その日を境に僕は髪フェチと呼ばれる(泣)
四日後、図書館を訪れるとあの事務員さんが先に僕を見つけた。
「いらっしゃーい、なんか晴れやかな顔てるね」
「はい」
「うんうん。いまだから言えるけど、最初来たときは海外旅行に行くって言ってた男の子と同じくらーい顔してたから、心配だったんだ。はい、これ学生証」
なにやら、さらりと言われた。
「その人、でも帰ってきた後は良い顔してたと思いますよ」
僕のキッパリした言葉に、事務員さんは「そっか」とほっとしたような、でも悲しげな曖昧な顔をした。
そのあと教室に向かう道で僕は時燈先輩と雪乃野先輩が並んで歩いている後姿に遭遇した。
もう、彼女は僕を覚えていない。
僕はぐっとこぶしを握った。長い髪の女の子に声をかけるのは鍵の特技だ。
「ねえ!そこの彼女! 友達になろうよ!」
「え? 私?」
「うん。僕髪の長くてきれいな人好きなんだ」
ちょっと時燈先輩の髪に触れると、思った以上に柔らかくてさらさらした感覚に、僕は本当にぼうっとなってしまった。
廊下がざわざわざわと騒ぎ始める。
時燈先輩も真っ赤になって、おたおたしている。
「し、知ってるわ! あなたみたいな人、髪フェチっていうのよ!」
「え、いや。僕はただ・・・」
話すきっかけにしようと・・・。
なんだかテンパってしまったらしい真由先輩にその弁明は通じなかったようで、髪フェチ、髪フェチと恥ずかしいくらい連呼され続ける。
仕方ないので、自分の意識と雪乃野先輩をいろいろとごまかすために、雪乃野先輩に話しかけてみる。
「僕、ショートヘアの方が好きですから」
しばらくして、ちょっと雪乃野先輩は頬を染めた。
「な、な」
そんなに照れてくれるとうれしいし、僕も照れた甲斐がある。
「そ、そうだったのか。仙太郎は九重のことが好きだったのか!」
「はい?」
事態がなんだか違う方へと進んでいく。
「ち、違います! 僕は!」
今誤解を解いておきたいのに、タイミング悪くチャイムが鳴った。
「あ、授業! 真由ちゃん行かなきゃ。仙太郎、応援するからな!」
「ちょ、先輩。それ、誤解ですからね!」
雪乃野先輩は返事をしないで行ってしまった。激しく、不安だ。
「仙太郎君、僕たちも行かないと、遅刻だよ」
「うわーーーーーっっ、と、虎君」
同じクラスの御国虎がいた。
「どこから聞いてた?」
「下手なナンパから」
虎君は笑っている。
この際だから聞いておくかと思いながら、僕は虎君を問いただす。
「君、どれかの事件にかかわってただろう? 時燈先輩のことについて知ると朝霧さんがなにも知らない人に説明を任せることはないと思った」
「え、ああ。真由先輩の、あれ。水無月忍先輩のことはもう知ってるんだよね。実はさ、先輩が埋めた猫、俺の飼い猫だったの。足を骨折した老いたアメリカンショートヘアで首輪はしてなかったけど、先輩が埋める前に取ってた写真と柄は一緒だった。猫は死に目をさらさないっていうけど、いよいよもうだめだって頃にいなくなって、それからずっと探してた。死んでることは覚悟でね。だから、あの猫の死んだ原因は老いと衰弱。犯人はいなかったんだよ。でも、真相を教えたことで超常現象研究会のみんなには、特に忍先輩には悪いことをした・・・」
一瞬、空気は湿っぽくなったが、虎君は仕切るよういに言う。空元気を振り回す感じで、だ。
「さて、でも今日は面白いネタをつかんだな」
「えっ?」
「うちのクラスのモットーはいじり倒すだから、覚悟しといたほうがいいよ。髪フェチ君」
その日を境に僕は髪フェチと呼ばれる(泣)
これにて「容疑者Mの恋、もしくはだから僕は髪フェチと呼ばれる」を完結いたします。
ここまで読んで下さった、すべての方にお礼申し上げます。
ありがとうございました。