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歯車の欠片を探して  作者: 飾 ロア
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透明な個性




僕は幼い頃から何でもそこそこに出来る人間だった。


そこそこの成績。

そこそこの運動神経。

そこそこの美的センス。


突飛して優れているものがあるか?と問われれば、僕は首を横に振る。

だからこそ、きっと僕はそこそこありふれた人生を送るのだろう。


サッカー部の大会で優勝した友人。

美術部で描いたイラストが入賞した幼馴染。

巧みに言葉を使って友達を増やすクラスの人気者。


休み時間に教室の隅で小説を読みながら僕は思った。

かの有名なシェイクスピアの作品を見て、人々は何を思うだろうか。


素晴らしい文才だと?

独特な言い回しをすると?

人を惹き付ける魅力があると?


少なくとも、僕は何も感じない。

批判しているわけではなく、僕にセンスがないから分からないのだ。


例えばの話、売れない作品が他人の手によって舞台となり、派手な演出に金をかけたなら。

きっと評価されなかったものも、たちまち有名になり人々は賞賛を送るのだ。


ボロボロの身なりの男が「俺の作品を見てくれ!」と写真を掲げたところで、人々は鼻で笑う。

しかし、そこで有名な評論家が現れ、「この者の撮る作品は素晴らしい!」と褒め称えたとしたら。

鼻で笑っていた人々は「その通りだ!」と鼻で笑っていた男の写真集を挙って購入するのだ。


実際、人とはそういう生き物だ。

写真を撮っていた男は、この賞賛を喜ぶだろうか?

手の平を返したかのように鼻で笑っていた自分の作品を褒め称える人間の姿を見る。

ボロボロだった身なりが、写真が売れた金により整い、社会的な立場を得るだろう。


なんと、虚しい名声なのだろう。

男は写真を撮ることだけが自分の持てる全てだったのに、それすら踏みにじられたのだ。


人間という生き物は時代がいくら移ろおうと変わりはしない。

大勢の意見を正しいとして、少数の意見を鼻で笑うのだ。


例えばその流れに逆らい、少数の肩を持つ者は「愚か者」と呼ばれる。

そんな世界に僕たちは生きているのだ。


だから僕は色々なことを考えながら、個性のない人間の流れに従って生きていく。

群で生きる僕ら人間に、個性は要らないのだと蓋を堅く閉ざしたまま。





――――「透明な個性」Fin.







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