プロローグ
事実は小説より奇なり。そんな言葉を大昔のエライ人が言っていたらしいが、本当にその通りで、傭われ稼業で大勢の人間を殺してきた自分が人を教えることとなった。
数年前に自分勝手に姿を消した師匠が、ひょっこり手紙を寄越して『モノを教える立場になってみんか』とのこと。
彼の自分勝手は本当にいつものことで、たった1人の弟子として何度振り回されたことか。
「しかし学校ってのは随分と里から離れた所にあるもんなんだな…」
人が多く住む地域から山へと入り、ともすればただの獣道に見えるような道とも言えない道を進み続けて目的の場所へと到着してはいるが、まだ目的の建物は見えては来ない。
何度も地図を確認しているにも関わらず道を間違えたかもしれない。
そんなことを考えていると辺りが濃霧に包まれた。
「しまったな。変な妖術に引っかかっちまったか。これは不味い…ん?」
気を抜き過ぎていたらしい。しかし妖術というものは発動する前に独特な気が流れるはずだが一切の気の変動はなかった。となると相当高等な妖術師が放った術という事になる。それができる人間は自分の記憶では1人しかいない。
「久しいのぉ岩崎よ。何年ぶりかの。」
何年も合わせていない恩師の顔がそこにあった。
「お久しぶりです、師匠。10年ぶりですよ。山奥にご隠居なさって時をお忘れで?」
「ほっほっ。言いよるわい若僧め。時なんぞ霞を食い始めた時に忘れたわい。着いてこい岩崎よ。儂の学園へ案内しよう。」
談笑しながら目的の場所へと案内される。俺は新しい生活に胸を踊らせ、彼が設立した「東日学園」へと足を踏み入れたのだった。