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まちのできごと  作者: N
3/14

 -記述2・その日の夜、藤ヶ丘二丁目某所-

 

 怪奇な夢のように、無個性な四角い一戸建てが並んでいる。道を歩いているだけで、家のお化けたちが、右から左から語り掛けてきそうだ。街灯も滅多になく、ひたすら暗い。

 細い道を少女が歩いている。

 三脚付きの望遠鏡を担ぎ、メガネの青年もついていく。

 道は、行き止まっていた。変わりばえのしない一戸建てによって行く手を阻まれ、終わっている。

「やだやだ。さもしそうに肩を寄せ合っちゃって。ここら一帯、まるで家の在庫処分場だわね。こんな不便で陰気な所によくも住むもんだわ」

「移住するのも簡単ではないでしょう。住民としては一生住むつもりで買ったのでしょうし、大きな買い物だったでしょうから。我々のように、安アパートやレオパレスを点々とする浮草生活とは違うのですよ」

「講釈はいい。黙りなさい。私の世話人のくせに」

「失礼しました」

 青年は少女の言葉に全面同意しかしないような微笑を湛えている。

「フン、でも、来てみたら分かったわ。ここの雰囲気は、〝異常〟よ。ムカつくくらいに、〝異常〟を感じるわ。いかにもエーテルが溜まりそうな場所だわ」

 少女はおとがいに手を当て、クイと顔を上げる。

「……何やってんのよ。スコープの準備! 世話人なら気を回すものよ」

「失礼しました。準備しましょう。しかしお言葉ですが、住民に怪しまれませんか?」

「その時は『天体観測してる』って言う」

 少女は目の前に準備された望遠鏡を覗いた。

 レンズが捉えたのは、夜空の星ではなく、正面の一戸建てである。

 窓は真っ暗、生活臭のない家。

 少女はレンズ越しに、

「大きな反応があるわ。町長の時よりも純度が高いわね。ワックスで磨いたリンゴみたいに真っ赤よ。r値は88.5……。町長のエーテルの産生点はここに違いないわね」

「クロと言える数値ですね」

「町長のエーテルの志向性から、発生源があることは一目瞭然だった。きょうの日中、広範囲にサーチをかけてみたのよ。この地点に強い反応を観測した。来てみたらドンピシャだわ。元凶のエーテルは、この家の中ね」

「日中といいますと……。さやきさん、学校へ行きませんでしたね?」

「うるさいなぁ。明日は行くわ」

「仕事熱心なのも程々にして下さいよ」

「うるさいなぁ。世話人のくせに」

「仕事と学業の両立を図っていただくのも、世話人の役目です」

「……」

 少女は黙って青年を振り返った。

 思い切り踵を挙げ、青年の靴の先を踏み潰した。

「いたたっ」

 青年は微笑を歪め、うずくまった。相当の激痛だろう。元々の顔が笑っているというだけで。

 痛みで足を押さえる青年の両手ごと、

 ガシッ。

 グシッ。

 グチャッ。

 ボーリングのドリルのように踏み付けること四十回。少女は呼吸一つ乱れず、フリーバッティングで快打を連発した野球選手みたいに、爽快な顔で言った。

「仲間割れは、したくないなぁ?」

「承知しました」

「観察を継続するわ。この家を観察できる場所までスコープを運んで。近くの家の屋根でいいわよ」

「かしこまりました」

 ほほえむ青年は、蜂に刺されたみたいに脂汗を垂らし、手から血と皮を垂らし、望遠鏡を抱えた。

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