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II:次の一歩

次の夜も、俺は百獣堂へ向かった。この時をどれだけ待ち望んでいたか。ワイヴァーンの群れと戦っている間、ずっとベルのことばかり考えていた。もう楽しみで楽しみで、歩くスピードが通常の3倍くらい速くなっていた。


ベル…今日も俺に笑いかけてくれるだろうか。名前を呼んでくれるだろうか。俺も、彼の名前を呼びたい。そうしているうちに、まともな会話ができるようになるといいな。せめて友達になりたい。少しでいいから、彼に近づきたい。


俺は角を曲がり、食堂街に足を踏み入れた。もうすぐだ。もうすぐ彼にまた会える。


しかし、店に辿り着いた瞬間、俺は衝撃的な光景を目の当たりにし、体が石化したかのように凍りついた。いつも震える手で開けている引き戸には、1枚の張り紙が貼られていた。


"本日、都合により臨時休業とさせていただきます。ご迷惑をおかけしますが、何卒、よろしくお願い申し上げます"


俺は目と口を開いたまま、呆然とその張り紙を見つめた。


臨時…休業…?つまり、今日はベルに会えないということなのか?もしかしたら、明日も会えないかもしれない。そうしたら俺は…一体どうすればいい?この時だけを楽しみに生きているようなものなのに…


そういえば、ベルは大丈夫なのだろうか。この『都合』というのはどういう意味なのだろう。まさか、体調を崩してしまったのか?確かに、連日あれだけ働いていたら、あり得なくもない話だ。心配だな…あまり深刻ではないといいのだが…


するとその時、突然引き戸がガラガラと開いた。驚いて顔を上げると、そこにはなんとベルがいた。いつも腰に巻いているジャケットを、今夜は羽織っている。


「あれ?ヴォルグさん?」


俺は彼の急な登場に動揺し、店で働いている時とは違う美しさに思わず息を呑んだ。


「今日も来てくれたんですね!」


彼が嬉しそうに言うと、俺は頬を赤らめた。


「お、おう…」


「すみませんね〜、休業中で。最近ちょっと無理しすぎて、筋肉痛になっちゃって…あ、でも、明日には多分治るので、その時はまた美味しい焼肉丼を作って差し上げます!」


大事ではなさそうで安心したが、予想が的中したため、胸が痛んだ。そうか…筋肉痛か……やっぱり大変だったんだな。それもそうだ。あんなに大勢の客に、毎日たった一人で料理を振る舞っているのだから。早く良くなるといいな。


「今からコンビニに行くところだったんです。せっかくだし、ヴォルグさんも一緒にどうですか?」


俺はベルからの唐突な提案にドキッとし、えっ、という声が喉の奥から出た。


だが、俺の反応を別の意味で捉えてしまったのか、ベルはハッとし、申し訳なさそうに尋ねた。


「あっ、お邪魔でしたか?」


そんなことない。死ぬほど嬉しい。こんな願ってもいない展開になるとは……どうしよう…ものすごくドキドキする。でも、これはベルとの距離を縮める絶好のチャンスだ。逃すわけにはいかない。


「いや…行く」


俺は拳を握りしめ、真剣な表情で答えた。


ベルがパァッと笑う。


「いいんですか?ありがとうございます!ヴォルグさんともっと話がしてみたいと思ってたので、ご一緒できて嬉しいです!」


俺の心がさらに高く舞い上がり、瞳の奥がキラキラと輝いたような気がした。話がしてみたかった?俺と?ベルも、俺の存在を意識してくれていたということか?そんな奇跡的なことがあっていいのか?俺、明日死ぬのか?


「じゃあ、行きましょっか!」


「あ、ああ…」


ベルがてくてくと歩き出すと、俺も慌てて後を追った。


そして俺達は食堂街を離れ、夜中の大通りを歩いた。人が少なく、聞こえるのは主に車が走る音と、店や広告から流れるBGMだけだった。その静けさと街灯の明かりが合わさって、まるで恋愛ドラマのような空気を作り出していた。


俺はルンルンと進むベルの隣を歩きながら、彼の横顔をチラチラと見つめた。ヤバいな、これは…想像以上に緊張する。こんなの、まるでデートみたいじゃ…


(いやいや、気が早い!何を考えてるんだ、俺は…!)


するとベルが突然こちらを向き、尋ねてきた。


「ヴォルグさんって、賞金稼ぎなんですか?」


「えっ…!?なん…なんでわかったんだ?」


また自分の世界に入り込んでいた俺は、そうやって間抜けな返し方をしてしまった。


「だって、そんなかっこいい剣持ち歩いてる人、なかなかいませんから」


俺は自分が背負っていた黒い剣に気づき、あ、そっか、と思った。ベルのことで頭がいっぱいで、その重さすら感じていなかった。


「でも、鎧とかつけてないし、勇者じゃないのかな〜、って」


俺は自分のボロボロな服を見て、少し情けない気持ちになった。


「あっ…悪い…」


「いえいえ!俺はこっちのスタイルが好きですよ!キラキラした鎧よりも、着崩した革ジャンの方が、大人っぽくていいなって思います」


まただ。また心がときめいている。好き、という言葉にどうしても反応してしまう。そうか…彼の目には、俺はそういう風に映っているのか。確かに、初めて会った時から、一度も俺を見下したり、怖がったりしなかった。普通はみんな、目を合わせないようにしたり、影でコソコソ笑っていたりするのに。ベルは、本当に優しい人間なんだな…


「昔から、ヴォルグさんみたいな人に憧れてたんですが、剣術や魔法の才能は全くなくて…だから、俺なりの形で、日々戦っている皆さんを支えようと決めたんです」


ああ…やっぱりすごいな、この男は。やりたかったことができなくても、挫けずに自分の道を進んでいる。それも、自分だけではなく、人の幸せのために。


「それが、料理…なのか?」


「はい!作るのも食べるのも大好きなので!」


そうなのか…ちょっと見てみたいな。ベルが何かを美味しそうに食べているところを見たら、心が温まるんだろうな。


「料理はすごいんですよ〜!美味しいっていう気持ちが、みんなを一つにしてくれる。こうしてヴォルグさんに出会えたのも、料理のおかげですね!」


そう言いながら、太陽のような笑みを浮かべるベルを見て、俺はまた頬を赤らめ、頭をかきながら小さく微笑んだ。


「…そうだな」


———


「ありがとうございました〜!」


店員の明るい声に見送られ、俺達はコンビニを出た。そして、近くのベンチに座って少し休むことにした。お互い、ビニール袋を手に持っていたが、俺のはエナジードリンク2本とカップ麺一つしか入っていなかった。元々コンビニに寄るつもりはなかったため、適当に選んだのだ。


一方、ベルのビニール袋には色んな物が入っていた。グミ、のど飴、おにぎり、緑茶、野菜ジュース、絆創膏、そして…


「ヴォルグさんも吸います?」


ベルはそう言って、タバコを一本咥えながら、パッケージを俺に差し出した。偏見かもしれないが、正直、彼がタバコを買うのは意外だった。だが、そのギャップにさらにときめいてしまい、俺の鼓動は再び早くなっていた。


「ああ…ありがとう」


俺がタバコを取り出すと、ベルははい、と言ってライターを差し出した。俺は頬を赤らめ、震える指でタバコをつまみながら、ライターに顔を近づけた。タバコの先端に火がつくと、俺はサッと顔を離し、目を逸らした状態で煙を吐いた。


どうしよう…一瞬、すごく距離が近かった。それに、雰囲気もなんだかイイ感じだし…緊張しすぎて胸が破裂しそうだ。


深呼吸をし、チラッとベルの方を向いてみると、彼は自分のタバコに火をつけ、フゥと煙を吐いていた。表情はいつもと違って落ち着いており、遠くを見つめる瞳やタバコを持つ手も、とても優雅で美しく見えた。まるで絵に描いたかのようだ。


「なんか…いいですね。こんな静かな夜に、誰かと一緒に一服するのは。いつも一人だったので、ちょっと心細かったんです」


そして彼は俺の方を向いてニコッと笑い、嬉しそうに言った。


「ヴォルグさんがいてくれてよかった」


俺の中で、好きという感情がこれでもかというくらい溢れていた。うっかり告白してしまいそうだ。でも、まだダメだ。慎重に距離を縮めていかなければ。彼が、離れていってしまわないように。


「…ベル」


「はい?」


ああ、なんていい気分なのだろう。愛しい人の名前を呼んで、返事をしてもらうというのは。


耳までかぁっと赤くなった俺は、拳を握りしめ、なんとか声を絞り出した。


「れ…連絡先…交換…しないか…?」


最初に声が少し裏返ってしまい、そこからどんどん小さくなっていった。やっぱりカッコ悪いな。俺は本当にこういうのには向いていないのかもしれない。でも、リスクを承知の上で尋ねようと思ったのだ。でないと、彼との関係がこれ以上進まないかもしれないから。


俺はドキドキしながら答えを待ったが、ベルはいつものように明るく笑った。


「いいですよ!LANE(レイン)交換しましょう!」


俺はホッと息をつき、微笑んだ。ヤバい…嬉しすぎる。全身の細胞がヤッター!と叫んでいるような気がした。これで一歩前進できただろうか。そうだと…いいな。


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