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前世で敵対していた魔女がどストライクであった事実を受け今詰んでる

作者: 棒人間

 転生。今日ではどこかしこのコンテンツでもみかける設定だ。それこそ自分が『ここに』生まれるより前の年代に制作された、アニメや漫画でも扱われていた設定でもある。だがしかし。それはあくまで空想の中にある事で意味を成す設定。現実に起こってもどうすれば良いものか。ただ燻る感情を持て余す他ないのだ。


 あっ、死のう。

 いや、もう死んでた。生きてるけど。なんて考え、ややこしすぎるだろと自分でツッコミをいれる。でも、確かな感情だ。過去を思い出す度にこの言葉を繰り返している。

 それでもなんだかんだ、ダラダラと生にしがみ付いて、流されるように学校へ生き、剰え友人すら作っておいてよく言うよな。なんて冷めた自分が己の行動を分析してしまう。それすらも煩わしい。




「なーなー、あのRPGの新作! 夕星は買ったんか?」

「RPGってなんだったっけ……ああ、ピコピコの事か」

「お前相変わらずゲームに対するジャンル分け適当だよな……しかも今時のゲームはピコピコしてねーよ」

「昭和の親父みてえ!」


 爆笑し始めた友人達を、ぼんやりと眺める。家にあるゲームと言えばなんかこう、ピコピコした音の鳴るものしかない。親の趣味で古いゲームはあるが、彼らは最近のゲームには興味がないらしく、俺も特に興味が湧かないから新作ゲームの話をふられてもさっぱりだ。そもそも、ここに来てまで勇者だのなんだのとは真っ平ごめんだ。


「その口ぶりじゃやっぱ買ってないのかー。なーんかさ、そのゲームの主人公ってちょっと夕星に似てるんだよなあ」

「ああ! なんかそれ解る! 夕星の髪ってさ陽に当たるとちょっと青みがかって見えるしな!」

「そーそー。主人公の髪色は真っ青ーって感じだけど、それでも髪型とか似てるし、雰囲気も近い!」

「ただなーあの主人公は爆発すべきだよな……リア充として」

「リア充としてな……くそ! あんなちょっとヤンデレ入りかけの健気な魔女っ子とか……貴重なのに……くそ! あんな最期酷すぎる!」

「……えっ!? おま、俺まだ全クリしてないんだけど! 激しくネタバレなんだけど!」

「えっ、」


 なんか盛り上がり始めた友人達にかける言葉が見つからない。話してる内容が異次元過ぎて俺はついていけない。

 だが。主人公と言われる奴が気になり、また、『魔女』と言うワードに引っかかる。


「そーいやさ、主人公の名前って変えられるから変えて遊んでんだけどさ、デフォルト名も夕星に近くなかったか?」

「あ! そう言えば! ……ん? でもなんだったっけな?」

「なんだったっけ? なんか果物みたいな……あ!」

「ああ!」


「「ユズ!」」


 友人達が口を揃えて発した単語に、はっと息を呑む。世界から色が抜け落ちていくような気分だ。確かに、似ている。と言うか、むしろ同じだ。同じなんだ。


「あのさ、それ、遊び終わったら本体ごと貸してくれないか?」

「お……おお! 夕星がついに学生らしくなってきた! お兄ちゃん嬉しいぞ!」

「お前の弟になった記憶はねーぞ」

「まーまー。俺、もうクリアしちゃったから貸すよ。なんか二週目は強くてニューゲーム出来るみたいだしセーブデータごと貸すわ」

「おーゲーム初心者の夕星には丁度いいかもなー」

「(二週目? 強くてニューゲーム? なんじゃそりゃ……)さんきゅー。本体ごとなんてわがまま聞いてくれてさ」

「他にもゲーム機持ってるから気にすんな。貸してる間は他の積みゲー消化するし!」

「(他のゲーム機? 積みゲー?)」


 相変わらず言ってる事の半分くらいは意味不明だ。だが、良い友人に恵まれたことは事実だ。

 言い表せない不穏な予感を抱えながらも、昨日と変わらない賑やかな時間に笑みをこぼす。なんとなく、そんな日々が続くんだろうと漠然と信じていた。


**


「……死のう」


 今回は割りと深刻……かもしれない。

 あれから友人に本体ごとゲームを借りた。まずはパッケージに眩暈を覚え、危ない動作でゲームを起動させ、所謂チュートリアルを進めながら胃を痛めた。

 だって、そうだろう。こんなの聞いてない! って声を大きくして主張したい。でも、出来ない。


 かつて俺は勇者だった。だったってのは死んだからである。そんで転生して今生きてるから過去形にできる話である。つーかなんで記憶残ってんだ本当に。普通人間って記憶とかまっさらなもんじゃねーの。勇者である『ユズ』として生まれた時は、前世とか記憶とかそんなもんとは縁がなかったのだから。


 友人から借りたゲームのシナリオは、まさにデジャヴ旅行体験ツアーみたいな、ちょっと何言ってるかわかんないっすね(わかるけど)っと遠い目をしたくなる物だった。おい、誰だこのシナリオ考えた奴。人の前世覗き見してんじゃねーよ。いや、寧ろなんでピンポイントなんだよ。


「ん?」


 おかしな話だ。本人でもあるまい。でも、何故ここまで出来る?

 もしや、このシナリオライターも俺と同じなのでは?

 そう思いあたるが、どうやってコンタクトをとるんだ? 魔法なんて便利な物はない。なんか代わりに電気とか電話とか回線? インターネット? とかあるらしいが生憎そこらには疎いのだ。週明けに友人に尋ねるしかない。

 強くてニューゲームとやらの仕様と、勇者としての記憶のお陰でゲームは丸一日をかけてクリアしてしまった。エンディングのスタッフロールだが、何故かそこにはシナリオに関する関係者が示されていなかったのだ。制作会社とやらに直接尋ねねば詳細はわからない。ついでに電話の問い合わせサービスとやらも土日祝は休業。俺は悶々とした気持ちを抱えたままあと3日過ごさねばならないのか。友人達はGWと言う休暇を利用しての家族旅行で住居にはいないらしいし、俺が携帯電話持ってないから彼らの連絡先もわからないのだ。


 本当に、最悪だ。

 何が最悪って……もう、本当に最悪だ。

 こんな最悪な気分、前世で勇者になれとあのクソ国王に言われた時以来だ。


 前世じゃ鬱陶しくて何考えてんのかわかんなくて陰気臭くて諸悪の根源だと思い、煩わしくて堪らなかった相手が、自分の好みどストライクだったってのがもう最悪だ。グウの音も出ねぇ……。

 いや、本当にあいつが俺に対して『そう』だったのかは不明だが、ゲームをやっていて、謎だったあいつの行動に辻褄的な物がついた。


 思い出して欲しい。

 俺はその言葉を、最期に聞いたのだ。

 何を思い出せっつーのかは、今の今まで謎だった。だが、このゲームを進めて行くうちに、あの時は見つけられなかった『魔人の里』を『ゲームの中の自分』が見つけ、そしてあいつの自宅の本棚を漁ったら流れた回想。

 その回想映像は、俺の前世の中でも覚えがあった。しかしあの時の女の子があいつだったなんて、思いもしなかったのだ。だがその回想は、前世の中のあいつも、俺に対して『そう』想っていたのかもしれないと思わせるには十分過ぎた。


 マジで。陰気臭いし喋んないし何考えてんのか意味不明だと思ってた。俺の異性の好みにぴったり当てはまるとは、本当に思っていなかった。俺は当時、行く町行く町にいる『おねーさん』に好意を寄せていたのだから。しかし、思い返せばそれもおかしな話である。故に、とでも言うのか、納得できる決定打がゲームの中にはあった。

 所謂サイドストーリーの中で、俺が恋してた『おねーさん』は陰気臭くて喋んない意味不明の『魔女』だと言う種明かしの類の物があったからだ。どうりで行く町行く町に『おねーさん』がいるはずだよ!


 マジで死にたい。


 女っぽい見た目の魔物とか中途ダンジョンの女ボスはだいたいが身体のラインが解るような色っぽい格好だった。それにちょっとドキドキしてたのは当時の仲間には内緒である。しかし、『あいつ』こと『魔女』だけは露出なんて殆どしてなかった。顔の半分くらいだ。でも、ゲームをプレイした今、やはりあいつは所謂敵キャラではあったんだなと理解した。

 そのおねーさんと魔女が同一人物であるとわかるサイドストーリーで理解してしまった。

 あいつ、あんなもんを上着の中に隠してたのかよ、と。ふっ、と。もしあいつが定石のように色っぽい服装してたら多分俺は冷静じゃなかったろうなと目を遠くする。あれ絶対動く度ぽよんぽよんしてる。ぽよではなくぽよんなのがミソだ。

 と、そんな事は最早どうでもいいのだ。


 これはやり直せるチャンスとでも言うのですか。


 どうしようもなくなり頭を冷やすため外出したのだが、道端でしゃがみこむ女性を見つけぎょっとした。

 艶やかな深紫色の髪は、しゃがみこんでいるため、地面についている。とてつもなく勿体無い光景だ。だからこそ、言葉にできない高鳴りをもたらす。俺は自分が思っていたより大分変態かもしれない。伏せた眼は、己の足首を眺めているようだった。ヒールつきのサンダルが今にも彼女の足指からも外れてしまいそうで、この光景も酷く胸を打つ。

 いつか見た面影、いつか見た姿。会いたいけど、会いたくなかった者。けれど、その感情よりも、やり直したい気持ちの方が遥かに大きい。

 手袋などに覆われていない、白くしなやかな指先が赤く腫れた足首を恐る恐る触れる。我慢ならないように、彼女は声を漏らした。


「いっ……っ、」


 神様ありがとうございます。今ならあのクソ国王にも少しくらいなら優しく出来るかもしれない。

 それくらい、嬉しかったのだ。

 微かな情報だ。けれど、その声に確信を持てた。


「あの、大丈夫っすか。よければこれ……」


 近付きつつそう言って、ハンカチを差し出す。親の躾が厳しくて、ハンカチを持ち歩くのは最早前世からの習慣だ。お陰でこのチャンスを掴めた。ありがとう、カーチャン。ありがとう、トーチャン。

 ゆっくりと此方を見上げるようにしてきた顔は、やはり想像通りのもの。潤んだ桃色の瞳には、見覚えしかない。

 しかし、その視線が俺の顔へと定まったとき、みるみるうちに青ざめていくようだった。


「……ぁ、ぁ……ユズ、くん」


 その声は、決定的なものだ。俺らは、『ここ』では初対面のはずだ。その呼び方と声は、『おねーさん』と同じだ。

 ただ、想定外だったのは、自己紹介もしていない俺の『名前』をぽつりと漏らしたこと。

 当然と言えば、当然だ。俺にも記憶が残ってるんだ。そんなに、俺にとって都合の良い現実なんて存在しないのだ。舞い上がってやり直せるチャンスとか思い込んだが、逆に無理なんじゃねえのこれ。


 やっぱ死のう。


 遅咲の桜の花びらが、ひらひらと舞う。この花のように、俺はもう色々と散りそうだ。


 こころがしんどい……。

この後は

【現実世界でドタバタラブコメ(ラッキースケベもあるよ)】か【前のファンタジー世界に戻って勇者二週目】か【二人とも全く未知の世界へ召喚されて、協力しつつ仲を深める】か

の、3つの展開を考えたのですが、どれもしっくりこなくてこのまま短編でGOしました。連載になる予定は今のところないです。


……どこかの創作サイトでこの勇者と魔女の関係性を使用したことがあります。もし設定に見覚えがありましたら、それかもしれません(し、単なる偶然かもしれません)。

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