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月の戦姫と金星の浮遊都市  作者: 川越トーマ
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宇宙護衛艦エラトステネス

「大統領専用機、一八〇度回頭、減速します。」

 五メートル四方の部屋に八名の人間がひしめいていた。

 部屋は薄暗く電子機器がびっしりと詰め込まれていた。

 人間の前の大小のモニターには様々なデータがリアルタイムで表示されており、天井に取り付けられた大型モニターには、漆黒の宇宙空間を背景に機首をこちらに向け白銀に輝くデルタ翼の宇宙船の映像が映し出されていた。

 かなり遠距離の望遠映像であったが、空気がないため映像はぼやけることなく、クリアだった。

「ずいぶん遠くまで逃げてきたが、ようやく我々と一戦交える気持ちになったか?」

 索敵担当士官の報告を受けて、宇宙護衛艦エラトステネスの艦長、アントニオ・エストラーダ少佐は低い声を響かせた。

 圧倒的な巨躯を持つ猛禽類のような男だった。

 軍用の白い簡易宇宙服を着用しており、ヘルメットの中では鳶色の瞳が鋭い光を放っていた。

「いえ、金星の周回軌道に乗るつもりだと思われます」

 索敵を担当するアネット・バロー中尉が異を唱えた。

 長身の若い女性士官でヘルメットの中で金色の髪が頬にかかっていた。

「金星? 地上は高温、高圧で逃げ込める場所などあるまいに」

 低くかすれた声の男がいぶかしげにつぶやいた。

 太り気味の浅黒い肌の髭面の男で目が異様にぎらついているのが印象的だった。

 通常、副長が座る場所に尊大な態度で腰掛けていたが軍服は着ていなかった。

「同志ノラザン、確か金星には浮遊都市があるはずです」

 火器担当の席に座っていた白磁の人形のような長身の美女が言った。

 革命組織ルナ救国戦線の戦士サーシャ・グリンベルグだった。

 彼女は元大統領を追って、同じくルナ救国戦線のモハド・ノラザンとともに人民軍の宇宙護衛艦エラトステネスに乗り込んでいた。

 人民の敵ライリー・アレン元大統領の追跡任務を人民軍だけに任せてはおけないというのが彼らルナ救国戦線の立場だった。

 国防大臣ウラジミール・ミリャの死亡を契機に革命組織と共闘することを決めた人民軍の首脳部からの指示があったため、二人は軍の護衛艦に乗ることになった。

 しかし、エラトステネスには余計な乗員を乗せる余裕がなかったため、モハドは副長席、サーシャは火器担当補助の席についていた。

 その分、正規の乗組員が減り戦力ダウンする結果になり、エストラーダ艦長は面白くなかった。

 サーシャ・グリンベルクの方は、まだ新米の兵士として許容できるレベルにあったが、モハド・ノラザンの方は戦力外だった。

 兵士として使えない上に艦長の指示にあれこれ口出しするため、エストラーダ艦長はモハド・ノラザンに内心『いないほうがまし』というレッテルを貼っていた。

「金星の浮遊都市って、ただの研究施設じゃあなかったっけ」

 サーシャの隣に座っていた火器担当のエミリオ・ガルシア中尉がサーシャに話しかけた。

 ぽっちゃりした感じの士官でニコニコと笑顔を浮かべていた。

「研究施設といえばその通りです。人口は三〇〇人くらいしかいないはずですから」

 サーシャは青い瞳に何の表情も浮かべずに言葉を返した。

「詳しいんだね」

 ガルシア中尉は、うっとりとした表情を浮かべ、隣の席のサーシャを見つめていた。

「金星の重力カタパルトを利用して転針加速する可能性は?」

 エストラーダ艦長は緊張感の希薄なガルシア中尉に若干イライラした様子を見せながら、索敵担当に確認した。

「その場合、回頭・減速の必要はないはずです」

 バロー中尉が答えた。

「まずいですな。大統領専用機のアルテミスには大気圏突入能力があるが、本艦にはない。金星の浮遊都市に逃げ込まれたら我々には手も足も出ません」

 それまで黙っていた副長兼操縦士のキム・ギソン大尉が発言した。感情の読み取れない無表情な男で、困っているようには見えなかった。長身で切れ長の細い目が印象的だった。

「とにかく奴らはおとなしく我々に捕まるつもりはなさそうだ。最大加速! 射程に入り次第、攻撃を加える」

 エストラーダ艦長が低い声を響かせた。

 軍首脳部からは、大統領は生きたまま拘束するのが望ましいが、不可能ならば死亡しても止むを得ないという指示を受けていた。

「最大加速」

「攻撃準備に入ります」

 熱のないギソン大尉の声と嬉しそうなガルシア中尉の声が返ってきた。

 宇宙護衛艦エラトステネスの乗員は加速によるGで強くシートに押し付けられた。



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