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歯車の欠片を探して  作者: 飾 ロア
10/15

人間に成りたかったモノ




コンクリートの路地を打つ俄雨。

斑点模様を地面に描いていく水滴を掴もうと手を広げる。

冷たい染みが真っ白な手袋を汚していく様を黙って見ていた。


鼻につくのは鉄錆の匂い。

清潔な靴を惜しむこともなく赤黒い物体を踏み付ける。


「 …塵芥が。 」


それは幼い物乞いの人間だったもの。

既に事切れていることは明白であり、顔は苦痛に歪んだまま停止している。

男か女かも分からない襤褸を身に纏う、幼い物乞いは過去の己を沸騰させた。


――― 忌々しい。


もしこの幼子が。

俺に何かを乞うたりしなければ。

そんな“たられば”の話をするならば、幼子は生きていたことだろう。

生ゴミを漁って、隙間という隙間に手を突っ込んで、雨水を懸命に飲んだと言った。

同情を誘うために言ったのだろう。されど、それは真実なのだろう。


それがどうしたという話だ。


真夏に水分がなくて自らを切り裂いて血を飲んだか。

空腹に耐えきれず同じ境遇の他人を殺して人肉を喰らったか。

迫害から逃げるため背中に何発もの銃弾や刃を受けたか。

騙されて奴隷市に売られたことは。

傷から菌が入って真冬に死にかけたことは。

腐りきって泥水に塗れた野菜の屑芯を心から喜んだことは。


“乞うことすら赦されない存在”ではない、貴様が。

この“俺のようなモノ”に乞うたりしなければ。


ぐしゃり、と死体を無意識に何度も踏み躙る。

荒れ狂う激情を表情には出さず、淡々と足蹴にする。

雨音が強まってきたにも関わらず、香り立つのは噎せ返るような赤の匂いだけ。


「 人間に生まれた君は、それだけで幸せだと言っていれば良かったんだ 」


原型がなくなった肉塊を最後に一度踏み潰す。

臓器と肉片、所々に露出した骨が存在を主張するように飛び出ている。

汚れた靴は帰ったら磨けばいい、それまでは雨が落としてくれることだろう。


霧が濃く覆う方面を見れば、不快だった気分も少しずつ晴れてくる。

あそこに生きている人間はいないと知っているから。



「 ……っなんで、俺は、… 」









――――「人間に成りたかったモノ」Fin.






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