四章 時の選別 3
ぼろぼろに裂けまくった外衣はそのまま処分され、汚れた学生服は没収。かわりに上下とも真っ白な研修用の衣服を与えられ、強制的にぬるくなった風呂へぶっ込まれたあと、渡された番号の部屋へ足取り重く、北館二階の薄暗い廊下をナフューと共にゆっくり進んでいく。
目指す部屋は四九号室。
ギリギリとは、まったく。
未だ納得は行かないが、現実はすでに確定してしまった。
本来なら一桁番号の部屋に入れた。
なのにこの番号。すべては波乱に満ちた九八周目が原因だ。
九七周目まで先頭の集団と付かず離れず、余裕を持って走っていた二人だが、再度中庭に戻ってきたとき事態は急変してしまう。
「あれさえなければ」
悔しさがつい口をつく。
「しかし俺らは勝ったぜ、ダン」
「あぁ……勝ったんだ」
不正は許されない。しかし妨害工作はまったく禁止されておらず、各々でコソコソと行われていた行為が、九八周目に来てついに表面化したのだ。
周回遅れとの乱闘。
それらを涼しい目で見守る教官たち。
まさに地獄絵図と化す中庭を、そそくさとすり抜けていく面子。そのなかにポエトラやチサラの姿を見るも、ダンとナフューは見事に巻き込まれ、拳で語り合いまくってなんとか抜けきったときにはもう、定員ギリギリだったといわけだ。
「これが青春って奴かな、ダン」
「違うだろ。もっと清々しいはずだ。ぼくは認めないぞ、こんなの」
腫れた顔を見合わせ、互いにため息を吐く。
「とにかく今は部屋で休む。それからだ、なにもかも」
「抗議したってむなしいだけだぜ」
「わかってるよ。でも言わずには、ってやつさ」
不敵に笑って言い切った直後、おもむろに近くの扉が開き、ひげ面の男が顔を出した。
「お前ら、静かにしてくれねぇかな」
「あぁすみません」
苦情に対し速やかな謝罪を繰り出す、それはなるべく穏便に済ませようとした学生時代からの癖だ。これで即解決、まったりとまた進むことが出来る。そう思った矢先に、相手の笑い声が聞こえてきた。
再度相手を見ると、ひげ以外は全体的に腫れ上がっており、笑うのも苦しそうな表情に見えた。彼もまたあの乱戦を戦い抜いた一人なのだろう。
「どうやらお前らも勝ち組に入ったらしいな」
「まぁなんとか入りましたよ」
一応年上っぽいので丁寧な対応で返していると、相手は得意げに胸を張り、
「だが、俺よりかは下らしいな」
「順位は?」
「言う前にわかるだろ。すでに部屋で休んでいるんだからよ」
「でしょうねぇ」
そう言って部屋番号を見上げ、ダンは首を傾げた。
「ここって四九号室ですか」
「あぁ……ってまさか」
「ええ、まさかなんです」
にかっと笑って、ひげ面の男が佇む扉へ近づく。
「なんでぇ早く言えよ。戦友なら大歓迎だ」
男が脇に退いて二人を迎え入れる。
「それはどうも」
男が脇に退き、ダンとナフューは部屋へと踏み入れる……のだが、二人の足はすぐに止まることになる。
せ、狭!
数歩進めば窓がある。それ以外は壁沿いに二段重ねられた寝床があるのみだ。
「せめぇところだけどよ、まぁ休むにはこれぐらいで充分だ」
「たしかに充分だ」
つぶやいたナフューが荷物を降ろし、ざっと見渡して聞いてきた。
「俺らはこっちの寝床らしいぜ、どっちにするよ?」
左側はすでに先客らで埋まっており、手つかずの右側が二人の寝床ということだ。
どうせ狭いんだしな。
固執することなく、ダンは肩をすくめて『どちらでも』と答えた横で、先ほどの男が眠っているらしい先客へ声を掛けた。
「おい、セドルよぉ。起きてんだろ、俺たちの仲間が来たぜぇ」
「……そうなんですか」
微かな声が聞こえ、上の段で横になっていた男が身を起こす。
あぁこいつは、ヤバイ。




