樹里ちゃんの引っ越し祝い~酔いどれ軍団の乱痴気騒ぎにスチャラカOL律子が乱入~(後篇)
律子に企画を振ってホッとした日下部は銀座の真ん中に居ました。きれいなお姉さんがいっぱい居るので興奮しています。
「いや、仕事だから」
地の文が何か勘違いしていると思った日下部はすぐさま訂正します。日下部が銀座の真ん中で待っていると、数人のヤクザが肩で風を切りながら銀座の街を闊歩しています。
「ヤクザじゃないから」
すかさず地の文に突っ込みを入れるヤクザたちです。
「だから!」
「どうしましたか?」
「あっ、日下部さん。なんか、変な空間に迷い込んだような感じなんですけど、現場はここで間違いないですよね」
「もちろんですよ。今夜もよろしくお願いします」
日下部が地上げ屋をやっているとは知らなかった地の文です。
「違うから」
ありげなく訂正する日下部に一歩引いたヤクザたちです。
「ヤクザじゃないから!」
「みなさん、気にしないでください」
こら!あくまでも地の文を無視しようとする日下部に逆ギレする地の文です。
「今夜はここです」
日下部は空家の店舗にヤクザたちを連れて来ました。麻薬の密売でも始める気なのか心配する実は気が小さい地の文です。
「そうだね。樹里ちゃん相手だとこういうヤバい場面はないからね…。って、ヤバくないから!そもそもこの人たちは職人さんで、ここは新しいお店の改装現場だから」
銀座のくだりはもういいから、早く本題に入った方がいいと思う地の文です。
「そうだね」
その頃、井川は名取を捕まえて飲んでいました。
「部長、大丈夫なんですか?」
「何がだ?」
「五反田財閥が絡んでるんでしょう?」
「絡んでねえよ」
「だって、樹里ちゃんって五反田財閥の…」
「だから関係ないって言ってるだろう?あの子はただのメイドだ」
「だって、ただのメイドじゃないじゃないですか!」
「ああ、元キャバ嬢だったな」
「そうじゃなくて…」
既に酔っ払っている井川にまともに話しても、らちが明かないと思う名取でした。
「お前、そんなこと思ってるのか?」
「思ってませんよ」
ウソをついてはいけないと思う地の文です。
「ちょっと、余計なことを言わないでくださいよ。いいから、銀座の方へ戻って下さいよ」
日下部は絡みにくいからこっちの方が楽しいと思う地の文です。
「それでな、日下部曰く、忘年会の企画は酔っ払い女がやるそうだからお前、手伝ってやれ」
「誰ですか?酔っ払い女って」
「あたいだよ~ん」
急に湧いて出る律子です。
「うわあ!どこから出てきたんですか?」
「ここ」
そう言って名取の股間を触る律子です。
「ちょ、ちょっと!」
肝っ玉と同じであそこも小さい名取が飛びあがって驚きました。
「あら、あそこはけっこう大きかったわよ」
律子がそう言ったのでここは素直に謝る地の文です。
「それで、どんな企画を考えたんだ?」
「えーとねえ、あんなことやこんなことやそんなことかな」
「解かった。そりゃ、楽しみだな」
「解かったんですか?」
今の説明で解からなかった名取はまだまだ修行が足りないと思う地の文です。
「普通、解からないでしょう!今の説明じゃ」
「こいつになんでも言いつけてくれや。大した役には立たんかもしれんがな」
「りょーかいー」
井川に意味のない敬礼をすると、律子は名取を引っ張って店を出て行きました。
ご近所への挨拶を三日がかりで終えた樹里と左京はささやかな引っ越し祝いをしていました。
「左京さん、あの方たち、遅いですね」
「ここへ来るのは中止になったんじゃないか」
なんとか井川たちの襲来を阻止しようと左京は画策しています。
「そうなんですか?」
相変わらず笑顔全開の樹里ちゃんです。そして、ウソがばれてうろたえる左京です。
「じゃあ、早くあの方たちを呼ばなくちゃ!」
「だから、きっと、都合が悪くなって来られなくなったんだってば」
この期に及んでまだジタバタする諦めが悪い上にあそこも小さいダメ夫です。
「余計なことを言ううな。あそこが小さいのは名取だろう!」
「あら、こいつはけっこう大きいのよ」
そう言って左京の手を名取の股間にあてがう律子です。
「ホントだ!意外とデカイ…っていつの間に来たんだ。それにこいつは誰だ」
「誰って、いま、あそこが小さいって…」
「そうか!お前が名取か…。違ーう!なんでお前たちがここに居るんだ?」
「あたちがおでんわしたでちゅよ」
天才赤ちゃんの瑠里が樹里ちゃんのスマホをいじっていて電話をしたみたいです。と、言うことは…。
「よう!」
「うわあ!誰か警察を呼んでくれ!ヤクザの殴り込みだ!」
「誰がヤクザだ!」
井川に一発くらって伸びてしまった左京です。
「さあ、思いっきり楽しみましょう!」
律子がそう叫ぶと、三河屋が店にあった、ありったけの酒を配達してくれました。それから藤崎が日下部と一緒に登場しました。二人の後ろにはいくつものワゴンを押す超一流のシェフたちが続きます。
日下部が改装をしていた店は藤崎がオーナーだったのです。藤崎は店で働いている超一流のシェフたちにケータリングを依頼していたのでした。
さあ、準備は整いました。いよいよパーティーの始まりです。
「みなさん、ようこそ。狭いお家ですけど、存分に楽しんでくださいな」
笑顔全開で挨拶をする樹里ちゃんです。
「それでは、皆さんよろしくお願いします」
藤崎がシェフたちに指示しました。シェフたちはみんなのグラスに超高級シャンパンを注いでいきます。そして、井川のグラスに差し掛かった時、誰かの手がグラスを塞ぎました。
「なにするんだ!」
血管が切れそうなほど目を吊り上げて怒鳴る井川です。このまま血管が切れてしまえばいいと思う左京です。
「おまえ!そんな事を思っているのか!」
地の文に本心を見透かされた左京は井川に怒鳴られて縮みあがりました。せっかく目を覚ましたのに、また井川に殴り飛ばされて気絶する左京です。
今度は律子のグラスにシェフがシャンパンを注ごうとすると、名取がそれを妨害しました。
「何すんのよ!この、ほう○い野郎!」
思わず“ピーっ”という音でごまかす地の文です。
「律子さん、これ以上飲んだらヤバいですよ」
律子の心配をしているフリをして、実は自分に振りかかろうとする厄災を事前に防ごうと画策する、あそこは大きいけれど小心者の名取です。
「名取、余計なことするんじゃねえ!」
「はいっ!」
井川には従順な名取です。
「それでは皆さん、乾杯しましょう」
いつの間にか、絵顔全開で場を仕切る樹里ちゃんです。
「かんぱーい!」
みんなでグラスを合わせます。
「おい、余興はねえのか?」
乾杯したばかりなのに無茶振りをする井川です。きっと先が長くないのを自覚しているのでしょう。
「バカ!憎まれっ子世にはばかるって言うじゃねえか」
地の文の挑発に乗ってまんまと墓穴を掘る井川です。
「わーい!憎まれっ子だー」
既にへべれけな律子です。井川と別れた後、名取をツマミにしこたま飲んでいたのもお見通しの地の文です。
「姉ちゃん、調子が出てきたじゃねえか。じゃあ、なんかやってみろ」
井川にそそのかされ、その気になる律子です。コートを脱ぎ捨て、魅惑のボディを披露すると、パチンと指を鳴らしました。もはや、律子の下僕になり下がった名取が音楽を掛けます。すると律子はキレキレのブレイクダンスを披露しました。
「いいぞ!姉ちゃん」
子供を産んで少したるんだボディが井川のツボにはまったようです。
「みなさん楽しそうですわね」
藤崎が用意した超一流シェフの料理に舌鼓を打ちながら、笑顔全開の樹里ちゃんです。
「御徒町さん、新しいお住まいの住み心地はいかがですか?」
「まだ、良く解かりませんわ」
どさくさに紛れて樹里ちゃんを口説こうとする日下部です。
「ええ、御徒町さんは素敵な方ですからね」
まったく調子が狂ってしまう地の文です。やはり地の文はこの男が苦手です。
「藤崎さん、いいんですか?奥さんこのままじゃヤバいですよ」
「名取くん、いいんだよ。ボクはりったんの全てが大好きなんだ」
「そういう問題じゃ…」
もう誰も律子と井川を止めることは出来ません。名取はヤケクソになって超高級シャンパンをラッパ飲みしました。元々酒が強くない名取はその場でつぶれてしまいました。
「さあ、皆さん、そろそろこの子を寝かし付けないといけませんの。なのでお開きにしていただけますか?」
樹里ちゃんの足元にしがみついて可愛くあくびをする瑠里ちゃんに一同ほっこりとさせられました。
「最後に、皆さん、引っ越しそばをお召し上がり下さいな」
樹里ちゃんは超一流シェフにいつの間にかそばを用意してもらっていたのです。
「こりゃ、いい」
「ホント!これはいいなー」
井川は金粉入りのそばをペロッと平らげました。ところが律子は金粉だけをなぜか財布に仕舞うと、残ったそばは名取の顔にぶちまけました。それでも名取は目を覚ましません。
「ぶちょー、こいつ下僕のクセにご主人さまより先に寝ちゃったー」
「いいから。そいつはほっとけ。そう言うキャラなんだから仕方がねえ」
こうして、樹里ちゃんの引っ越し祝いは無事にお開きになりました。
昨夜の大騒ぎがウソのように静まり返った広間で目を覚ました左京です。朦朧とした意識のまま片付けを始める左京です。
「ん?」
ひときわ大きなゴミを見つけた左京は何とか引きずってダストボックスへ放り入れました。そして、樹里ちゃん達が起きてくる前にどうにか広間の掃除を終えることが出来ました。
瑠璃ちゃんを抱いて仕事に出かける樹里ちゃんを見送ろうとした時、無気味な声が聞こえました。
「あら、何か聞こえませんでしたか?」
「気のせいだろう」
「そうなんですか?」
笑顔全開で出かける樹里ちゃんです。左京と瑠璃ちゃんはそんな樹里ちゃんを見送りました。
そのころようやく目を覚ました名取は自分がどこに居るのか判りませんでした。しばらくしてようやく状況を把握したようです。
「ぬあーーー」
ダストボックスの中でゴミまみれで雄叫びを上げる名取でした。
めでたし、めでたし。