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I:一目惚れ

それは、本当に突然のことだった。


一匹狼の賞金稼ぎである俺は、いつも通り獣を討伐し、報酬をもらい、夜中に家に帰ろうとしていた。昼から何も食べていなかったため、腹が減っていた。その辺の店で夕飯でも食べていこうと思っていたところで、とてもいい匂いが漂ってきた。ヘルフレイムブルの肉を焼く匂いだった。俺はその匂いに釣られて、今まで来たことのない食堂街に辿り着いた。


そして俺は、『百獣堂(ひゃくじゅうどう)』と書かれた赤い暖簾をかけていた、小さな店の前で立ち止まった。匂いはここから漏れ出ているようだった。初めて入る店だったため、俺は無意識に自分が着ていた茶色い革ジャンの襟を直し、片手をポケットに突っ込んでから、ガラガラと引き戸を開けた。


「いらっしゃいませ〜!」


その陽気な声の主は、2杯のどんぶりをカウンター裏のキッチンからテーブルへ運ぼうとしていた、俺より少し年下の、二十代半ばの青年。肩甲骨に届きそうなくらいの白髪をゴムで束ねており、白いTシャツの上に着ていたはずのブルーグレーのジャケットを腰に巻いていた。


彼と目が合った瞬間、俺の心臓はドクンと鼓動した。何だ…この現象は?青年を見つめているうちに、顔が熱くなって、鼓動がどんどん早くなる。他の客が全く目に入らない。周りの音も聞こえない。俺の心が、知らない感情に乗っ取られていく。こんな気持ちになるのは初めてだ。こんな風に、一人の人間に釘付けになるなんて…


ああ、そうか。これがいわゆる…『一目惚れ』ってやつか。


———


それから俺は、毎晩あの店に通い始めた。


緊張しながら引き戸を開けると、キッチンで料理をしていた青年は、笑顔で俺の方を向いた。


「あ、お兄さん!いらっしゃいませ〜!カウンター席へどうぞ〜!」


あまりにも頻繁に通っていたため、顔を覚えられていたのだ。俺はそれがたまらなく嬉しかった。自分の存在を知ってもらえるだけで、舞い上がってしまいそうだった。


様々な種族の客が、いつもテーブルを囲んで、青年が作るどんぶりを食べに来ていた。一人の青年が営む小さな店でも、これだけの人気を集められるのか。本当にすごいな。


客の間を通り、空いているカウンター席に座った直後、青年は俺の方へグッと顔を近づけた。


「いつものですよね?」


俺はかぁっと頬を赤らめ、顎を引いて固まった。


「あ、ああ…頼む…」


「オッケーで〜す!」


青年はニコニコと笑いながらそう言って、作業に戻った。


俺は胸に手を当て、バクバクと鼓動する心臓をどうにか落ち着かせようと、深呼吸を繰り返した。びっくりした…あんなに急接近されるとは…恐ろしい距離感だ…


俺は自分の赤い短髪をかき、フライパンで肉を焼く青年の背中を見つめた。そうしているうちに、またドキドキし始めた。華奢な体だが、程よく筋肉がついており、シャツに汗が滲んでいた。


俺はごくりと唾を飲んだ。どんどん青年の魅力に引き込まれていく。まずい。妄想が膨らんでしまう。俺は両手で自分の顔をパンッと叩いた。この変態野郎…!


「お待たせしました〜!」


俺は青年の声を聞いてハッとし、目の前に置かれた熱々のどんぶりと、キンキンに冷えたジョッキに気づいた。


「ヘルフレイムブルの焼肉丼と生ビールで〜す!」


「あ…ありがとう…」


相変わらず仕事が早いな。頼んでまだ数分しか経っていないのに。青年の手際の良さには毎回驚かされている。


彼が再び作業に戻るのを見送った後、俺は箸を手に取り、焼肉と白米をほぼ同時に口へ運んだ。やっぱりうまい。肉が上質なだけではなく、しっかり火が通っていて、タレも白米とよく合う味だ。それに、青年の真心や懸命さが込められているような気がして、より美味しく感じる。


ああ…幸せだ。こんなにも心が満たされたのは、いつぶりだろう。ずっと一人で戦って、金のために必死で努力してきた。仲のいい家族もいなければ、友達も恋人もいない。正直、寂しくて、虚しかった。だから、青年の存在が、俺にとって唯一の光なのだ。彼に会うために、俺は毎日頑張っている。


そして、いつかは…


いけない。また妄想を膨らませてしまっていた。俺はビールで雑念を喉の奥に流し、焼肉と白米を一気に頬張った。だが数秒後、ハッとして手を止め、噛むペースを落とした。


普段は結構早食いだが、この店にいる間は、なるべくゆっくり食べるようにしている。青年との幸せな時間を、できるだけ長く味わっていたい。本当は閉店時間までここに留まっていたいが、さすがにそれは迷惑なような気がする。気持ち悪がられたり、不審者扱いされたら、俺はきっと一生立ち直れない。これからも青年に会いに来れるように、適度な距離を保たなければ。


適度な…距離……


いや…遠すぎないか?自分から声もかけられないし、目も合わせられないし、何より…


(まだ名前も聞けてない!!)


俺が両方の拳でバンとカウンターを叩くと、キッチンにいた青年はビクッとして固まった。


「お兄さん!?どうかしましたか?」


俺はハッとし、慌てて誤魔化した。


「い、いや…なんでもない…!!驚かせてすまない…!」


なんてことだ。まだ会話すらしていないのに、早速悪目立ちしてしまった。ヤバい奴だと思われていないだろうか。怖がられていないだろうか。


すると、青年は微笑んだ。


「いえ…何もないなら、よかったです!問題があれば、いつでも言ってくださいね!」


俺は目を丸くして青年を見つめた。


や…優しい…!俺みたいな、荒そうで何を考えているかわからない客に、こんなに丁寧に接してくれるなんて…

顔が熱い。またドキドキしている。青年のことを、より一層好きになってしまいそうだ。


「すいませ〜ん!注文いいですか〜?」「あ、は〜い!」


その時、テーブルに座っていた客が呼んだため、青年はそちらへ向かおうとした。


「な…なあ!」


青年は再び立ち止まり、俺の方を向いた。


俺は頬を赤らめながらも、勇気を振り絞って尋ねた。


「あんた…名前、なんていうんだ?」


さあ、どうなる?青年は答えてくれるだろうか。迷惑じゃないだろうか。まず最初に自分が名乗るべきだっただろうか。


しかし、青年はニコッと笑ってくれた。


「ベルです!鈴の()のベル!お兄さんは?」


俺の中で、あらゆる感情がフワァッと広がった。ベル…鈴の音……彼にぴったりの美しい名前だ。しかも、自分の名前まで聞いてくれた。


「ヴォル…グ…」


俺は恥ずかしくて目を逸らし、小さい声で返した。


「ヴォルグさん…かっこいい名前ですね!」


そう言った後、青年は前を向いて客の元へ向かった。


俺はしばらく、その場で固まったままだった。かっこいい名前…初めてそう言われた。互いに名前を明かした今、俺と青年の心が通じ合ったような気がした。互いの存在を、改めて確かめ合えたかのような…


どうしよう…ものすごく嬉しい。


どうも、無刻カイです!

少し前に書いたBLを編集して投稿してみようと思います!17000文字くらいの短編なので、あまり長くはありませんが、一応連載です!

異世界と現実世界がごっちゃになってて、もうわけがわからないです!それでも大丈夫という方は、ぜひ最後までお付き合いください!

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