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僕だけ行けない異世界RPG   作者: せりざわなる
第一章 親友と始まりの少女。
3/10

親友の話をしよう。

金森スグルに会ったのは、高1のGW。


ぼっちの僕はこのGWを読書三昧で過ごそうと大型書店で物色している真っ最中なのだった。


僕が好んでするのは読書、ゲーム、映像観賞、音楽鑑賞、創作活動なんだが、同時進行で出来ない。

読書にのめり込む期間があれば、唐突に音感鑑賞にはまりこむ期間に突入する。そしてある日ゲーム三昧の期間になる。

順番はランダムだが、このサイクルがぐるぐる繰り返されているわけだ。


今回は、「読書にはまる期間」「バイト代出たばっかり」「GW」という素晴らしいタイミングになって、いつもよりハイテンションで本屋探索している。


ネットでポチっとクリックでもいいんだが、製本の手触り、多数の本の山から思いがけない一冊を当てた喜び、積み上がった厳選された自分だけの宝(本)を見る満足感など、さすがに感じる事はできないからな。


スーパーにもあるカートに上下2段カゴを乗せて店内を回る。


予算は潤沢。

狙っていた新刊に。

今期のアニメ原作のライトノベルをバカスカ。

店員さんのオススメがついてる本の中から数冊。

目の引く帯や表紙の本からも選んで。

今こそ、気になってたマンガの全巻大人買い!


くうー!

たまらん!

早く帰って読みこもりたいぜ!


ほぼいっぱいになった2つのカゴをみて、ふっと気づく。


これで足りるか?


まるで、空腹時にコンビニに行った時のよう。

欲求が強くて何となく足りない気持ちになる。


しかし、あらかた僕がよく読むジャンルのコーナーはまわったしな。

違うジャンルをめぐってみるか。


僕はビジネス本とかハウツー本とか並ぶ新書コーナーに足を向けた。

そこでスグルにあったのだった。


僕が言ってもなんだが、正直スグルはちょっと浮いてた。

新書が並ぶエリアでシルバーアクセサリーをつけてるインドア派に見えないイケメンが、真剣に本を立ち読みしてるのだ。

(中味をざっと確認するならともかく、立ち読みはオススメしませんよ)


スグルとはあまり話した事はない。

教室で聞こえてくるスグルとその友人達の雑談から、休日といえば外出という感じのアクティブな付き合いに僕は合わないだろうし興味がなかったから。


もちろん、このGWだって「友達と遊ぶ」という予定があるイメージがあった。


その彼が、新書コーナーで真剣な顔をして立ち読みしている。

彼が本屋にくるのは変な事じゃない。

でも、何となく買うならファッション雑誌とかもっと店先に並んでいるような本かと思った。

これは僕の偏見か。

僕は気まずいような小さな発見をしたような驚きを感じたものの声をかける気にはならず、場所を変えようとカートを動かした。


「古橋?」


うわー。

気づかれた?

気づかれマシタヨネ。

僕の名前を呼んでますもんね。


「あ、金森」


じゃねー!

わざとらしいだろー。


「なんかでっかいもんが横切ったと思ったら、それかー」


カートいっぱいの本に目が行くスグル。


「すげー量だな。コレ、全部かうの」


まじまじとカゴの中の本を眺め出すスグル。

いや!

やめて!

エッチなものとか無いけど、なんか恥ずかしいよ!


「うん。物凄く本が読みたくなってさ。なんか手当たり次第って感じになったけど」


ふっふっふっ。

ぼっちだからって、コミュニケーションが取れない訳じゃないのさ。

自分のテリトリーに深く入らない話題だったら、割りきって話せるだろう?

今日は暑いですねー。

そうですね。なんだかアイス食べたくなりますねー。

みたいな。


「本当に手当たり次第って感じだな。マンガに小説、硬い表紙の本か。ジャンルも違うな。げ、世界の殺人鬼伝とかあるんだ」

「殺人に興味がある訳じゃないよ。こういう事件があるんだーって読んでみたくてね」


僕は、スグルが手に持ってる本に目がとまる。


「そういう金森だって何の本を読んでるの?」


そう指摘されて、スグルは立ち読みしていた本をまだ手にしていた事に気づいたようだ。

「ああ、これ?」


ためらいなく見せてくれた本の表紙には

【ザ・サバイバル】


「……まんまだね」

「よくわかんなくってさぁ」

「サバイバルって、無人島とかでキャンプでもすんの」


アクティブ系だと思ってたけど、こっち方面でのアクティブ系でしたか。


「キャンプ?」

「GWで友達とチャレンジするのかと思って。金森って、そういうの楽しむぞ!って決めたらとことん楽しもうとするイメージだし」

「あはは。どんなイメージだよ。古橋って面白いなぁ」


スグルの何のツボをついたのやら。

でもそろそろ、この会話を終わらせたいなぁという気持ちになりつつある。

最低限のコミュニケーションはとれたはずだ。


「じゃ、僕はそろそろレジに行くよ」


重いカートにかけた手に力を込めてレジへと方向転換をしようとした時。


「なあー。古橋、連絡先交換しようぜ」




この時から、スグルとのつながりが出来てしまったのである。





『古橋ミキヤ、と。ミキでいいか』


スグルは慣れた様子で僕の連絡先を登録し、さりげなく僕の呼び方を決定した。


こ、これがコミュ力抜群のイケメンというやつか。

ってか、ミキってなんだよ。

女の子じゃないぞ!


ぴろりんと僕のスマホにスグルの連絡先が通知される。


「俺の届いたな。登録しておいてくれ」


マンガならあうあうといった感じで見てしまう僕に、スグルはよろしくなと爽やかスマイルをかます。


く……

確実に流されてるが、嫌な感じがしない。

ここにもコミュ力が発揮されている。

正直、羨ましいぞ。


その後、スグルは僕に付き合ってレジに行き、大量の本を配送する手続きを面白そうに見ていた。

帰宅途中に読む本のみを持ちながら、僕たちは本屋を出た。


「なんか、面白かった」

「そう?」

「俺はあんなに本は読まないからなぁ」

「そんな感じ」

「そんな感じってなんだよ」


不思議な時間だった。

クラスではほとんど接点のない僕達が、こうして学校の外で一緒に歩いてる。

連絡先交換したところで、この先の付き合いなんて想像がつかない。

心地よいようなむずかゆくて逃げ出したいような、なんとも言えない気持ちになる。


本屋から先、駅方面と繁華街方面に別れる交差点にでた。


「ミキ、もう帰えんの」

「うん」


繁華街方面の歩行者用信号機が青になる。


「俺は約束あるからこっちだな」

「じゃあね」

「おー。今度連絡する」


え?

まだ僕に用事なんてあるの?

スグルは手を振って、横断歩道を渡って行った。




そしてGW3日目。

スグルから来たメッセージは

「RPGってやつを教えてくれ」

だった。


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