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歯車の欠片を探して  作者: 飾 ロア
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裏仕事の飼犬




灰燼を掻き集めたような色の長髪が風に靡く。

横顔、と評していいのかも分からないフルフェイスの黒仮面。

赤と言うには禍々しすぎる深紅色の薔薇と無骨な角を模した装飾。

貴族が好んで着るような上品な男物の衣服に身を包んだ長身瘦躯の人物。


顔色は窺えないというのに全身から発しられるものは穏やかでない。

仮面越しに発しられる声は声と言ってもいいのか分からないノイズに塗れたもの。


「 補充をしてもしても仕事が増えるとは、此れ如何に摩訶不思議 」


ザッと渡された指令書に目を通す。

先月も補充した安定数のモルモットと怪しげな薬品のお使い。

内容が物騒なのは何時ものことなので無視するとして明らかに数が可笑しい。


「 随分と派手に在庫を喰らわれるようですね 」

「 僕だけじゃない、今回は“彼”も共犯者だ 」

「 …それを補充するのは誰だと思っているのですか? 」


半分嫌味を込めた声が低く響く。

仮面越しでは視線こそないものの此の数は一晩では補充し切れない。

さてそんな無理難題を押し付ける我らが王はなんと答えるか?

複雑じゃない、至って簡単な答えが返ってくるだけだ。そう――


「 君 」

「 正解です、偉いですねぇ 」


正に、このように。

逆らっても無駄であるし、何より秘密の多い性別不明のこの人物。

それが"私が仕えると決めた"相手であるがため何も言えないのである。


「 ところで此の小麦粉とベーキングパウダーというのは 」

「 お菓子作りをしたいと思ってね 」

「 では此の"にゃんこ大集合☆フォトブック月間号"というのは 」

「 …それは最重要案件だ、特に“彼”には知られてはいけない 」

「 我が主がそう仰るのなら全て必要なものなのでしょう 」

「 そうだ、賢い猫は嫌いじゃないよ 」

「 生憎と私は猫ではありませんので 」

「 ああ、確かにそんなダミ声の猫は可愛くないな 」

「 褒め言葉と受けとっておきましょう 」


いつも通りの簡単なやり取りを済ませると机で書類を整える。

散らばった書類を適当に掻き集めてスペースを確保するとトランクを置いた。


「 例の無茶な依頼の達成品です、確かにお納めしますよ 」

「 もう持ってこれたのかい?流石、君に頼むと早いな 」

「 報酬はいつも通り 」

「 色を付けておこう 」

「 文字通り絵の具を塗るのはやめるようにして頂けると 」

「 アレはもうやらないよ 」

「 なら良いです 」


達成報告を終えてから一枚の手紙を出す。

未だ封が切られていない何者からかの質素な手紙。


「 此れを仕入れる際にあちらから頂きました 」

「 ふぅん…後で見るよ 」


「 それでは、私は何時も通り潜みますので 」

「 ご苦労 」




その後、名も呼ばれぬ黒い人物は

まるで一夜の夢かと見紛うほど、すっと暗闇に熔けて消えていった。








――――「裏仕事の飼犬」Fin.





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