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歯車の欠片を探して  作者: 飾 ロア
8/15

狂気的な探究者




薄暗い路地裏

噎せ返るような腐臭の立ち込める一角


パステルピンクの双眸が狂気を宿す

赤黒く染まった右手の凶器が振り下ろされる


何度も 何度も 何度も 何度も 何度も 何度も


それは良く見ると既に歪み曲がった

食器類に属するはずの純銀のフォークであり

既に事切れた死体の濁った眼球を突き破りては

得も知れぬ液体が飛び散り汚い地面に彩りを添える


原型を留めない死体をどれだけ弄んだか

ピタリと機械仕掛けの人形のやうに動きが止まる


真白な衣服に身を包んでいたはずだが

返り血を主体とした汚物にて清潔さは失われていた

それを気にすることもなく立ち上がり肉塊を踏み付け


「 お前のことなんか俺は知らない 」


少年とも少女ともとれる幼い声が呟いた

狂気だけを宿した“少年”は凶器を投げ捨てる

食器としての機能は失われた其は路地裏に良く馴染んだ


「 俺は知らない お前を知らない お前らを知らない 」


ぶつぶつと呟きながら少年は奥へ奥へと進んでいく

少年の歩く道に生きた人間は唯のひとりとして居らず

在るのは唯 あまりにも無残に弄ばれた血溜まりと肉塊のみ


「 俺は知らない 俺を知らない お前を知らない俺を知らない 」


ぶちぶちと己の親指の爪を噛み千切る

自分のものか他人のものかも分からない鉄錆の味

今朝に食べた腐りかけの林檎と同じ味がする気がした


「 お母さん 俺は誰ですか 」


泣き叫び許しを乞う娼婦の腹を蹴り付ける

吐瀉物を撒き散らしながら逃げ惑う娼婦を殴り付ける

次第に美しかった顔は醜く腫れ上がり醜女と成り下がった

娼婦として価値のなくなった女性の右足を捻り上げ根本から折る

声にならぬ絶叫を上げ 失禁し乍ら譫言を呟く女に彼は問いかけ続けた


「 お母さん ねえお母さん 俺は誰なのですか 」


女は既に意識を失っており返事はない

狂気を宿す少年は決して気付くことなく問い続ける

拾った木材で女の頭を餅突きでもするように潰し乍ら


「 お母さん答えてよ 俺は一体誰なのか 」


ぐちゃり ぐちゃり ぐちゃり ぐちゃり ぐちゃり

びしゃり びしゃり びしゃり びしゃり びしゃり


「 どうして どうしてどうして 答えてくれないのさ 」


少年は気付かない

既に事切れた女の口は二度と開かないことなど


少年は気付かない

己の定義を問い続けるあまり見失ったことなど


少年は気付けない

靄だらけの思考では何も何も気付けないことなど




「 どうして答えてくれないの 」




真白な服は赤黒く染まり

パステルピンクの澱んだ瞳からは

透明な雫が一滴だけ頬を伝い落ち路地裏に消えた





――――「狂気的な探究者」Fin.




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