサーシャ・グリンベルグだった。

 彼女は火器担当の補助としてミサイル発射システムを任されていた。

「パルスレーザー迎撃システム自動追尾開始」

 迎撃ミサイルの発射と同時にガルシア中尉がミサイルで迎撃しきれなかったときの準備を開始した。

 頭上の大型モニターに、二発の敵ミサイルが迎撃ミサイルによって破壊され、さらに残りの二発がパルスレーザーの掃射によって破壊されるのが見えた。

「迎撃に成功」

 ガルシア中尉の嬉しそうな声が響いた。

 戦闘は長い時間は続かなかった。

 最大加速で航行していた宇宙護衛艦エラトステネスと金星の浮遊都市への降下をはじめた大統領専用機アルテミスの相対速度差は大きく、あっという間にアルテミスはエラトステネスの視界から消えた。

「金星の重力を利用してブレーキをかける。周回軌道に乗ったら再度攻撃だ」

 初戦ではアルテミスに見事に逃げられた。

 エストラーダ艦長は奥歯を強くかみ締めていた。

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