制圧
「食糧庫でアラートだ。おまえたち、一体何を積み込んだ!」
ジョシュアは顔に緊張を走らせるとユウジとハオユーに軍用の自動拳銃を向けた。
金属製の銃弾を火薬で発射する昔ながらの武器だ。
「さあ」
ユウジは両手のひらを上に向けて知らないというジェスチャーをした。
ジョシュアは歯噛みすると、艦内を監視するモニターに視線を走らせた。
「装甲歩兵!」
モニターには無重力の廊下を中央コントロールルームに向けて推進剤を吹かして進んでくる装甲歩兵の姿が映っていた。
ジョシュアは慌てて艦内の全ての扉をロックした。
中央コントロールルームに向けて突進するサーシャの目の前で廊下に設けられていた気密隔壁が閉じはじめた。
「気づかれたか!」
中央コントロールルームの扉に急いだサーシャだったが、間一髪間に合わなかった。
彼女の目の前で無常にも気密隔壁は閉じられた。
「お前らが手引きしたのか!」
ジョシュアがこめかみに青筋を立てて怒鳴った。
「だったらどうした!」
ハオユーがシートに座ったまま即座に言い返した。
「死ね」
ジョシュアは立ち上がるとハオユーに銃を向けた。
「やめろ!」
ユウジも慌てて立ち上がるとジョシュアの背後から彼の銃を持った右腕をつかんだ。
ジョシュアはユウジの力に逆らわず彼のほうに向くと、長い足を器用に折り畳んでユウジの腹を蹴った。
みぞおち近くに決まったため一瞬息が止まり不快な鈍痛がユウジの内蔵をわしづかみにした。背中が曲がり足に力が入らなくなった。
「ユウジ!」
ハオユーが立ち上がろうとする姿がユウジの視界の隅に入った。
「エンジン全開」
ユウジはハオユーに視線を送りながら何とか声を絞り出した。
ハオユーはユウジの意図に気づいた。
「わかった!」
ハオユーは先ほどの手順どおりにレバーを倒した。
「馬鹿、やめろ!」
ジョシュアがハオユーの方を向こうとしたがユウジはつかんだ腕を離さなかった。
強烈なGが襲い掛かり、ジョシュアもユウジもシートから放り出された。
そのときサーシャは気密隔壁の前で考え込んでいた。
気密隔壁を破壊するのはそう簡単な話ではなかった。
サーシャはコンコンと廊下の壁や扉で破壊しやすそうなところを探った。
壁の片側には梯子のような手すりがついていた。
加速中は艦尾に向かって擬似重力が発生するため、用意されたものだった。
『加速中は、この梯子で移動するのか』
何気なく心の中でつぶやいた瞬間、突然、突き飛ばされるような衝撃を感じ、サーシャは慌てて梯子をつかんだ。
装甲強化服を着たサーシャの全体重が梯子にかかり、梯子は歪み、壁から剥され、握っていた部分が千切れた。
血の気が下がりサーシャの目の前が暗くなった。
Gによるブラックアウト、脳貧血だった。
サーシャは気を失ったまま、もと来た道を落ちていった。
ユウジとジョシュアの二人はライリー・アレンが座っているシートの前のガラス窓に加速によるGで押し付けられた。
うまい具合にジョシュアが下、ユウジが上だった。
ユウジはジョシュアをつかんだ腕を離してはいなかった。
ジョシュアは苦し紛れに拳銃の引き金を引いた。
凄まじい銃声が響いたが、ユウジには掠りもしなかった。
ユウジは肘や膝でジョシュアの腹部を圧迫するようにしながら強引に身体を起こすと、ジョシュアの手から拳銃を奪い取った。
「おのれ!」
苦しそうにジョシュアがうめいた。
ユウジがガラス窓の向こう側を見るとライリー・アレンはレーザー銃を構えようとしてもがいていた。照準を合わせることはできない様子だった。
ユウジは両膝でジョシュアの腹部を圧迫するような体勢をとりながらジョシュアの胸部に拳銃の狙いを定めた。
「ハオユー、もういいぞ」
「わかった」
急にGから解放された。
ユウジは飛びずさりジョシュアから距離をとった。拳銃の狙いは定めたままだった。
「大統領、自分にかまわず奴を撃ってください」
ジョシュアはユウジを睨みながら苦しそうに叫んだ。
ライリー・アレン元大統領は防弾ガラスの向こうで頭を振りながらのろのろとレーザー銃を構えた。
「なんなら今度は完全に意識がなくなるくらい加速してやろうか?」
副操縦席に座ったまま後ろを振り返りハオユーがすごんだ。
ユウジは拳銃でジョシュアを狙ったまま荒くなった呼吸を整えて口を開いた。
「俺はお前たちを殺すつもりはない。とりあえず生き残るためにはお互いが必要だ。しかし、そちらが撃つのであれば躊躇なく俺はジョシュアを射殺する。それにこのまま長時間睨みあって外にいる装甲歩兵を放置すれば、俺たちに関係なく奴はお前たちを殺そうとするだろう。また殺せなければ内部からこの船を破壊してお前たちを道連れに死のうとするだろう。俺たちなら奴を説得できるが、どうする? ここで俺たちと戦った後、完全武装の装甲歩兵と戦うつもりか? それとも一時休戦とするか? 早く決断しないと奴がやってくるぞ」
ユウジは一気にまくし立てた。こんな経験は生まれて初めてだった。
心拍数が上がり心臓が口から飛び出しそうだった。
ジョシュアは荒い息を吐きながらユウジのことを物凄い形相で睨んでいた。
先に口を開いたのは学者のような風貌のライリー・アレン元大統領だった。
「ごめんなジョシュア、お前を見殺しにして引き金を引くことは私にはできないよ」
ライリー・アレンはレーザー銃を下げた。
「大統領!」
ジョシュアは思わずライリー・アレンを振り返った。
ライリー・アレンはレーザー銃を下げたままユウジに尋ねた。
「月からの刺客を止めてくれるか?」
「努力しよう。それと大統領、その物騒なレーザー銃をこちらで預かりたいんだが」
「構わんよ」
「では、そこから出ていただけますか?」
ユウジとライリー・アレンのやり取りを聞きながら、ジョシュアは悔しさにこぶしを震わせていた。




