表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼き草原の獣 -黎明の時-  作者: 沢井 淳
二章 分相応の実力
9/38

二章 分相応の実力 5

「彼女が先鋒ならば、私が当たらねばなりません。勝つにしろ引き分けるにしろ、ユトリアは私が必ず潰します。ですから、先鋒は私が。次鋒はウイッシュ」

「おう」

 野太くも力強い答えにウララは満足げにうなずき、

「中堅はモーリア、あなたに任せませす」

「異論はない」

 囁くように、それでいて真摯な眼差しで答えるモーリアへ短く謝辞を述べたウララは、次にナフューを見て副将へ就くよう要請した。

「副将ねぇ。柄じゃないなぁ」

「それでも受けてもらいます。最後の大将戦では、勝たなくとも引き分けてもらえればよいのです」

「ふーん。ま、それならばやりましょうか」

「頼みましたよ。そして」

 ウララの睨みが来た。

「あなたは大将をやってもらいます」

 なるほど、勝ち星争いで勝つ気か。

 ウララが思い描く戦績は三勝二敗二分けだ。先鋒は引き分け、次鋒と中堅が一勝一敗狙いで、副将が一勝一分けという計算だ。先鋒以外は二戦し、大将にまでは試合を回させない。それだけダンへの信頼度はからっきしなのだろう。

 素早く結果を弾き、ダンは苦笑いを浮かべて確認した。

「先行逃げ切り、と言ったところで?」

「そうです。これで勝ちに行きます」

 揺るぎない瞳に、ダンは逸らすかのように瞼を閉じた。

 なんだか。ちょっとな。……やっぱダメだろ。

 どうするかずっと決めかねていたが、ようやく決心した。

 我は獣へ至る、だよな。師匠、今回も破りそうです。

 断りつつダンが目を見開くと同時に、最後の機会は訪れた。

「異論、ありませんか」

 まわりを見渡すウララへ、ダンはおもむろに手を挙げた。

「なにか」

 鋭い眼差しと二つの冷めた視線、そして意味ありげに微笑むナフュー。彼らに対し、にやけた笑みを浮かべたダンは異議を唱えた。

「これはぼくの我が侭なのですが、先鋒をやらせていただきたい」

 じっくり睨まれた一拍後、ウララは押し殺した声で確認してきた。

「……本気ですか」

「ええ。それにぼくは大将の器じゃない」

「器など。これは勝つか負けるかなのです。我が侭は言わないでください」

 だよなぁ。その通り。……しかし、なんというか。

 却下されるのはわかっていたが、実際されてみると心に来るものがある。

 どんどん嫌われていく。ぼくはなぁにしてんだろ。

 笑いたくなる衝動を抑え、ダンは次なる手を打った。

「勝ち負け。ならちゃんとした戦略を立てるのも代表の責任では」

「私の見立てが、間違っていると?」

「べつにそこまでは。ただ勝つ気でいるのなら、いきなり大将同士が争うのもどうかと思うわけです。おわかりですか?」

 少々の嫌みが、ウララの頬を朱に染めさせた。

「私は堂々と!」

「よく考えてください」

 吠えるウララへ冷静な声で呼びかけ、ダンは淡々と言い続けた。

「突進してきているのは向こうです。考え無しにですよ。それにわざわざ乗っかるのは、ちょっとねぇ。おかしいと思いませんか」

 暗に同類であることをほのめかしているわけだが、本心からではなかった。

 でもそういう人だと思われてんだろうなぁ。

 実際、ウイッシュとモーリアの視線は鋭い。今にも吠え掛からんばかりだが、すべてウララに任せている節がある。彼らはウララ信者なのだろう。だからやりやすい面もあるが、この状況下では鬱陶しくて仕方ない。

 ま、今は無視だ、無視。本命が落ちればどうでもいい。

 意を決し、ダンは畳みかけた。

「いずれあなたは王国の将となる人でしょう? 将ならばどうしますか。少しでも勝つ手を取るのが国のためでは?」

 唇を噛み、ウララは進行表へ目を移す。

 よしよし。これで決めてみますか。

「いいですか、我々は大将の駒です。戦略上、あなたの命令でどこへでも。ならば戦術を有利に運ぶために、戦略の段階で相手の力を削ぐのは上策でしょう? そう、あなたの命令で」

 そこまで言ってダンは押し黙った。

 いきなり顔を上げたウララがダンを睨んだのだ。今までにない鬼気迫る雰囲気をまとってだ。

 さすがジェッカー。

 英雄の子孫であり、将の器として宿命づけられた者だけはある。

 ぼくには無いものだな。

 気圧されるほどの高貴さと、剛毅な心が作り出す精神波動を感じつつ、ダンはウララの言葉を待った。

 誰しもが口を閉ざし静寂が辺りを包むなか、闘技場から選手紹介の声が聞こえだし、名が呼ばれるごとに客の歓声が沸き起こる。その声を背に、ウララは怒りを抑えた口調で話しはじめた。

「私はあなたを信用していません。理由は今までの試合です。あなたは真剣に戦っていない。そんなあなたがユトリアと戦いたいという。その本心を聞かせて欲しい」

 本心か……君のため、なんて言えないか。

 陳腐すぎであり、遅すぎであった。

 ならもう一つの本心で行きますか。

「捨て石ですよ。でも戦ってみたいのです。本気でね」

「本気、ようやく出すと?」

「ええ、出します」

 即答を受け、ウララは眼を細めて矢継ぎ早に変更を口にする。

「中堅ウイッシュ、副将モーリア、大将ナフュー。私は次鋒を務めます」

 最後に一呼吸置き、

「ジェスラ・ババンギ・ダン、これであなたの望み通り。先鋒として、それ相応の働きをしてもらいます」

「やらせていただきましょう」

 にこやかに答えたが、笑顔の人物はダン以外に誰もいなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ