表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼き草原の獣 -黎明の時-  作者: 沢井 淳
三章 新たなる絆
18/38

三章 新たなる絆 6

 守護警士資格試験の受験者数は、毎年五○○○人前後と言われている。

 今年もその数に見合うだけの人だかりが、試験会場である闘技場にひしめき合っていた。

 お陰で、ダンは見事にナフューとはぐれた。

 午前中にあった簡単な筆記試験を隣の講堂で済ませたあと、ぞろぞろと模擬戦試験の会場へ移ったあたりで見失ったのだ。

 まぁ仕方ないか。この番号じゃなぁ。

 会場で渡された番号を見て、二人して首を捻ったものだった。

 ナフューは二千番台だが、ダンが手にした番号は五〇二五番。今年の受験者数が五〇二五人なので、一番最後の番号がダンとなる。ということは、一斉にやる筆記と違って順々に試合をこなしていく模擬戦では、かなり遅くはじまることになる。

 試合会場は八つかぁ。それでも夜ぐらいにはなりそうだな。

 剣術大会時に使った円形の舞台はすでになく、四角く分割された舞台が八つあり、それぞれの番号が割り振られていた。

 で、ぼくの会場はと。

 受験番号票に書かれた第八会場の文字を確認しながら、人混みのなかを突き進んでいたときだ。

「わ、わ、うおっとぉ」

 正面から危険な響きが聞こえ、茶色い髪を見た直後、ダンはまともに衝撃を食らっていた。

 しかも顎へだ。

 一瞬にして視界が淀み、身体の力が抜けて後ろへ倒れるも、人混み故に雑に扱われたダンはその場に崩れ落ちた。

 な、なんだ。一体。

 意識はすぐに回復するも身体が思うままに動かないなか、眼前に未だ茶色い髪があることに気付いた。

 こいつか。見事な頭突きをかましたのは。

 あまりの衝撃になぜか賞賛する思いを抱きつつ、ダンは痛む顎を押して声を掛けた。

「あの、すいませんが退いてくれません?」

「うー。痛いの」

 それはこっちもだ。

 言いたくも言えない状況下で、ようやくダンの上にのしかかっていた身体が起きあがっていく。

 頭を押さえた少女らしき人物は、碧眼の瞳でダンを見下ろすと、

「あのぉもうすこし前を見たほうがいいですよ」

 お互い様だろ。

 などと思いながらもダンは謝った。

「申し訳ない」

「そうですよ、まったく」

 短めの茶髪を揺らし、少女は腫れ物をさわるかのように頭部を両手で探っていく。

「あぁでっかいたんこぶがぁ」

「ま、まぁこっちも顎にですね」

「顎が硬すぎますよ」

「そ、そうですか? そっちの頭も意外と硬い気が」

「ならさわってみますか、このどでかい証拠を」

 むすっとした、薄いそばかすが特徴的な顔が近づいてくる。

 ち、近、ってそうじゃないだろー。

 妙な展開にダンは顎の痛みも忘れて声を上げた。

「わかった、わかったからまずは退いてくれ」

「あら? あらあら。まぁ私ったら殿方を押し倒して……これはう、運命。うへへ」

 うへへじゃねー。

 ヨダレを垂らしかけた顔を見た途端、危機感が力を呼び起こし、ダンはおもむろに身体を回転させて身を起こす。もちろん危険人物を跳ね飛ばしてだ。

「なぁにするんですかー」

 尻餅ついた格好でぶーたれた少女を見下ろし、ダンは手をさしのべつつ答えた。

「なんか、ものすんごい危険を感じてね。身体が勝手に動いてしまったのだよ、いやはや申し訳ないね」

「危険ですか。それなら仕方ないですなぁ」

 まったく疑うことなく、というより自分のことを意味しているなど、気付いてないらしい少女は、差し伸べた手を掴んですくっと立ち上がると、急に目を見開いて口走った。

「いけない、もうはじまる」

「なにが?」

「ちーたんの試合がですよぉ。あの子、私が見てないともう危なっかしくて」

 それは君のほうじゃ。

 思わず言いそうになる言葉を飲み込んだダンは、

「なら急ぐんだね。今回の件は互いの不注意ってことで」

「ですねー。じゃまたね、運命の人」

「違う、そこ激しく違う!」

 否定するも、薄緑色の学生服を着た少女は軽やかにダンの前から去って行く。しかし見続けていると時折、人に当たっては謝罪する、そんな姿を見せながら。

「ありゃ難敵だな」

 ぼそっとつぶやいたダンは、依れた学生服を直し、埃を払おうとして手が止まった。

 これって。

 屈んで手にした受験番号票を確認し、握りしめていた自分の受験番号票を見て眉をひそめた。

 あの子のか。

 書かれた名はデア・グッド・ポエトラ。どうやらダンと同じ、今年上級校を卒業した受験者らしい。

 ポエトラね。たしかにぽわんとしてるよ。

 微笑んでとりあえず仕舞おうとした、そのとき。

 ダンの目は見開かれ、手にした受験番号票が微かに揺れていく。

 五〇二四番。まさかぼくの対戦相手?

 妙な調子に狂わされた先ほどの悪夢が過ぎる。

 やりにくいぞ、あれは。……って待てよ。

 もう一度番号を確認し、自分の番号を見てみる。

「五〇二五。もしかして余りか」

 模擬戦は順々に行われていく。ほぼ六三〇人ずつ別れた試合会場で、唯一第八会場だけが均等な人数ではなかった。

 戦う相手が誰なのか。

 非常に嫌な予感を覚えつつ、ダンは重い足取りで最後の会場へと向かっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ