ようこそ、サリ
くぅ~。
かわいい音がなりました。
そういえば、そろそろお昼の時間。
ちらりと音の発生源を見ると、お腹を抱えてうつむいている。
「お腹すいちゃった?」
「いえ、その」
「良いんだよ。僕も何も食べてないしね」
せっかくの夏休み。
食生活だってだらだらするでしょ。
1人だったら自分の世界を堪能して、ごはんはどうでも良くなるんだけど、今はサリという他人がいるしね。
やっぱり、気を配らないとな。
しかし、ここで効果が発揮されるコミュ障。
自分のテリトリーのここで、自分の料理を振る舞うという「親密さ」を展開するのは、ハードルが高いんだよね。
自分の自信のなさが全ての原因なんだけど、スバルはなにそれって感じだろうな。
さてどうする。
コンビニで買ってくる。
→サリを部屋に残しておく!→1人で待たせるなんてとんでもない!
コンビニに一緒に行く。
→ 部屋で二人で食べる→ボッチが落ち着く僕にとっては、そろそろ二人きりの状態が限界!
ヨコシマな意味じゃないぞ?
サリが悪いんじゃないぞ?
友人でも家族でも会話が途切れる時はある。
その時に、それでも自然にいられるかどうかの事なんだ。
僕はコミュ力に自信がないから、知人レベルの関係だと、逆にしゃべりつづけてしまう。
特に、二人きりなんて互いにしか意識を向きあうしかない状況だと、そうしなきゃと思っちゃう。
で、今、まさにそうなってちょっと限界に近い。
と、すると……。
僕はサリをみる。
サリのワンピースは袖無しのシンプルなもの。
指輪を除けば、余計なアクセサリーもつけてない。
いけるか?
「サリ。外に食べに行こう」
「え?外ですか?」
「食べ物屋さんに行こう」
サリは一瞬目を輝かせたが、すぐに不安そうな顔をした。
「怖い?こっちは平和な国だって情報は伝わってないの?」
「ええ。わかってはいるのですが……」
しゅんとしてしまう。
うーん。
どうするかなぁ。
「じゃあ、ちょっと来て」
僕は玄関まで歩いた。
サリを玄関先に立たせて、ガチャリとドアをあける。
アパートの僕の部屋は、2階の端にあるから、玄関を開ければ通路と柵が見える。
そして、その先の景色も。
「まずは、ドアの先まで出て見ない?」
僕は財布と鍵をジーンズの尻ポケットに入れ、先に出る。
サリの前にク◯ックスを置いて、手を差しのべた。
「僕と一緒に出て見よう?」
「……はい」
自分からしていてなんだけど、小さくて暖かい手にどきりとする。
一瞬、体が震えたけどサリは見慣れない履き物をおそるおそる履いていて気づかなかったようだ。
「ミキヤさん。履きました」
「うん」
サリの手を引いて、玄関をでる。
とりあえず、通路に出て柵から見える景色をサリに見せた。
そこから見えるのは、ただの住宅街。
それでもサリは息をのみ、目をキラキラさせた。
風が髪や服を揺らしていく。
「僕の……僕達の世界へようこそ。サリ」




