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事件の真相

 暗闇に火の玉のように、ぽつりと点いたデスクライトが光っている。

「まだ、いた」

 一人図書館にいたのは朝霧九重だった。彼女は足を組んで椅子に座り、腕に本を抱えている。

「それは請求記号♯938:25:44。幸福の王子、ですか?」

「・・・雪乃野先輩に忍先輩のこと、聞いた? 彼、なんで幸福の王子を選んだのかな」

 彼女は封筒を一つ掲げた。

「これが本に挟んであったもの」

「君はとっくに暗号がとけていたんだね」

「そうね。見た瞬間にわかった。でも、意味はわからない。この手紙はたぶん時燈先輩宛てだとは思う。でも、これを先輩に渡していいのか、それもわからない。雪乃野先輩に暗号が解けたとこの封筒を見せれば、たぶん彼女は時燈先輩宛ての手紙でもためらいもせずに読んで、害がないと判断したら、時燈先輩に渡すと思う。でも、私は勝手に忍先輩の手紙は開けたくなかった。先輩の最後の手紙だから。でも、そのまま先輩に渡すこともできなかった」

「その理由のために、君は本を棚から出して散乱させた光景を時燈先輩に見せたんだね」

「なんだ。あのこと、私を犯人にするんだ。その理由は何?」

「動機があるから。忍先輩のその手紙には君の事件の真相が書かれてるんじゃないかと、君は疑ったんだ」

「・・・はは。なんで、そんなこと私が思うの? っていいたいところだけど、もういいや。巻き込んでごめんね」

「いや、僕が図書館になんか行ったもんだから君の計画が狂ったんだ。計画の是非は置いておいて、邪魔してごめん。君はもしかすると忍先輩の最後の手紙には君の事件の犯人の名前があるかもしれないと思った。事件が解決したら時燈先輩は忍先輩のように朝霧さんのことを忘れてしまう。だから、君は自分で事件を起こし、その容疑者になることで彼女の記憶に自分を固めて、その後で、その手紙を渡すつもりだった。そう犯人が君だという仮定から僕は導き出したけど、どうかな?」

「そうだよ。海外に行く前、忍先輩は私をにらみつけて言った。事件が解決してるのはお前も一緒のくせに。お前も真由に忘れられれば良いんだ、って。私、時燈先輩に忘れられたくなった。忍先輩みたいになりたくなかった。だからあんたの言うとおり、自分で事件を起こしたの。朝のあの時間に図書館にはいつも誰も来なかったのに、あんたというイレギュラーのせいで、私は気が動転して、散らかしたまま柱の陰に隠れた。そして、あんたが容疑者になるのを指をくわえてみていたの。でも、仮定ってことは私が犯人じゃないか鎌をかけただけなの?」

「いいや。ずっと気になってた。どうして散らかすなら散らかすで犯人はもっと派手に本をばらまかなかったんだろうって。最初は気が小さい人が犯人かもなって思ったりもしたけど、本が好きな人だって方がしっくりきた。ドラマとか見てても犯人は十中八九自分の好きなもので殺害したりしてるだろう。自分とかかわりのあるところの方が事件を思いつきやすいんだろうね」

「それだけじゃ、やっぱり鎌かけじゃない?」

「じゃない。だって本が好きな人間で時燈先輩を朝の図書館に呼べたのは、君一人ぐらいだ。雪乃野先輩は毎朝時燈先輩を家まで迎えに行ってる。その後もおそらくずっとべったり一緒なのは想像に難くない。そこに誰かが時燈先輩に図書館にきてほしいと呼びかけたら、雪乃野先輩も一緒に図書館に行ったはずだ。でも、あの時時燈先輩は一人だった。事件を起こした犯人に言われた通り一人で図書館に行くため、彼女は雪乃野先輩を撒いたんだ。朝にそれを指示できないとなると犯人は少なくとも前日に時燈先輩に言うことになる。でも、時燈先輩の記憶は一日しか保たない。覚えていられるとしたらそれは時燈先輩が被害者と認識している朝霧さん。君だけだ」

「お、お見事。っちょっと、予想外に完璧で鳥肌立ったよ、ぞわわわわーって」

「えと、どうも」

 ちょっと、照れた。

「そんなに頭が切れるなら、この封筒の中身も当ててほしいなー。私、ここ最近図書館にもぐりこみすぎてて、寝不足だよ」

「それなんだけど・・・」

 自分で今まで話している間に、思った。

「それ、もしかして君宛てじゃないの?」

「へ?」

 朝霧さんは意表を突かれたというように茫然とした顔で僕を見た。

「君が本好きだっていうのは忍先輩は知ってたんだよね。じゃあ、暗号が一番早く解けるが君だってわかってたと思うけど」

「でも、これ雪乃野先輩の家に届いて・・・」

「忍先輩は君の家の住所、知ってたの?」

 あ、という形に朝霧さんの口が開かれる。

「もし、君宛てじゃなくて時燈先輩宛てだったとしても君がそうしている間、先輩は手紙が読めないんだから、もう中を確認したらどう?」

「でも・・・」

「時燈先輩、すごく君を心配してた。君の悩みを解決したいって。僕も協力を頼まれた。それに、なんだか、大事なことを忘れてる気がするって苦しそうにもしてた」

「・・・私も苦しい。もう、無理。ごめんなさい、先輩!」

 彼女は叫んで封筒を開いた。

 中からきれいに折りたたまれた紙を出して読んだ彼女はあっと思う間もなく、頭を腕に埋めた。

 彼女の泣き声は静かな図書館に響いた。


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