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蒼き草原の獣 -黎明の時-  作者: 沢井 淳
三章 新たなる絆
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三章 新たなる絆 4

「そう、わかったわ。ありがと」

 真石の淡い光が揺らめく薄暗い隊長室で、メーベルは額の真石による『回線』を切った。

 遠方の真石同士を繋ぐ回線を開くことにより、会話が可能になる。その機能を使ってメーベルは確認し終えたのだ。

 こちらの用意は調った。あとは。

 脳裏に描いたところで、隊長室の扉を軽く叩く音が聞こえた。

「どうぞ、開いてるわ」

「ういっす。じゃ入るぜぇ」

 扉がうっすらと開き、もっさりもこもこした髪が見えた、だけで扉はとまった。

「うわ、暗、怖、お、俺なにもしてねーぜ」

 顔だけ覗かせた男、ダトリア・ルーウェン・ホージィがわざとらしい怯えた声をあげる。

「ちょっと集中することがあってね。明るくすればいいんでしょ」

 答えつつ念じると、部屋の灯りは一気に倍増した。

「ふぅ。そうでないとこっちも困るぜ。殺されかねん」

「あのね、人聞きの悪いこと言わないでくれますか」

「無理だねぇ。死神メーベルなんだからよ」

 にやにやした顔で答え、ホージィは隊長室に入ってくる。

 背は高いが、痩せこけた男だ。

 特徴的なのはもっさりと丸い特殊な髪型と、もろに出た二本の出っ歯だけ。それ以外だと風に飛ばされるかのような印象を見る者に与える。しかし腰に差した二本の小剣は伊達ではなく、彼以上の使い手はベスタ署に存在し得ない。

 彼もまた、ベスタにとって欠かせない守護警士の一人であった。

「で、四番隊の隊長さんがなんのようですかね、三番隊のお荷物に」

「三番隊自体がお荷物ではないの」

「ほっ、手厳しい。まぁ認めるけどよ」

 軽く腕を組み、右手で顎をさするホージィは机の前に立ち、探るかのようにメーベルを見下ろしてくる。そんな相手に、メーベルは不敵な笑みを浮かべて切り出した。

「お荷物であること、認めるのね」

「そりゃなぁ。って俺はまともだけどね」

「いいえ、あなたが一番お荷物よ。まぁココも大概だけど」

「そ、そう、ココはすげー。ついでに結婚したんだし、早く寿退官でも」

「今は人手不足よ。仕方ない」

「たしかに。って何の話だ?」

「お荷物よ。あなたはお荷物。ついでに私に貸しがあったわよね」

「か、貸し? あったかなぁ。いや、あっても返したような」

 惚けた答えにメーベルの顔から笑みが消え、じっくりホージィの瞳を睨む。

 無駄ですから。

 逃がす気はさらさら無く、メーベルは念押しする。

「あったわよね」

「そ、そうだなぁ」

 引きつった笑みを浮かべ、ホージィは天井を見上げて指折り数え、しぶしぶ答えた。

「ある、あります、ですから返させてください」

「よろしい。では来週の守護警士資格試験、来てちょうだい」

「面倒だぁ」

「苦情は受け付けませんから」

 ぴしゃりと不満を閉め出し、メーベルは微笑みながら机の下で拳を握った。

 これで面白いものが見られるわ。

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