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第十八話 思い出の花畑

最後に訪れたのは傾斜の緩やかな山だった。初めて来る場所かと思ったがある地点まで進んで気づいた。ここはあの時トレントと戦った山だ。気づかなかったのは多分前とは逆の方向から進んだからかな。


「ここは...アンシアは前に来てたよね?」


「そうなんだけど、生息地を調べてたらこの近くに巣があるって書いてたんだよね!確かプなんとかドラゴンだったかな?」


「あんな感じの?」


「そうそう!あんな感じの賢そうな顔で、いるじゃん!あの子達だよ!」


ひらけた場所にシュッとしたドラゴンが数匹ほど居た。エデンが言うには、名前はプラントドラゴン。草食で自分で野菜や果物を育てるらしい。そのことをアンシアに伝えて草食なら大丈夫だろうということで近づいてみた。近づいた時は流石に警戒されたが、敵意のないことを色々アピールしてみると通じたのか目が優しくなり作業へ戻っていった。


「ネルはどう?」


「何も感じないって。そろそろ行こ。皆んなありがとね!」


ドラゴン達へ手を振ると、心なしか見送ってくれている感じがした。その場を離れ再び山道へと戻った。


「見つからなかったね。まあ無事に帰れるだけ良いんだけど。」


「そうだね。でも楽しかった!」


「なら、良かったのかな。また探しに行く時は教えてよ。今度は僕も調べておくから。」


「本当に!?ありがとう!そうだ、お礼しなくちゃね!ついて来て!」


全力で走り出したアンシアに手を引かれ、驚かせたいから目をつぶれと言われ、絶対に転ぶと思いながらも勢いに身を任せどうにか転ばないようについて行く。道なき道を無理やり進み、たどり着いた場所は。


「素敵だね...。」


「でしょ!私の思い出の場所なんだ。」


目の前に広がる花畑の美しさに僕は息を呑んだ。花がカラフルだからなどではない。辺り一面が白で埋め尽くされ、沈む夕陽が花々を照らす。それはとても幻想的で秘境という言葉がよく似合うような、本当に美しい光景で...母さんにも見せたかったな。


「この景色が今日のお礼です!良いかな?」


「十分だよ。お釣りが出るくらい。」


「なんて冗談だよ!って、え?本当に?」


アンシアは冗談だったらしいが、僕は全然本気だ。景色を見て感動するなんて今までなかった。次いつ見られるかわからないし目に焼き付けておかなくては。


「本当に見惚れてるじゃん。ここね、ネルが教えてくれた場所なの。悩んでる時によく来るんだよね。」


「そんなに大切な場所を教えてくれるのは嬉しいけど良いの?二人だけの秘密の場所、とかだったんじゃ...」


「良いの!ネルが教えて良いよって。セレストはネルの命の恩人だからね!それにちょうど良い時間だから。」


ちょうど良い時間?言葉の意味はすぐに分かった。周りを見渡すと、ちょうど日が沈み切りそうで辺りも暗くなってきている。もう少し待ってと言われたので、花を観察していると辺りは完全に暗くなり見えなくなる。はずだった。日が沈みきり光が消えると共に足元の花が仄かな光を発し始めた。


「光を纏って闇夜を照らす、名前は光闇花(グロウナイト)。私はこの姿が一番好き。」


光るグロウナイトは闇夜を照らすとまではいかなくても、自らの周囲を優しく照らし輝かせる。その姿は健気で自分の役目を精一杯果たそうという気概を感じた。


「見せたかったな物はこれで終わり!どうする?暗くなってきたし帰る?まだ見たいなら大丈夫だよ!いつでも帰れるから!」


「大丈夫、もう目に焼き付けたから。メルセナも迎えにいかないとだし帰ろう。」


「了解!ではでは〜、イヴァンへの〜〈歪門〉!」


いつも通り空間が歪んでイヴァンの町が見える。その時だった。少しの揺れがあり花畑の中心に亀裂が走る。僕は咄嗟に全員を守れるように光の盾を展開した。


「え...。」


亀裂からツルが伸びて形を成していく。


「エデン!剣!」


「分かった!」


光で作られた剣がツルを切り裂く。しかし切り離した先からすぐにツルが生え変わりあまり効果は無さそうだった。さらにツルが伸びると同時に花畑が亀裂を中心に枯れ始めていた。それを見つけた時にかなり動揺して、エデンに攻撃を辞めてもらうように頼んだがこれが判断ミスだった。攻撃を辞めた瞬間にツルが急速に伸びて完全に人型へ変化する。ただの人間ってよりは御伽話に出てくる巨人って感じだ。


「攻撃しちゃったけど、友好的な何かの可能性ある?」


「ないな、初めから敵意を感じた。」


「そっか。ならどうしようか、あの魔獣多分花から魔力か何かを吸い取ってツタを成長させてるよね。倒すなら一撃じゃないとずっと回復されちゃいそう。」


「あ、あんな大きい魔獣を一撃で倒せる攻撃なんて...。」


僕達が考えている間でも魔獣は容赦なく攻撃をする。体を形成しているツルは花びらを散らしながらこちらに迫ってくる。盾があるから直接当たることはないが、どれほど耐えられるかは分からない。なるべく早く倒したいのに、攻撃も防御も花を散らすことにつながってしまう。それは避けたいところだ。ならばどうすればいいか、素早く一撃で倒せてしまう部位を見つければ良い!そういうことだ、そうするしかない。


「エデンはあいつのこと知ってる?」


「全く知らん。だが植物系の魔獣は経験上どこかに核があることが多い。そこを狙うのが手っ取り早いはずだ。」


「核ね...分かった、ありがとう。」


トレントは細い根を地面に刺して魔力を吸うことで体を動かしていた。吸った魔力を核に送るなら、トレントの核は多分木の幹の中。この魔獣は地中からツルが生えてきたし核は地中にある、かな?。面倒くさいな、とりあえず試してみればわかるんだけど。


「どうやって近づこうかな。」


「ち、近づく?近づけばどうにか出来るの?」


「絶対とは言えないけど、あの魔獣の核を見つけて壊すことができれば倒せるかも。」


「...そっか、よし。立ってアンシア。今動かなきゃ一生変れないぞ!私が囮になる。だからその隙に決めちゃって!」


アンシアは自分に言い聞かすように叫んだ。そして、獣気解放をして魔獣の元へ飛んでいった。魔獣は体のツルを解き風を裂く音を立てながらアンシアへ振りかざされた。


「そんな攻撃当たってあげないんだから!」


トレントと戦った時も戦い慣れているような印象を受けたが、体を軽やかに動かしてツルを避けている姿を見るとやっぱり動きがテキパキしているというか、無駄のない動きというか。


「獣気解放"聖馬(エデン)"。エデンは危なくなった時に盾を張れるように見てて。」


僕は飛び慣れていないので、魔獣へは走って近づこう。魔獣は僕の方にもツルを仕向けてくる。しかし、アンシアを攻撃していたツルの一部が僕の方にも来ただけ。これなら全部を相手するよりかなり楽になったはずだ。アンシアが攻撃を喰らってしまうまえに魔獣の体の正面へ無理やり突き進んだ。


「くらえ!」


周りに燃え移らないように、亀裂の中へ爆発力を弱めに設定した爆岩(ストーンブラスト)を打ち込んだ。あとは運だ、地中に核があるならこれで終わり。何も起きないなら体の中にも爆岩を打ち込む。すぐに亀裂から光が漏れ出して、地中から爆発音が聞こえた。すると魔獣は時を止めたように動きが止まってしまった。


「止まった、核を壊せた?」


「後ろだ!セレスト!」


声に従って、振り向くよりも先に背中側へ盾を展開する。そして状況を確認するために振り向く。すると何本ものツルが盾に絡みついていた。危機的状況の今するべきことをまとめると、魔獣がまだ動いている、つまり核が別の場所にあったということだ。ならやるべきことは一つ、体の部分へ爆岩を飛ばして核を露出させる!

とはいえ、さっきの爆弾は地中に埋めたから爆風を喰らわなかったけど、背後に逃げられず、魔獣との間に壁一つないこの状況で爆発させたら僕もダメージ喰らってしまう。それも必要な犠牲か?でもそれで負傷して魔獣生きてましたってなったら取り返しがつかない。もっと良い方法があるはずだ、考えろ、考えろ!

そうだ、光の盾を使えばもしかしたら。この盾は、確か足茸(レッグシュルーム)討伐の時にエデンが盾の内側から魔法を盾を貫通して外側に放っていた。それに盾の外側は魔法を反射する。目の前、僕と魔獣の間に盾を展開する。そして魔獣へ向かって魔法を打つ。


「〈爆岩〉!」


魔法は盾をすり抜けて、魔獣の腹部に突き刺さる。着弾後すぐに爆発させると、爆風が盾で反射されて僕には届かなかった。爆発によって腹部のツルが吹き飛び向こうまで見通せる風穴が開いた。そして見つけた。人間で表すと心臓の辺りにツルとは思えない黒い球体を。


「これだ!これさえ壊せば!」


爆岩の威力では傷が付いていない、それなら光の剣で。感覚は既に掴んだ。その感覚に従い剣を形作り...。瞬間、背中に衝撃が走る。視界が揺れて地面へと投げ出されてしまった。

この魔法の性質なのか、一度に出せる光の武器の数が決まっているらしい。剣を作ったあとに背後の盾が消える感覚があった。


「セレスト!くっ...私が倒す!」


アンシアは再び空高く飛び上がる。勝負は一瞬、ツタを振り回すのを辞めるタイミングを見計らって、下降する勢いのまま球体へ短剣を突き刺した。


「刃通んないっ!まだまだ!〈風剣〉(ウィンドブレイド)〈突風剣〉(スクオールブレイド)!」


刃も魔法も球体へ傷をつけることは出来ない。


「これでもダメ!?あっ!」


背中の翼にツルが当たりバランスを崩してしまった。立て直せず落ちる最中に追撃をくらい、花畑の端へ弾き飛ばされる。不幸中の幸いで飛ばされた場所にはツルが届きそうになかった。


「こんなところで倒れるわけには...行かない!もう一度!」


痛みをこらえ、体を起こす。再び球体へ攻撃しようと動き出した瞬間にアンシアの翼や角が消えてしまった。


「獣気解放が、解けた?大丈夫ネル!?...ネル?」


ネルは花畑に飛び込み翼を広げ、無防備な私を背にして立った。『私を信じて。』ネルの声が聞こえた。今、無慈悲にも魔獣はこちらへツルをで攻撃しようとしている。しかし怯える必要はない。だってネルに信じてと言われたから。私はネルを信じているから。ツルはあと少し伸びたら届いてしまいそうな位置で止まった。止めたのはもちろんネル、目の前に草で出来た...それよりも花の方が近いかも。花で出来たバリアが作られていた。


「え?何これすごい!新しい魔法?いや、ちょっと待って、ネルの姿変わってない?」


「そうよ、アンシア。私は進化したの。自分で言うのも何だけどね。」


「進化?進化したのネル?何でこのタイミングで?」


「知らないわ。でも...これだけは分かる。これは私のユニークで貴方を守る新たな力。貴方はこれを使ってあの魔獣を倒さなくてはならない。覚悟、出来てるわね?」


「もちろん!獣気解放"叢華竜(ネル)"!」


ネルの姿が変わった。鱗が花びらのように重なり、全身が純白になっていた。それに伴いアンシアの姿も同じように変化している。その姿はまるでこの花畑を守る妖精のようだった。

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