第六話 圧
名の売れたと冒険家言っていたが、そんな言葉で片付けられる人じゃない。
セレストの母親だと思われるティアさんは、
当時の冒険家の中で五本の指にはいるほど強かったことを始め、初めは霊獣契約をせずにその地位まで上り詰めたことや、どんな武器でも使いこなせるといったよくあるものから、
一人でドラゴンの群れを撃退、一国を敵に回すなど
根も葉もない噂が飛び交っていたのを覚えている。
確かに、急に冒険家活動を辞めたと聞いたが、まさか子供までいたとは。しかもその子供が目の前に...
「師匠がティアさんなら納得だよ...」
「母さんって、そんなにすごい人だったんだ。」
セレストは実感がなかったみたいだ。
しかし、セレストの話が本当なら、あのティアさんが殺されたことになるのか?
子供の頃に一度だけ会ったことがあるが、戦っている姿は、根も葉もない噂を信じさせてしまうほどの実力を感じるものだった。
あの頃と比べて力は落ちているだろうが、あの英雄を倒せる者が存在するだろうか。少なくとも、その状況を思い浮かべるのは不可能だ。そう考えていると、
上空から聞きなれない声がした。
「居るんですよね〜、それが。」
ッッ!?
今、声出したか?いや出してないはず。それなのになんで...
心を読まれた?
と言うか...
「君は...誰かな...」
「あ〜...失礼しました。勝手に心を読んでしまう。私の悪い癖でして。」
上空には、癖毛の男が立っていた。
アルカナは戦闘体制をとり、牽制しているが男は、こちらを小馬鹿にしているかのような態度で近づいてくる。
「私は、その英雄を殺した者の組織に所属しています。
アイディーです。」
アイディーと名乗る男は、わざとセレストには聞こえない声量で話している。アイディーの頬には不思議な紋章が刻まれており、アルカナは既視感を覚えた。
「...そうなんだ。覚えておくよ。」
「別に覚えなくて良いですよ。」
次の瞬間、セレストの喉元に刃が向けられる。
アルカナはすぐに反応し、セレストの元に向かい、刃を魔法で弾こうとする。すると、同じタイミングで、目の前に盾が現れ、攻撃が防がれた。
エデンの出したものだろうか、でも助かった。
「そのまま守ってあげて、その間に、僕がこの人倒すから。」
セレストはすでに霊獣使になったも同然だし、今更もったいぶる必要はないだろう。
「セレスト、よく見てて。これが霊獣使の戦い方だよ。」
「〈獣気解放〉"星霊竜"」
アルカナが魔法を唱えると空気が変わった。
初めて見た時は、突風が吹いたのかと思ったが、今改めて感じて、違うことに気づく。
圧だ。
この場を支配するかのような威圧感が襲ってくるのを感じる。アルカナには、もう見慣れてしまったが角と翼が生えていた。アストラルが元の大きさに戻り、エデンの援護でこちらに近づいてきた。
「ん〜〜。なんて豪快で、壮烈で、威風を放っている圧。
とても...不愉快です。」
「褒めてくれてるのかな。なら、もっと見せてあげるよ。」
「〈8.正義〉」
アルカナが魔法を唱えると、腰のあたりにゆっくりと金色の鞘と剣が現れた。
アイディーは得体の知れない魔法に警戒し、後方へ跳んだ。
鞘から剣を抜き、アイディーへと向ける。
「この剣、すごく切れるんだ。」
そう言ってみたものの、別にそんなことない。
この剣の能力は、相手に傷をつけることで、傷を少しずつ広げることができる。なんだけど...
「私、心が読めると言いましたよね。嘘をついても無駄ですよ。」
「その剣の本当の能力は、相手に傷をつけることができない代わりに、何回か斬りつけた部位の主導権を握ることができる。ですよね。」
でも嘘は好きですよ。とアイディーは饒舌にアルカナの能力の話を続けた。
騙されなかったか。
アイディーの心を読む能力は、今考えていることが分かるというより、深層心理とかの防ぎようのない所から情報を得るタイプだと言うことが分かった。まあ...
「ッッ!?」
アイディーが講釈を垂れているところを、容赦なく切りつける。
「能力が分かったからって、避けられないなら、意味ないよ。」
そのまま目では追えない速さで、アイディーの手足を切り刻む。すると、少しずつアイディーの動きが鈍くなっていくのを感じた。
「動けない...」
アイディーの意思ではないが、アルカナへ跪き、手を後ろへ回す。
「君は、何回切られたマズいのか考えるべきだったね。」
この能力は相手の魔力量によって切る回数が変わる。
目算で、五回ほど。だからアイディーの手足を五回ずつ切り、手足の主導権を奪った。ただ時間制限があるんだよね。
「〈桎梏〉」
アイディーの手首と足首に、魔力で出来た輪っかがかかり、小さくなっていく。最終的に手足が縛られ、地面に仰向けにされ、身動きが取れない状態にされていた。
「それで、どうしてこんなことしたのかな。」
「どうして、ですか。やはり覚えていないようですね。敵討ちですよ。私の家族の。」
アイディーが、目に涙を浮かべながら事情を話し始めた。
家族?
僕は今まで、何人もの敵と戦ってきた。だが、捕まえることはあっても、人を殺めたことはないぞ。アルカナは思う。
すると、アイディーが思考の最中に割り込んできた。
「まあ嘘ですけど。先程の話も、今...拘束されているのも。」
アイディーの手足に付いていた輪が消えていき、何事もなかったかのように立ち上がる。
しかし、攻撃に移るわけでもなく、服についた土を叩く。今度こそ攻撃かと思ったが、アイディーの背後に〈歪門〉が出現した。
「逃がすわけにはいかないな。」
「楽しかったですよ。それでは、また会う...。」
突然、〈歪門〉から手が出てきてアイディーを引き込んでしまった。予想外の出来事に少し驚いたが、危機は去った。安否確認のためにセレストの元へ駆け寄る。
「セレスト!大丈夫だった?」
「エデンが守っててくれたから大丈夫だよ。」
エデンは地面に倒れ込んでいた。アイディーがいた間ずっと気持ちが張り詰めていたんだろう。しかし、ここで休んでいると危険なので、アストラルに城まで運んでもらおう。
アイディーの件や霊獣使の申請、やる事は山積みだ。
「取り敢えず、城に戻ろうか。」
魔導者や魔法陣が雰囲気作りのためだけに設置されている。中央に円卓の置かれた、the作戦室で少女と男が話してる。
「私...まだ話してましたよね。」
男...アイディーは自分を引っ張った少女へ、ため息混じりに文句を垂れる。
「別にいいでしょ!カティが〈歪門〉出してなかったら危なかったじゃん。褒めて欲しいくらいだけどね〜...」
別に魔法は自力で解けたから、逃げれはしたのだが。
カティはアイディーを横目に見ながら感謝の言葉を待っている。
機嫌を損ねると面倒くさいな...
「はいはい、カティは偉いですね。」
「んふふ。ありがと!」
確実にお世辞だが、カティは満足そうに席へついた。
カティへ続いて、席を二つ空けて座る。
「そんなことより、ボスはいますか?」
「そんなことって...ま、いいけど。ボスはまだだよ。」
「ボスの指示で行ったんですけど...あの人、そういうとこあるんですよね。」
部屋を見渡しても、ボスはいない。指示を出されるたびに毎回こうだから、もう慣れてきているが。
「ワッ!!......ビックリした??」
何かが聞こえたが気のせいだ。
「...それで、例の子供の話ですが。」
「無視!?そりゃナイんじゃない?アイディー。」
「...出会うたびにそれをされる気持ちを考えてください。ノーイ。」
これももう慣れてしまった。
扉の開く音が聞こえなかったから、驚かすためにずっと部屋に潜んでいたのだろう。気配を消すことを得意としているのは知っているが、このために使うのはやめて欲しい。
「そりゃそうダネ。でも反応して欲しいナァ、ナンテ。」
「考えておきます。それで話の続きですが。」
ようやく、視察の話が出来そうな雰囲気へ持ち込むことができた。もう呑まれないよう気をつけよう。
「まだ霊獣使試験を終えたぐらいで、力はまだまだです。問題は星竜王と接触しているところですね。」
「それやばくない?流石に星竜王は無理だな〜。」
「それでソノコにも力も付いちゃっタラ、イヨイヨ手に負えないネ。」
ノーイは本当に困っているようだが、カティはその発言に似合わず口角が上がってしまっている。
「ですから早めに対処しなくてはいけない。そうですよね、ボス。」
また扉が開く音が聞こえなかったが、気づけば向かいの席にボスが座っていた。気だるそうだが、他の二人に比べればまだマシだ。
「そゆこと。やっと英雄を離せたのに。次は王様かよ...」
「あ、ボス!」
にやけていたカティは、目を輝かせ、笑顔は変わっていく。そのままボスへ飛びつこうとしたが、受け流され後方へ飛んでいく。
「星竜王が近くにいる今、俺たちにできるのは、ガキを監視することぐらいだ。あいつ怒らせたらどうなるか分からないからな。」
「よって、これから役割決めするぞー。」
アルカナはセレストとエデンを城の自分の部屋まで運んだ。その後、霊獣使の申請を進めていたが、かなり苦戦を強いられていた。しかし、ついに突破口が見えたらしい。
「やっと終わった〜。これで、今日からセレストも霊獣使だね。」
アルカナが霊獣使の申請を終わらしてくれた。何から何まで助けてくれるアルカナには頭が上がらない。
「ありがとう!やっと情報収集への準備が整ったよ。それで...なんとか解放?みたいなの教えてくれるんだよね?」
「"獣気"解放ね。いいけど今日はなしで、疲れた...」
今にでも教えてもらいたいが、流石に急かすことは出来ない。今日はゆっくり休んでもらいたいが、これだけは聞いておかなければ。
「じゃあ、最後に一つ質問!」
「あの人は誰?知り合いとか...じゃないよね。」
「あー...ちょっと待ってて。」
「顔に紋章があったんだけど、なんか見たことあるなーって思ったんだよ。えーと...これだ。」
アルカナは部屋の奥へ置かれていた書類の山から、一枚の紙を持ってきた。そこには、先程の男の頬にあった、紋章が描かれていた。黒い花の紋章だ。
「この紋章ってさっきの...」
「そうなんだよね。実は最近通報が入っててね。道にこの紋章が刻まれてたって。あいつらはティアさんの件の犯人だ。もしかしたら最近の事件とも関係してるかもしれない。」
「犯人が分かったの!?」
アルカナが放った言葉に唖然としてしまう。やっと情報収集をするための準備が整ったと思いきや、もうすでに尻尾を掴んでいたのか。
「言ってなかったね、ごめん。僕もさっき思い出したから。」
「それで、その人たちの名前って何!?」
「えっと...確か、名前は...」
役割決めも佳境に差し掛かり、最終的に、カティとノーイのわがままをアイディーが甘んじて受け入れることによって、幕を下ろした。
「決まったな。これで、会議終了だ。」
「え?これ会議だったの?みんな集まってないじゃん。」
カティは、とてもゆるい話し合いを終えた所で、先程までの話し合いが、会議であることが告げられた。カティは信じられないと言いたげな顔をしている。
「他のフタリは、別のトコロ見張ってるからイイノ。」
「後で私が伝えておきます。」
「よし。じゃ、締めるぞー」
「"アビス・グラジオラス"に栄光あれ。」
「栄光あれ」「あれ〜」「アレアレー。」
締めの時にはこれを言うことになっている。カティとノーイに関しては"あれ"としか言っていないが。
「お前らなあ。こういう時はちゃんとやるのが...」
「はーい。でも、カティもういかなきゃなので〜...それでは!」
ボスの説教が始まりそうだったが、カティはすでにドアの向こう側から顔を覗かせている状態だった。そのまま適当な返事をして、どこかへ走り去ってしまった。
「ワタシもー」
「私も行きますね。それでは。」
「お、おう...」
カティに続いて、続々と退室し始め、部屋にはボス一人だけになってしまった。
「ほんとに大丈夫か、あいつら。」
魔法
〈8.正義〉
金色の鞘と剣を生み出す魔法
この剣では、傷を与えることは出来ない。その代わり、両手足、頭、胴体を一定回数切りつけることで、一時的にその部位の主導権を握ることができる。
回数は相手の魔力量により変化する。時間は8秒
〈桎梏〉
四肢を拘束する魔法。
輪っかが両の手と足の周りに現れ、その輪を結合することで拘束する。手と手、手と足など自由に結合できる。




