トランキライザーは裏切らない
紫煙と香水、排気ガスの混ざった空気が漂う街
此処は現代日本と呼ばれる愛称を持つ残酷な街
すれ違う人々の顔に覇気はなく
唯々憂鬱そうな面立ちをした人々が雑踏に溢れる
世界は自転を辞めることなく
人々は日々を過ごすことを辞めず
私は透明人間に成り下がり
私を映さない世界に中指を立てた
「人類皆々滅んでしまえ」
六畳一間、夜更けに電気を消して
デスクトップパソコンの明かりを“救い”と例えた
「人類滅びますか?」
某呟き系サイトへ投稿しかけた妄言にバックキー
延々繰り返して結局呟いたのは意味のない言葉
「ねむい」なんて
ありきたりな三文字で全てを誤魔化したつもりだった
誤魔化しきれない名もなき苦痛に苛まれ続けるのが現実だ
窓際冷えた両手で首を絞めて
ぼんやりと意識が薄れゆく中で自嘲的に思った
「なんて惨めな自慰行為なのだろう」
手を離せば安易に肺を満たす酸素が憎らしく
僅かに赤く残る跡を鏡越しに見ては心の中で嘲笑った
死にたくとも
消えたくとも
集団社会がそれを赦さない
人口数のカウントのためだけに生き続ける
ふと視線を向けると4時44分を指す秒針が自棄にデジャヴだ
義務的な睡眠を得るために
今日も意識をシャットダウンする
空のシートがくしゃりと音を立てた。
――――「トランキライザーは裏切らない」Fin.