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第十七話 再会

一人だけ先に進んでいたメルセナが、僕がついてきていないことに気づいて、こっちへ振り向いて僕を探している姿が見えた。するとすぐに僕を見つけて『なんかあったか?』と言いながら駆け寄って来た。今起きたことを話すと、メルセナの表情が曇る。


「心配して来てみたら、なんだ?偶然来た町で偶然曲がり角でぶつかったのが偶然知り合いの女の子だっただあ?セレストには後で話をしなきゃいけねえみたいだな。」


「急にどうしたの?なんの話?」


メルセナの表情がさらに曇った。ここに来てから情緒がおかしいけど本当に大丈夫なんだろうか。


「えっと...アンシアはどうしてここに?確か倒れた後に、アルカナがお城まで運んでくれたはずだよね。」


「そうそう!起きたら全然知らない綺麗な部屋に居たからびっくりしたの、でね、廊下に出たら使用人さんに『ついて来て』って言われて...」


続く話は僕と似たようなものだった。玉座のある部屋へと導かれ、霊獣使の試験を受けなくてはいけないことを伝えられ、魔力量と戦闘力の検査を受けた。でも二つの魔法は覚えなくても大丈夫だったと言っていた。ネルは元から小さいから魔法を使う必要はないらしい。ただ一つ問題があって、


「魔獣と戦うときに失敗しちゃって...合格できてないんだよね!だからこの町で絶賛修行中!」


不合格だったことを伝えてくる彼女の声は、気分が沈んでいるどころか、活力さえ感じるような力強い声でどう反応すればいいかわからない。


「こんな所で何してるの...早く戻ってほしいんだけど...。」


アンシアの背後から小さな子供が現れた。迷子かな、この辺りには人も多いし、親御さんと離れてしまったのかもしれない。


「どうしたの...」「あっ、師匠!いやーごめんなさい!知ってる人を見つけたので話してたんです!」


し、師匠!?僕は慌てて口をつぐんだ。悟られないように視界の端で師匠と呼ばれた人物の姿を見る。髪は緑がかった黒色で短めで中性的な印象だ。身長は僕より一回り小さいぐらい、それでいて童顔だ。子供と間違えてしまうのも無理はない...はずだ。


「その師匠って呼ぶの...やめてほしんだけど...。」


「尊敬の表れですよ〜!」


「...もしかしてそこの二人は...アルカナ様に言われて来た?」


アンシアの言葉は華麗にスルーされ、次の話へと移った。アルカナという単語に少し驚いたが、アンシアの師匠もイグニのようにアルカナが手配してくれた人なのかもしれない。

僕が『そうです。』と答えると、師匠さんは表情を

一つも変えずに淡々と話した。


「そう...困ったことがあったら...僕か...その辺の団員に話しかけて...。それじゃ...。」


「実は修行の途中なんだよね!急にネルがここまで飛んでいっちゃったから追いかけて来たんだけど、そろそろ戻らないと!またね!セレストとエデン、それに...お兄さん?」


アンシアはこちらへ微笑みかけてこの場を離れていく師匠さんの元へ走って行った。思わずお兄さんという言葉に笑ってしまいそうになったが無理やり収める。アンシアの足音を聞き、振り向いた師匠さんは何かを話していた。途切れ途切れだが『ネルの事はあの子達に手伝ってもらって。』こんな感じのことが聞こえた。話を終えてアンシアは元気よく『ありがとうございます!』と言い、こちらへ走って来る。


「今日の修行は休みだって!そういえば二人はなんでここに来たのかな?数日先輩の私が案内をしてあげようか?」


「それは嬉しいんだけど話が聞こえちゃって、ネルがどうしたの?まだ何か回復できてないとか?」


「いやいや!ネルは元気いっぱいだよ。師匠にネルと一緒に戦うなら進化しないと危険って言われただけ。」


進化しないと危険?進化という言葉の意味は分かるけど、それがどのくらい重要な事か分からなかった。メルセナの方を見てみると普通に相槌を打っていた。わかっていないのは僕だけらしい、質問で話の流れを止めるのもあれなので、自分なりに考えながら話を聞いていると。


(私が説明しよう。)


(っ!?ありがとう!)


脳内に直接声が流れてきた。エデンが感覚共有をしたようだ。これが初めてというわけではないのに、突然のことに少し驚いてしまった。


(ああ、まずドラゴンの特徴について理解しておく必要がある。)


(えっと...特徴って、羽とか角とか?)


(それらもだが特に鱗だ。というのもドラゴンは適応力に長けた種族と言われている。)


(そう、灼熱の火山や極寒の雪原、天空、地底、古今東西ありとあらゆる場所に生息している。それを可能にさせているのが、彼らの変幻自在な鱗だ。ある一定の条件を満たしたドラゴンは、その環境で生存出来るように鱗を変化させ、適応する。その結果、元の姿とは異なる姿へと変わることがドラゴンとしての進化というわけだ。)


(確かにいろんな種類のドラゴンがいたね。アストラルとか、イグニさんのフランとか。)


フランはワイヴァーンで赤くて火を操れるユニークがあって、マーレアはワイアームで青色で、アストラルなんかまさにドラゴンって感じで、色は紺色で夜空みたい。ユニークは...あれはなんだ?分からないけど、これらのドラゴンが元々はただのドラゴンだったとするなら、この適応力というのはとてつもない力を秘めていることが分かる。


(つまりネルがまだその条件を満たしてなくて、進化出来ずにいるってことか...。でも、それって何か問題があるの?)


(これは私の考えだが、ドラゴンは進化と同時に強力な魔法を習得するらしい。もしこれがユニークにあたるのならば、獣気解放の際に戦力の差が生まれるのは明白だろう。)


(確かに、もしそうなら強くなれるんだろうけど...。結局、進化できる条件がわからないからネル次第になっちゃうね。)


(いずれにせよ、私の知っている情報はこれぐらいだ。メルセナが喋っているからこれで話は終わる。)


そう言って、エデンとの感覚が途切れた。


てのを聞いたことあるぜ。」


「...ごめん。なに話してたの?考え事してて聞いてなかった。」


「おまえまじか!?あー簡単に言うと、ドラゴンの進化ってのは、姿が変わってユニーク覚えるって話だ。」


「そうなんだ!魔獣についても詳しいんだね。」


「職業柄な、魔獣の情報は知っといて損はねえ。」


僕の中の傭兵って職業像がぐちゃぐちゃになっていく気がする。いつでも調べることはできるからそれまでは万能職業という認識でいいや。そんなことよりエデンのユニーク説はあってるみたいだ。


「それで、どうしたら進化するの?」


「えっと...ドラゴンの習性って謎が多くて判明してないんだって、でも師匠がドラゴンは生まれた場所の環境に沿った進化をするって言ってたから、とりあえずこの子の故郷へ行こうと思ってる。」


「そこまで分かってんなら簡単だな。そのちびっ子の故郷は近くにあんのか?」


「実は、ネルも覚えてないみたいで。」


「さっき言ったことはなしだ。情報がないとなると流石に厳しいかもしれねえな。」


「...いや〜途方もない話だよね!すぐに見つかるわけでもないし、全然気にしないで。二人は二人の目的を目指して頑張ってね!」


ドラゴンが沢山いる場所に一人だけで行くというのを聞いて、頑張ってと見送れるほど僕の肝は据わっていない。どうせならネルが進化するまで見届けたいくらいだ。そこで僕は考えた。この街を一日二日離れたところでアビグラを見失うことはないだろうと。確信はない、僕の感を信じよう。


「僕にも手伝わさせてよ。人数は多い方がもしもの時に安全だし。だめかな?」


「え?だめじゃないよ!すごく嬉しい!」


「良かった。僕は行くけどメルセナはどうする?」


「お前すぐに問題に頭突っ込む質だから行く前提で話してたわ。それに、どうせ俺は王様から情報聞いてから動くし、そもそも俺はお前のこと見張っとかねえといけねえからな。」


問題に頭を突っ込みがちな訳じゃなくて、困っている人を見ると放っておかないっていうか、そういう性分なだけだ。


「そういう事なんだけど、どうかな?」


「二人とも、本当にありがとう!」


「それで場所に見当はついてんのか?」


「ネルと初めて会ったのがイヴァンだから、その周辺が怪しいと思って。ドラゴンの生息地をメモしてみました!」


アンシアは地図を取り出してイヴァンを指差す。イヴァンが示された場所の周りに赤い丸で囲まれている山や湖、森が幾つもあった。


「イヴァンってここから一番遠い町じゃねえか!」



メルセナの言う通り、ドラゴリニスの首都を中心として見ると北にイヴァンがあり、南東にリドルムがある。この距離なら移動だけで時間が過ぎてしまうだろう。


「今から向かうなら、日が沈みきる寸前くらいになるね。」


「え?どうかしたの?」


「ちゃんと地図見て見ろって、これじゃ往復で一日は使っちまうだろ。」


「あー...まあまあ、とくとご覧あれ!」


アンシアは自信に満ち溢れた顔で左に手を伸ばす。そして魔法を唱えた。その魔法は〈歪門〉(ワープゲート)、空間が歪み扉ほどの大きさに広がった。これが使えればと頭に浮かんだが、アンシアはしっかりと習得しているらしい。以前も覚えようと思ったがなんだかんだ忘れていた。これから長距離移動も増えるだろうし、そろそろ本当に覚え時かも。


「お、お前歪門使えんだ...。」


「ふっふっふ!そのとおり!これでイヴァンまで一っ飛びなのだ!」


「よかった。それじゃあ安全第一で、ネルの故郷探しに行こう。」


歪門でイヴァンを囲む壁の外側に出た。


「まずは近場の湖から行ってみよう!」


「湖なら水を使うドラゴンがいるな。確か友好的な種類が多かったはずだから下手なことしなきゃ安全に過ごせる。」


なんだか下手なことをしてしまいそうな予感がしたが、本当に安全に過ごすことができた。湖へ行くと青いドラゴンが数匹いて水遊びをしていた。似たような見た目なのに大きさは色々だった。進化の条件を満たしたタイミングの差なのかな?少し近づいても攻撃されることはなく少し歩き回りその場を離れた。


「ネルはどう?」


「変化なし!ここには何も感じないって。」


地図を取り出して、次に向かう目的地を探す。


「ここだ!次は火山!」


「火山か、火を使うドラゴンは気性が荒いらしいから、警戒しながら回るぞ。もし見つかったら跡形も残らねえと思え。」


「まあ、見つからなければ大丈夫でしょ。」


見つかった。登りは順調だったから油断してしまった。下っている最中に石を蹴り飛ばしてしまい、寝ていたドラゴンに当たってそのまま追いかけられている。足を止めたらすぐにでも追いつかれそうな速度で迫ってくる。急な山道を走り抜け平坦な道へ出た。まあ追いかけるのを止める気はなさそうだが。


「ストーーップ!よーしよし落ち着け、レイズ。」


その一声でドラゴンは急停止してその場へ降り立った。そこに立っていたのはイグニさんで、ドラゴンを煽てるように撫で回していた。


「お前らこんなとこで何やってんだ?」


「はぁ、はぁ、ありがとうございます。今この子の手助けをしてて。」


「へぇ〜、まあ頑張れよ。こいつは俺は持って行っからな。」


「は!?」


「契約はまだ終わってないだろ?あー...あれだ、報酬もまだ出してねえしな。ちょっと付き合えよ。」


「ちょっと待て、契約っていつまで...」


「いいからいいから。」


メルセナは力強く肩を掴まれた。しかし抵抗も虚しくどんどんと距離が離れて行く。助けを呼ぶ声が響くが僕にできることは無事に帰って来れるように祈ることだけだ。


「あの人誰?あとお兄さん連れていかれちゃったけど大丈夫?」


「あの人はイグニさんだよ。あとメルセナはお兄さんじゃない。」


「イグニ?へぇ、騎竜隊の隊長やってそうな名前だね!」


そういえばイグニさんは魔法で誰かわからなくしていることを忘れていた。アンシアの態度を見るにどうやらただの同名な人だと思っているらしい。僕が詳細は伏せて説明するとアンシアは驚きが遅れてやってきたのか目を見開き信じられないと言わんばかりの顔でこちらを見た。


「嘘、じゃないよね。セレスト嘘苦手そうだし。そっか、全く気づかなかったな。...まあまたいつか会えるでしょ!それでどうしよっか。二人だけじゃ危ないかな?でもあと数カ所で周りきれるし...」


「残ってる場所次第だね。ここみたいに危ない所なら辞めた方が良いかも。」


「うーん...ならもう一箇所!距離は遠いけど...ここなら安全だよ!」




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